112.お仕事!(1)
翌日、ついに迎えた星降祭当日。
街はかつてないほどに賑わっていた。まだ雪がずっしりと積もる中、メインストリートにはたくさんの人の往来があった。その熱気だけで雪も溶けてしまいそうなほどに、みんながみんなお祭り気分だ。
10年に1度の伝統行事、そりゃあ盛り上がるのも当然だ。雪かきが間に合ってよかったよ。
除雪の結果、かろうじて出来た沿道のスペースには屋台が点在している。休みのお店も多い中、こうやってお祭りを盛り上げる要素の一つというわけだ。
かくいう私も、その屋台の中。
ここはルカのお父さんのお店の屋台。大元のお店をお休みにする代わりに、こっちで出張販売をするって形だね。
ちんまりとしたテントの中には、私とルカとヴァルの姿があった。割とギチギチで狭い上に、過半数がドラゴンであるということには目を瞑ろう。
「いらっしゃいませー!」
私はそんな屋台の前に立ち、元気よく通行人に挨拶をしていた。要は売り子ってことだ。
昨日ルカに屋台を手伝わないかと誘われ、二つ返事で了承した私は、こうやって一生懸命仕事に励んでいる。一張羅である青のワンピースと、初出しの紫のローブを身にまとって、愛嬌たっぷり、お客さんを呼び込んでいるのだ。
ワンピースはいつも着ているお気に入りのヤツなんだけど、……ローブというのが実はフードの部分に三角形の飾りが縫い付けられている。
この三角形の飾り、頭頂部から外れたところに2つ。フードを被ったときに、ぴょこんと立ち上がるようにデザインされていた。
――要は猫耳ってやつだ。
角に猫耳に、なんだか頭の上が渋滞しているような気がしなくもないが、これはこれで可愛いから良し!
いつこんなの着るんだ、なんて常々疑問に思っていたけれど、今日この日ならあまり違和感はないはずだ。
「お前……張り切ってるな……」
「ふふふ、頑張ったらおやつが貰えるって聞いたから!」
私の報酬は、この売り場にならんでいるお菓子だ!
昨日試食させてもらった金平糖風のお菓子に加えて、クッキーやパウンドケーキまである。このお菓子たちが私を待っているのかと考えれば、これだけ張り切るのも当然ってことよ!
そんな私の姿を微笑ましそうに見守るのは、アイラとセレス。私が手を振ると、道路を挟んで手を振り返してくれた。
一応ライルもいるけど……退屈そうに壁にもたれかかっていた。
警備の都合がどうとかって隊長さんが言っていたけど、なんだか待ってもらうのは申し訳ないね。でもせっかくの晴れ舞台、その分しっかり頑張ろう。
「こんにちは、こちらを1つ頂けるかしら?」
「あっ、いらっしゃいませ!」
そんなことを考えていると、お店の屋台に1人のお客さんが。エプロンを巻いた、主婦らしき女の人だった。私は元気よく、満面の笑みで応える。
彼女は一度商品を見渡すと、左の方にあるクッキーを指さして言った。
「わかった! クッキーが1つだね」
「ええ、ありがとう」
「こっちのお菓子もすっごく美味しくて、見た目も可愛いくて……これもどうかな?」
「あら、そうなの? ならこちらも1つ頂けるかしら?」
私がおすすめしたのは金平糖風のお菓子。宣伝トークが功を奏したのか、ついでにこっちも買って貰えた。
ふふ、成功だ。私ってば商才があるのかも!
まあでも、とても美味しいから、きっと買って損はないはずだ。私が保証するよ。
「ルーナ、お前やるな」
「えへへ」
テキパキとお金を受け取り、商品を手渡すヴァル。
そんなヴァルが、珍しく私を褒めた。あんまり彼女から褒められることがなくて、私は単に頭を掻いて照れることしかできなかった。
「つい、この瓶を見て買ってしまったわ。綺麗ね」
「これも私が考えたの!」
「あら、ステキ」
そんなお客さんが指さしたのは、売り場においてある瓶。星型のお菓子がそこに詰められていて、どんな見た目のお菓子なのかパット見で分かるようになっている。
びっしりと詰まった星屑たちは、色とりどりカラフルに輝いていて、まるで美しい星空を眺めているかのようである。
このお菓子、販売するときには茶色い紙袋に入れられているのだけど、これだと星の美しさや可愛らしさが見えない。だからこそ、その見た目を伝えるために、サンプルとして透明の瓶を置いておくことにしたのだ。
ずばり、このサンプルは私の発案だ。私ってば天才!
「ありがとう、またね!」
商品を受け取り、満足そうな表情のまま立ち去るお客さん。その背中を、私は手を振りながら見送るのだった。
そんなこんなで接客を終えた私だったが、休む暇もなく次のお客さんがやってくる。
「お前のせいで大忙しだぞ!」
「ああ、嬉しい悲鳴だ」
お昼に差し掛かり、人の往来が増えるにつれて、屋台もどんどんと忙しくなっていく。矢継ぎ早に売れていくお菓子たち、そして忙しなく作業をこなしていくヴァルとルカ。私の営業活動にも精が出る。
私もそれに負けないよう、声を張り上げながら呼び込みを続けていた。
「この星のお菓子をください!」
「全部を3つずつ」
「尻尾触ってもいいか?」
なんか最後変なやつがいた気がするけど、それは無視だ。
それはそれとして、やはり売れ行きは好調だった。ちょっとした人だかりができて、アイラとライルが間に割って入る一幕もあった。
お祭り効果というのは凄まじいもので、みるみるうちに在庫の山がなくなっていった。
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