64.城下町、ふたたび(2)

「うーん」

「なにか探しているんですの?」


 辺りをぐるぐると見回しながら歩いていると、横にいるティーナからそう尋ねられた。


「お土産、欲しいなって思って」


 そう、私が探しているのは、お土産屋さん。

 せっかく旅行に来たんだから、食べ物も悪くないけど……それとは別で、なにか持って帰れるものも買いたいよね!

 そんなことを言うと、ティーナが左腕につけたブレスレットを見せた。


「これではダメなんですの?」

「それはお土産じゃなくて、友達の証でしょ?」

「たしかに、そうですわね……」

「せっかく王都にきたんだから! 記念になにか買わないとね」


 ブレスレットは、3人でお揃いのものをつけるために買ったものだ。セレス発案だけどね。

 もちろんこのブレスレットは、もう私にとって大事な宝物なんだけど……これは、お土産ではない。言葉にするのはちょっと難しいけどね。

 お土産ってのは、その地でしか買えなくて、なんか絶妙に役立たなくて――でもなんだか持ってて嬉しいような物がいいのだ。


 うーむ。王都って、なにが名産なんだろ。

 人がたくさん集まるだろうし、なにかしらはあると思うんだけど……なんか有名なものないかなぁ。

 そんなことを頭の中で考えていると、ティーナが少し興奮したような様子で語った。


「でしたら! やはり、セレスティア様を象ったものがよろしいかと。昨日、300年ぶりにその御姿をこの地で見せられたのですから」

「”神竜セレスティア”のこと?」

「その通りですわ!」


 私は呆れた表情で、セレスを見た。

 ……まだ丼食ってら。


 えっと……そういえば、ティーナは知らないんだったよね。

 というか、セレスが神竜セレスティアだってことは、私と隊長さんくらいしか知らないかも。当の本人は丼食ってるし……まあ気づかないかもね。


 うーん、でもティーナだったら言ってもいいか。私達は『友情』という名のブレスレットで繋がっているからね。

 そう思い至った私は、ティーナにセレスの正体を明かすことにした。


「ティーナ――それって、セレスのことだよ?」


 私がそのように伝えると、ティーナはわかりやすくピタリと凍りついた。


「へ………………?」


 ティーナの間抜けな声が漏れる。


「だから、神竜セレスティアは、セレスのことなの」

「セレスさんが、セレスティア様……?」


 そして、その表情のままセレスと私を交互に見るティーナ。

 言葉の意味は伝わったようだけど、理解するには至っていないようだ。


「た、確かに名前は似ていますけど……。まさか、ほ、本当なんですの?」

「……見る?」

「せ、セレス、だめだよ!」


 ティーナが本当かどうか尋ねたことにより、セレスが実演することによって証明しようとする。

 それは流石にダメだよ、セレス。街中で急にドラゴンの姿になるのだけはやめてね!

 私が必死でセレスを止めると、彼女は「むぅ……」と少しだけ落胆した様子だった。だけど、無事に諦めてくれたようだ。


 だがそれもあって、ティーナはまだセレスがセレスティアであることを、未だ完全には信じていない様子だった。

 ティーナは、たまたま通りかかった商店の軒先に掛けてあった、宗教画的な絵を指さして、必死でアピールしていた。


「で、ですが、セレスティア様はこのような御姿をしていたと、伝えられていますのよ!?」


 その絵には、真っ白いローブを身にまとった美女の姿があった。

 長身ですらっとしていて、非常に整った顔立ち。その優雅な立ち姿は、まるで女神を思わせる。

 ……確かに黒髪と金色の瞳ってのは合ってるけど、逆に言うとそれくらいしか共通点なくない? 誰だ、この美女は。


「誰……? これ、私じゃない」


 当のセレスも全く私の考えと同じことを言っていて、ティーナはがくりと崩れ落ちた。

 たぶん……300年という長い年月の間に、どんどん誇張されていったのかもしれない。神竜というだけあるから、こんな風に女神様のよう扱われていったのだろう。

 セレスは確かに可愛くて美人だけど……ちょっとこれは、系統が違うよね。

 本人にはちょっと失礼だけど、こんな大人びた要素はないはずだ。




 ……でも、なんかこれいいな。

 なぜだかこのセレスの絵に誘引された私は、ふらふらっとそのお店に立ち寄った。

 ちょうどここは雑貨屋だったらしく、店内にはいろんな小物が置いてあった。食器や日用品、アクセサリー、それに何に使うのかよく分からない変な置物まで。

 そうそう! こういうところに来たかったんだよ!


