65.パーティー(1)

「わぁ~、かわいい!!」

「似合ってるわよ」


 アイラの賛辞に、私はえへんと胸を張る。

 私が身につけているのは綺羅びやかな白のドレス。差し色として青色のリボンやフリルがついていて、とてもかわいい。


 わしゃわしゃと頭を撫でられて、せっかくセットした髪がぐしゃぐしゃになってしまった。やめてよ!

 ――そうは言いつつも、私の尻尾はゆらゆらと揺れていたんだけどね! 体は素直です!


 街から戻った私達は、夕方から開かれる会に向けて準備を進めていた。夜会というか、パーティーというか……ご飯を食べて、お話をするだけの集まり。

 参加する人が誰なのかは知らないけど、主催が王家ってことは結構偉い人たちが来るってことなのかなあ。

 まるでお嬢様になっちゃったみたい。私のテンションは最高潮だ。


「セレス、どう!?」


 私がくるりと回ってドレスを見せると、セレスは親指をグッと拳を突き出して、親指を天井に向けた。

 そんなセレスもぴっちりと着付けが済んでいて、もはや麗しいお嬢様だ。彼女のドレスは、白地に黄色。

 形状はほとんど同じで、私の色違いみたいな感じ。私達が2人並ぶと、なんだか姉妹みたいでとても良い。


「楽しんでくるのよ」

「うふふ、行こっかっ!」

「うん」


 アイラに見送られ、私達は手をつなぎながら廊下へと向かうのだった。



「こ、これ……全部食べていいの……!」

「ああ、もちろん」


 隊長さんに許可を得た私は、机いっぱいに並べられた料理に目を輝かせた。

 これは……壮観だ……!

 お肉にパスタにサラダにスープ、そして一口サイズのちっちゃなケーキ。大皿に並べられたそれらは、ぜーんぶ自由に食べていいらしい。

 ほんとにいいんだよね? 全部食べちゃうよ? バイキングは大好きだから。


ふふルルはんちゃんほひひひほおいしいよ!」

「ルーナさん、食べながら喋るのはお行儀が悪いですよ?」


 思わず喜びをルルちゃんに伝えようと思ったのだけど、行儀が悪いと怒られた私は、素直に口の中の肉の塊をごくりと飲み込む。

 ルルちゃんはそんな私を見て、頭を撫でてくれた。

 隊長さんとルルちゃんが、今回の私達の付き添いだ。2人ともピッチリした礼服に身を包んでおり、とてもかっこいい。



「ルーナ、セレスさん!」

「ティーナ!!」


 明るい笑顔を振りまきながら、私達のところへ駆け寄ってくるティーナの姿。今日の朝の王都散策とは異なるドレスを着ており、こっちはこっちで綺麗だ。

 えへへ、さっき会ったばかりだけど、再会できて私も嬉しいよ。


「ルーナ……その……」

「どうしたの?」


 そんなティーナは突然歯切れが悪くなって、何かを言おうと言葉を詰まらせていた。


「に、似合ってますわ……よ」


 なにかと思えば、ティーナは顔を赤らめながら私のことを褒めた。小さい声で。

 私は満面の笑みで「ありがとっ!!」と伝えた。もう、ティーナはかわいいんだから。


「ティーナも似合ってるよ」

「………………ありがとうございます」


 私が褒め返すと、ティーナはさらに小さな声でお礼を言っていた。


「ルーナ様、お久しぶりでございます。セレス様は――初めましてですね。お噂はかねがね」


 ティーナの後ろからゆっくりと歩み寄る男の人。金髪でダンディーなこの人こそ、ティーナのお父さんであるハーディーさんだ。

 そういえば、会うのはお茶会以来? すごく久しぶりだね。

 物腰柔らかくて、ちょっとお茶目で、それに何よりも娘想いの良い人だ。


「私の娘と仲良くしてくださり、ありがとうございます。毎日のようにおふたりの話を聞かされて、私も嬉しい限りですよ」

「ちょ、ちょっと、お父様……!」

「いいじゃないか、クリスティーナ」

「ティーナ、毎日私の話してるんだ。ふーん、そうなんだ」

「ルーナまで……!」


 ハーディーさんと私にからかわれて、またもや顔を真っ赤にするティーナ。なんだかこれも見覚えのある光景だ。

 そんな私たちの掛け合いを見たハーディーさんは、微笑ましいといった感じで私達を優しく見守っていた。


「これからも、娘と仲良くしてやってください」

「言われなくても! ……そうだよね、セレス?」


 私の問いかけに、セレスもこくりと頷く。そんな私達の左腕にはブレスレットが輝いていた。



「ルーナ様!」


 3人で和やかにお話をしていた――もちろん、ご飯も食べながらだけど――ところ、またもや私達のもとに駆け寄る声が聞こえた。それは、聞き覚えのある男の子の声だった。

 ぴくりと体を震わせた私は、おもむろにその声のした方を振り向く。


「レオ……王子殿下」


 ティーナがぽっと頬を赤らめる。さっきの恥ずかしがっていた時とは異なり、なんというか、恋する乙女の表情だ。

 ……そうだよね。レオ王子、かっこいいもんね!


 私が前に見たのは、彼の必死そうな顔や悲しそうな顔ばかりだったから、そんな感想は抱かなかったんだよね。

 でも今日のレオ王子の表情は、なんというかすごく晴れ晴れとしていて、気品に満ち溢れたカッコいい王子様って感じだ。


「ウェルナー、世間話でも」

「……そうだな」


 気を利かせたのか、ハーディーさんは隊長さんを連れて、少し離れたところに行ってしまった。

 ルルちゃんもそれに付いていったので、残ったのはレオ王子含めて4人。


「お邪魔して申し訳ありません。ですが、お伝えしないといけないことが――」


 レオ王子はそこまで言ったところで、ティーナの存在に気がついた。

 彼は胸に手を当て礼をとると、


「おっと……申し遅れました。第二王子のレオと申します。以後お見知りおきを」

「く、クリスティーナと申しますわ。よろしくお願いします……」

「よろしくね」


 ティーナはドレスの裾をつまんでカーテシーをとる。対してレオ王子は、まばゆい笑顔を見せた。綺羅びやかなオーラ満載だ。

 ティーナの心を撃ち抜いたのは言うまでもないだろう。口をパクパクさせるティーナの姿に、私は思わずくすりと笑ってしまった。


 そんなレオ王子だったけど、私の顔を見るとすぐにその表情をキリッとしたものに切り替えた。私はそれに思わず身構える。

 彼は真っ直ぐに私を見据えると、腰を折って思いっきり謝罪した。


「ルーナ様。度重なるご無礼、申し訳ございませんでした」

「レオ王子!?」


 ちょ、ちょっとまってよ!

 こんな人前で謝らなくていいから! なんか逆に私が悪いことしてるみたいじゃない!?

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