111.お菓子
星降祭の前日、あれだけ断続的に降り続いた雪も止み、空を見上げれば真っ青な雲一つ無い晴天が広がっている。
あまりの雪の多さに、お祭りも縮小せざるを得ないかと思ったんだけど、彼女の活躍によって何とかなった。
「ヴァル、がんばれ~」
そう、この日一番活躍したのはヴァルだった。
真っ赤な大きいドラゴンが市街地を闊歩。端から見ればドラゴンによって襲撃されているようにしか見えないけど……しかしそれは、騎士たちとの協力のもと行われる除雪作業であった。
具体的には、ヴァルの翼に紐をくくりつけ、その後ろに専用の器具を装着。その器具というのが、木の材をくの字型につなぎ合わせ、さらにそこへ重しをつけたもの。
これをヴァルが引っ張ることによって、器具が引きずられ、地面に積もった雪が街道の横に押しのけられていく寸法だ。
これが結構効率よくて、除雪車よろしく地面の雪がどんどんと押しのけられていく。ヴァルを先導させて、後方に控える騎士たちが取り切れなかった雪をシャベルで除いていくだけ。
数回通過するだけで、馬車が通行できるほどの道が完成するというわけだ。
そして私はというと、そのヴァルの上で寝っ転がっているのだった。
もっと正確に言うと、操縦手としてルルちゃんが跨る。そしてその膝の上に、私がいるという形だ。
……えっ? 私の仕事は、だって?
……応援団……かな?
「ははっ、どうだ。これで追加の給料は間違いないなっ!」
「もちろんです、これでは文句の付けようがありませんね」
ヴァルはとても機嫌が良さそうだった。
ルルちゃんの褒め方というか、おだて方というか。なんだかんだで二人は相性が良くて、ヴァルもこうやって素直に仕事をしてくれている。
そうしてゆっくりだけど、止まることなく確実に開けていく路面。
流石にこれは、ヴァルのおかげだと言わざるを得ないね! 追加報酬も堅いよ。
そんな2人のほのぼのとした会話に耳を傾けつつ、私は心地よい揺れにうとうとと寝ぼけ眼を擦るのだった。
「菓子屋のドラゴンさん、私達のために有難うね」
「ほらよ、うちの自慢の果物だよ!」
これは街の人々も同じ気持ちだろう。その証拠に、飛び交うのは感謝の言葉ばかり。たまに果物とか、差し入れらしきものも飛んできて、ヴァルはそれをそのまま口でキャッチして貪っている。
あのエストラーダ地方で忌み嫌われていた竜はどこへやら。すっかり更生したといっても過言ではない。
「ヴァル、そろそろ休憩しましょうか」
「いや……私はまだまだ働けるぞ?」
「そうでしたね、ヴァルは強いですもんね」
「そうだろう、そうだろう!」
「ですが、後ろの騎士たちがお疲れのようなので、彼らのために一旦ストップして貰うことはできませんか? ちょうどキリの良いところですし」
「はぁ、しょうがないな。これだから人間は……」
なんて悪態をつきながら、まんざらでもない様子のヴァル。
そんなルルちゃんの指示通り、ヴァルはその歩みを止め、道の隅っこにぺたりと座り込んだ。ルルちゃんと私も、その上からすたっと飛び降りる。
「おーい、ルーナ~!」
むぎゅっと地面の雪を踏みしめたところで、後ろの方から声が聞こえてきて振り返る。
聞き覚えのある声に、私はすっかり笑顔になった。
「エミル! ルカ!」
「やっと見つけた……」
「こんなにおっきな目印があるというのに、ずいぶん探したぞ」
少し表情に疲れが滲んでいる様子の2人。その「おっきな目印」とは、恐らくヴァルのことだ。
「ごめんね、お疲れ様。……それで、私に何か用?」
翼をパタパタと動かして、二人の視線の高さにまで浮上する。
そんな私の姿を見て、ルカは何やら自慢げに自分の懐を探り出した。
「見てみろ、これ!」
「…………?」
おもむろに取り出したるは、何の変哲もない紙袋。丸パンが1個入るくらいの小さな袋だったけど……なんだか中からしゃらしゃらという音が聞こえてくる。
気になった私は、ふよふよと浮遊状態のまま袋の方へと近づいた。
「な、なにこれ!」
「すげえだろ、この星降祭のために親父が作った新作だ」
袋の中には
赤や青、黄色などいろんな色があって、太陽に当たるとキラキラと光が通り抜けてきれい。
まるで金平糖を一回り大きくしたような見た目だ。星降祭にちなんで、流星をモチーフにしているのだろう。
「ねえねえ、ルカ! 食べてもいい!?」
「当たり前だろ、お前のために持ってきたんだ。ほらっ」
ルカは手に持っていたそのお菓子を、宙に向けて放る。私はあんぐりと大きな口を開けて、その流星をかぷりと捕まえた。
「ん~、おいしい~!!」
第一印象は、やっぱり金平糖って感じだった。砂糖が真正面に出た甘みと、シャリシャリっという硬い食感。
だけれども、金平糖とは違って少し酸味もある。どちらかというとラムネにも近い味だ。突き抜けるようなさっぱりとした後味が、これまた美味しい。
すぐに口の中で溶けて無くなるのが難点だけど!
「気に入ったか?」
「うん、とっても美味しい!!」
「僕も食べていいかな?」
「もちろん」
私のリアクションを見て感化されたのか、エミルもお菓子に食らいついていた。おそらく一度食べたことはあるだろうに、初めてかのような新鮮な表情で貪っていた。
うんうん、たしかに美味しいよね。私も定期的にルカにおかわりを貰いつつ、ぽりぽりとお菓子を食べていた。
そして、ひとしきり平らげたところで、ルカからある提案があった。
「それでだが、ルーナ。……ひとつ頼みがあるんだが、聞いてくれないか?
「私にできることなら。どうしたの?」
「実は俺の親父が星降祭で屋台を出すんだが、お前もそれを手伝ってくれないか?」
「や、屋台?」
私は空中でこてりと首を傾げた。
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