65.パーティー(1)
「わぁ~、かわいい!!」
「似合ってるわよ」
アイラの賛辞に、私はえへんと胸を張る。
私が身につけているのは綺羅びやかな白のドレス。差し色として青色のリボンやフリルがついていて、とてもかわいい。
わしゃわしゃと頭を撫でられて、せっかくセットした髪がぐしゃぐしゃになってしまった。やめてよ!
――そうは言いつつも、私の尻尾はゆらゆらと揺れていたんだけどね! 体は素直です!
街から戻った私達は、夕方から開かれる会に向けて準備を進めていた。夜会というか、パーティーというか……ご飯を食べて、お話をするだけの集まり。
参加する人が誰なのかは知らないけど、主催が王家ってことは結構偉い人たちが来るってことなのかなあ。
まるでお嬢様になっちゃったみたい。私のテンションは最高潮だ。
「セレス、どう!?」
私がくるりと回ってドレスを見せると、セレスは親指をグッと拳を突き出して、親指を天井に向けた。
そんなセレスもぴっちりと着付けが済んでいて、もはや麗しいお嬢様だ。彼女のドレスは、白地に黄色。
形状はほとんど同じで、私の色違いみたいな感じ。私達が2人並ぶと、なんだか姉妹みたいでとても良い。
「楽しんでくるのよ」
「うふふ、行こっかっ!」
「うん」
アイラに見送られ、私達は手をつなぎながら廊下へと向かうのだった。
◇
「こ、これ……全部食べていいの……!」
「ああ、もちろん」
隊長さんに許可を得た私は、机いっぱいに並べられた料理に目を輝かせた。
これは……壮観だ……!
お肉にパスタにサラダにスープ、そして一口サイズのちっちゃなケーキ。大皿に並べられたそれらは、ぜーんぶ自由に食べていいらしい。
ほんとにいいんだよね? 全部食べちゃうよ? バイキングは大好きだから。
「
「ルーナさん、食べながら喋るのはお行儀が悪いですよ?」
思わず喜びをルルちゃんに伝えようと思ったのだけど、行儀が悪いと怒られた私は、素直に口の中の肉の塊をごくりと飲み込む。
ルルちゃんはそんな私を見て、頭を撫でてくれた。
隊長さんとルルちゃんが、今回の私達の付き添いだ。2人ともピッチリした礼服に身を包んでおり、とてもかっこいい。
「ルーナ、セレスさん!」
「ティーナ!!」
明るい笑顔を振りまきながら、私達のところへ駆け寄ってくるティーナの姿。今日の朝の王都散策とは異なるドレスを着ており、こっちはこっちで綺麗だ。
えへへ、さっき会ったばかりだけど、再会できて私も嬉しいよ。
「ルーナ……その……」
「どうしたの?」
そんなティーナは突然歯切れが悪くなって、何かを言おうと言葉を詰まらせていた。
「に、似合ってますわ……よ」
なにかと思えば、ティーナは顔を赤らめながら私のことを褒めた。小さい声で。
私は満面の笑みで「ありがとっ!!」と伝えた。もう、ティーナはかわいいんだから。
「ティーナも似合ってるよ」
「………………ありがとうございます」
私が褒め返すと、ティーナはさらに小さな声でお礼を言っていた。
「ルーナ様、お久しぶりでございます。セレス様は――初めましてですね。お噂はかねがね」
ティーナの後ろからゆっくりと歩み寄る男の人。金髪でダンディーなこの人こそ、ティーナのお父さんであるハーディーさんだ。
そういえば、会うのはお茶会以来? すごく久しぶりだね。
物腰柔らかくて、ちょっとお茶目で、それに何よりも娘想いの良い人だ。
「私の娘と仲良くしてくださり、ありがとうございます。毎日のようにおふたりの話を聞かされて、私も嬉しい限りですよ」
「ちょ、ちょっと、お父様……!」
「いいじゃないか、クリスティーナ」
「ティーナ、毎日私の話してるんだ。ふーん、そうなんだ」
「ルーナまで……!」
ハーディーさんと私にからかわれて、またもや顔を真っ赤にするティーナ。なんだかこれも見覚えのある光景だ。
そんな私たちの掛け合いを見たハーディーさんは、微笑ましいといった感じで私達を優しく見守っていた。
「これからも、娘と仲良くしてやってください」
「言われなくても! ……そうだよね、セレス?」
私の問いかけに、セレスもこくりと頷く。そんな私達の左腕にはブレスレットが輝いていた。
◇
「ルーナ様!」
3人で和やかにお話をしていた――もちろん、ご飯も食べながらだけど――ところ、またもや私達のもとに駆け寄る声が聞こえた。それは、聞き覚えのある男の子の声だった。
ぴくりと体を震わせた私は、おもむろにその声のした方を振り向く。
「レオ……王子殿下」
ティーナがぽっと頬を赤らめる。さっきの恥ずかしがっていた時とは異なり、なんというか、恋する乙女の表情だ。
……そうだよね。レオ王子、かっこいいもんね!
私が前に見たのは、彼の必死そうな顔や悲しそうな顔ばかりだったから、そんな感想は抱かなかったんだよね。
でも今日のレオ王子の表情は、なんというかすごく晴れ晴れとしていて、気品に満ち溢れたカッコいい王子様って感じだ。
「ウェルナー、世間話でも」
「……そうだな」
気を利かせたのか、ハーディーさんは隊長さんを連れて、少し離れたところに行ってしまった。
ルルちゃんもそれに付いていったので、残ったのはレオ王子含めて4人。
「お邪魔して申し訳ありません。ですが、お伝えしないといけないことが――」
レオ王子はそこまで言ったところで、ティーナの存在に気がついた。
彼は胸に手を当て礼をとると、
「おっと……申し遅れました。第二王子のレオと申します。以後お見知りおきを」
「く、クリスティーナと申しますわ。よろしくお願いします……」
「よろしくね」
ティーナはドレスの裾をつまんでカーテシーをとる。対してレオ王子は、まばゆい笑顔を見せた。綺羅びやかなオーラ満載だ。
ティーナの心を撃ち抜いたのは言うまでもないだろう。口をパクパクさせるティーナの姿に、私は思わずくすりと笑ってしまった。
そんなレオ王子だったけど、私の顔を見るとすぐにその表情をキリッとしたものに切り替えた。私はそれに思わず身構える。
彼は真っ直ぐに私を見据えると、腰を折って思いっきり謝罪した。
「ルーナ様。度重なるご無礼、申し訳ございませんでした」
「レオ王子!?」
ちょ、ちょっとまってよ!
こんな人前で謝らなくていいから! なんか逆に私が悪いことしてるみたいじゃない!?
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