113.お仕事!(2)
「おいしい~!!」
「よく頑張った、とても助かったよ」
ルカのお父さんに報酬のお菓子を貰いご機嫌な私。
好きなだけ選んで良いって言われたから、全種類を持てる分だけ掴んでやった。おかげで、私のぽっけはお菓子でパンパンだ。
「あとはコイツに任せて、祭を楽しんでくるといい」
「親父ぃ!?」
「お仕事頑張ってね」
首根っこを掴まれたルカは、悲鳴のような声を上げながらそのまま屋台の中へと連行されていった。お祭りで遊ぶ気満々だっただけに、その顔は絶望に染まっていたように見えた。
……嗚呼、かわいそうに。
でも残りの在庫もそんなに多くないから、あと少しで捌き切れるんじゃないかな。
「私もまだまだ働けるぞ。ルカ、お前も私を見習え」
「……分かったよ。売ればいいんだろ、売れば」
一方のヴァルはまだまだ元気そうで、やる気に満ち溢れているようだった。その熱意にあてられたのか、ルカも渋々といった様子で腰を上げた。
まあそれはともかく。
労働を終えた私は、お菓子を貪りながらセレスのもとへと駆け寄った。通行人をかき分けながら、道路を挟んだ対岸へと渡る。
「みんなお待たせ!」
「ルーナ、頑張った」
それなりに長い時間待っていたというのに、セレスは嫌な顔一つせず、私の頭を撫でながらそう言った。
「どうだった、楽しかった?」
「うん!」
「お疲れ、似合ってたぞー」
「ありがとうライル!」
アイラとライルからも称賛の声が飛び、私はもうこの時まんざらでもない表情をしていたと思う。
ぷるぷると尻尾を揺らし、アイラに抱きついて戯れていたところで、突然後から声がかかる。
「ご機嫌よう、ルーナ」
「ティーナ! 久しぶりっ!!」
声ですぐに分かった。その凛とした声は、クリスティーナのものだった。
私は咄嗟にくるりと反転、振り向いたその勢いのままにティーナにも抱きついた。
「ちょ、ちょっと、いきなりなんですの!」
「ご、ごめん……お茶会以来だったし、つい……」
いきなり抱きつかれるような形になって、ティーナは耐えきれずにどさりと尻もちをついた。背後が雪の山だったおかげで、なんともなかったけど。
思わず張り切っちゃったよ……。体についた雪をぱんぱんとはらい、私達は立ち上がる。
ティーナはこの所為でぷりぷりと怒っているが……その怒ってる姿もなんだか可愛らしい。
「ティーナは、お祭りに遊びにきたの?」
「ええ、その通りですわ」
ティーナは一転して機嫌を戻し、くるりとその場で回ってみせた。
鮮やかな色のドレスではなく、少し地味なベージュのコート。丈が長く、裾が足元まで伸びている。
もしかすると「お忍び」的な感じなのだろうか。服装だけ見れば、普通の町娘のようにしか見えない。
ただこの可愛らしい顔とサラサラな金髪を見れば、その上品さを全く隠し通せてはいないのだが、まあこれはこれで可愛いからオーケーだ。
「あなたが店員をしていると聞いて急いだけれど……どうやら手遅れですわね」
「そんなことないってば。ねっ、来て!」
どうやらティーナは、私の働きを一目見るためにここまで来てくれたようだった。
ニアミスだ。でも大丈夫、まだこの対岸に屋台はあるし、商品もまだまだ残っている。
私はティーナの腕をぎゅっと引っ張り、道路を挟んだ反対側にある屋台に連れていった。
そうして、さきほどやっていたお仕事よろしく、ティーナにお菓子をおすすめする。
「どれがおすすめですの?」
「全部!」
まあ多分イチオシは、もちろんこの金平糖風のお菓子なんだろうけどさ。でも他のやつも引けを取らないくらいに美味しいから、どれが一番かなんて私には到底選べない。
ティーナはひとつため息を付いて、自身の懐から財布を取り出した。
「全種類を1つずつくださいまし?」
「えっ、いいの? ありがとう!!」
「ルーナ、あなた商売上手ですわね」
結局ティーナは、全種類のお菓子を購入することとなった。
そういうつもりじゃなかったんだけど、まあその選択がベストだよ。どれを選んでも後悔しない、素晴らしい味なんだから。
「嬉しい……」
「何か言った?」
「い、いえ、なんでも」
ティーナは何かぼそっと呟いていたが、雑踏の音に紛れて聞き取ることはできなかった。
だけどそんな彼女は、なんだか嬉しそうに自分の腕のブレスレットを見つめていた。銀色に輝くそれは、私とセレスの腕にもある。
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