「あっ、これにしよ!」


 軽く見回して目に留まったのが、黒い竜を模した木彫りの置物。サイズは結構ちっちゃくて、私の手の平に収まるくらいなんだけど、その分精巧に細工が彫られていて、とっても素敵だ。細かいところの模様まで緻密に作られている。

 もちろん神竜をモチーフにしているのだけれど、なんだか手乗りのセレスみたいでかわいい。


 その分お値段は少しお高めだけど、私の手持ちなら十分に買える。

 ……ってか、値札がこれだけ新しいな。他のは日光で紙が変色してるのに、セレスの人形の値札だけは明らかに新しい。


 くそぅ……絶対、値上げしてるじゃん。セレスが昨日あんなことするから、セレス関連のグッズが軒並み人気になってるじゃん。昨日だったら安く買えたのに、なんか悔しい!

 ――まあ、貰ったお金だから別にいいんだけどさ。


 ちょっともやっとしちゃったけど、会計を済ませちゃった後は自分用のお土産をゲットした喜びで、そんな気持ちはすぐに忘れてしまった。

 ふふ、アイラの部屋に飾っちゃお。勝手に。


「おまたせー。行こっか!」

「――みんなちょっと待ってくれ」


 ウキウキしながら外へ行こうとした時、入口からライルがやってきた。騎士たちは店の外で待っていてくれたのだけど、なぜだかライルだけが一人で来店してきたのだ。


「どうしたんですの?」

「ちょっと手伝ってほしいんだが……」


 ティーナが首を傾げると、ライルは小声でその理由を説明する。


「ルルがもうすぐ誕生日なんだ。それで、その……俺はあまりこういうの得意じゃないからさ、アイツのプレゼントを選ぶのを手伝ってくれないか?」


 窓の外には、ルルちゃんの姿が見えた。手を振ると振り返してくれた。かわいい。

 ルルちゃん……もうすぐ誕生日なんだね、全然知らなかったよ。

 ふむ。そういうことなら手伝ってあげようじゃないですか――ルルちゃんが喜ぶ最高のプレゼント探しを!


「どんなのがいいかなぁ」

「アクセサリーなんかはどうでしょう?」

「いいな、それ」


 ティーナが指さしたのは、店の一角にある装飾品のコーナー。私たちがブレスレットを買ったとこより多少品揃えは劣るけど、それでもたくさんの金属製のアクセサリーが並べてあった。

 種類が多すぎてとても迷うけれど――その中から、ライルはなんとなく商品を1つ手に取った。


「こういうのはどうだろう?」


 ライルが手に取ったのは、若葉の意匠が入ったイヤリング。えっと……その模様、なんだか見たことあるな。

 確かそれは……、


「それ、安産祈願って意味だよ」

「………………………………」


 ライルは黙ってその商品を戻した。




「えっと、髪飾りはどうかな?」

「そうだな……」


 たくさん並ぶ髪飾りたち。いろんな色とモチーフがあって、見ているだけで楽しい。

 私はその中から1つ、ピンときたものを選び取った。


「これはどう? ルルちゃんに似合いそう!」

「確かに……お前、冴えてるな」

「ふふふ」


 それは、星の形をした花がデザインされている少し大きなバレッタだった。とても可愛らしくて、可憐なルルちゃんの姿によく似合いそうなものだった。

 私って、こういうのを選ぶセンス高いよね!


「おい待て、ルーナ。これはどういう意味なんだ?」

「そうだった!」


 やばいやばい、気づかなかった。でもこの星の形をした花の模様は記憶にある。……記憶にはあるけど、どんな意味があるんだっけ。一度、前のお店で教えてもらったんだけどなあ。

 気になった私は、そういうのに詳しいティーナに尋ねた。


「ティーナ、これってどんな意味なんだっけ」

「………………」

「ティーナ?」


 ティーナはなぜだか、地面の方を見て俯いていた。その頬は真っ赤に染まっていて……どうしたんだろ? ダメな奴だったの?


「…………とても良いと思いますわ」


 かと思えば、ティーナはそう呟いた。なーんだ、大丈夫なのか。

 まあ、ティーナがそう言うなら全然大丈夫なんでしょう。


「ありがとう。これにするよ」


 ライル自身もこのバレッタを気に入ったのか、お会計を済ませに店の奥へと向かっていった。

 いやー、結構良いものが選べた気がするよ!

 誕生日が楽しみだなー。早くこのバレッタをルルちゃんに付けてもらいたい!



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

〔あとがき〕

セレス「久遠の愛……」



私用により、更新ができなくなるかもしれません。

週明けから毎日更新に戻りますので、それまでしばしお待ち下さい。

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