108.大雪(1)
星降祭が本格的にはじまるまで、あと2日。その日は雪が降った。
この辺りは比較的涼しい気候だけど、その代わりに雨があまり降らない。そのため、冬になって雪が降ることはあっても、それが積もることはあまりない。積もったとしても、せいぜい数センチ程度――そう聞いていたのだが、
「大雪だね!」
「そうね、私も見るのは初めてよ」
アイラと窓の外を眺めながら言った。
この日は、まさに大雪。窓の外一面が真っ白で覆われ、キラキラと太陽光を乱反射して輝いていた。たった一夜でこんなになっちゃうんだから、驚きである。
星降祭に重なるとは、なんてミラクル!
そんなレアな現象に、私のテンションは爆発していた。
「外、行ってくる!」
「ちょ、ちょっと、気をつけてね!」
窓から飛び出すと、ふわりとグライダーよろしく滑空。そしてそのまま、一面の銀世界にぼふっとダイブした。
屋根の下は落雪のせいで
「たっ……たのしい……!」
楽しい時に楽しいと口にする人はあまりいないと思うけど、思わず口に出しちゃうくらい私は興奮していた。私の中の子供心がくすぐられるよ。
ひんやりと冷たくて、ふわふわで気持ちよくて、私は無我夢中で遊んだ。
途中、なんだか無性に雪を食べたくなって、思わずその辺の塊を食べてみたんだけど、大量の土が口の中から出てきたのでとても後悔した。
……みんなはやらないほうがいいよ。
「セレスも一緒に遊ぼうよ!」
雪の中から頭を出したところで、窓の縁に顎を乗せてぼーっとしているセレスと目が合った。
彼女を呼ぶと、セレスはむくりと起き上がって、駆け足で外に出てきた。少々鼻息が荒いのは、多分喜んでいるからだ。
「セレス、寒くない?」
「大丈夫」
セレスは長袖のワンピースという、こんな雪の中では無謀な格好をしていたが、特段寒がっている様子はなかった。
かくいう私も、一応今はドラゴンの姿で全くの服を着ていない――要は全裸の状態なんだけど、別に寒くはない。
ドラゴンの体ってのはすごいんだなぁ、なんて他人事みたいに思う。
そんなセレスは、ぐにゅぐにゅと雪をゆっくりと踏みしめながら、私のところへとやってきた。
そしてその場でしゃがみ込むと、私の頭を撫でる。
「ふふふ、何して遊ぶ?」
それだけで簡単にご機嫌になった私は、尻尾を揺らしながらセレスに聞いた。
まだ朝だし、お昼ご飯までいっぱい遊ぼうよ! ねっ、セレス!!
◇
お昼ご飯を食べおわったところで、ライルに声を掛けられる。
「なあ、ルーナ。雪かきを手伝ってくれないか?」
「雪かき……大変だね。私にできることなら手伝うよ」
「ああ、助かる。もうすぐお祭りだと言うのに……これじゃ露天は厳しいかもな」
「ええ! それは困る!?」
「なら少しでも雪を減らすことだ。まあでも……難しく考えなくていい。来てくれるか?」
露天って、お祭りの一番の醍醐味じゃん! それが無くなるなんて、私耐えられない。
これは少しでも力になれるなら、私も頑張るしかないね。そもそも雪かきという作業自体にちょっと興味もあったので、私は快くその仕事を受けることにした。ついでにセレスもついてきたし、これなら百人力だね!
「ライル、ちょっとまってて。着替えてくる!」
「おう、正面入口で待ってるぞ」
私はそう言うと、セレスの腕を引っ張って駆け出した。
別に今の格好のままでも別に平気なんだけど、なんだかそれじゃ冬っぽくない。今は人間の姿、せっかく隊長さんに用意してもらった服があるのだから、着ないと勿体ないってことよ。
私たちが駆け込んだのは、アイラの部屋。そこには、私とセレス専用のクローゼット代わりの箱が置いてあった。
「ルーナ、似合ってる」
そこから取り出したのは、青と紺の中間くらいの色の厚手のロングコートだ。裾や袖口の部分には、もふもふのファーがついていてかわいい。足元はズボンを履いているんだけど、コートの裾が丸く広がっていてスカートみたいだ。
これにコートとおんなじ色のブーツと手袋を合わせたら完璧だ。
まさに冬の装備。もこもこでとても暖かいし、なにより可愛い。
「セレスも似合ってるよ!」
「嬉しい」
セレスは私の色違いだった。オレンジというか、ベージュというか、私の青とは相反する暖色系の色が基調で、こっちはこっちでもかわいい。
なんだか姉妹みたいで、嬉しくなっちゃうね。
こんなにたくさんの服を用意してもらって、特に予算的に大丈夫なのかと心配になるんだけど、実はこれはプレゼントらしい。誰が贈ってくれたのかは教えてくれないけど……明らかに作りが良いから、もしかして王家の皆さんからだったりする?
まあそんな冗談は置いておいて。
準備ができた私達は、また駆け足のまま廊下を駆け抜ける。目指すは正面入口。
窓の外は相変わらずの銀世界、ひんやりとした空気が頬を伝う。
よしっ、雪かき頑張るぞー!
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