48.城下町(1)

「ふん、ふん、ふふふ~ん♪」


 いつにもましてご機嫌な私は、長く続く廊下でくるくると回ってみた。ひらひらとスカートが花弁のように舞い上がり、私のかわいさが倍増したような気分になる。

 だがその代償として、くるくるとしすぎた所為で目が回り、私はフラフラとよろけながら壁に手をつく。


「楽しそうね……まだ外にも出てないというのに」

「可愛らしいじゃないですか」


 支度を手伝ってくれたアイラとルルちゃんは、私の様子を眺めながら呟いた。

 なぜ私がこんなにご機嫌なのかって?


 その理由は――そう、街に行くから!


 この世界に生まれて、ほとんどの時間を砦の中で過ごしてきた私にとって、これが初めての”外”なのである。もちろん森に行ったり、領主邸に行ったりはあるんだけど――もちろんそれも楽しかったけど――、それはそれとして、こうやって人が沢山いる場所に行くのは楽しみだ。

 しかも、今日のお出かけはセレスとティーナの3人だけ! ……とはいっても、完全に私たちだけになるわけではなくて、近くで騎士がこっそりと見張っているらしい。はじめてのおつかいシステムだ。


 そのために私は、頭からすっぽりとローブを被った。

 このローブは、私のためだけに作ってもらった特注品。深々としたフードが付いていて、角や尻尾を完全に覆い隠せるようになっている。事前に隊長さんが用意してくれていたのだ。

 表は少し地味な濃青色。裏地は真っ黒な生地だけど、実は光を当てるとピカピカと反射する特殊なもので、まるで夜空のようで美しい。ふふ、テンションがあがるぜ。


 ぎゅっとローブの紐を結び、準備万端。

 私の横に立っているセレスも、ふんわりとしたサンドレスを身にまとい、おめかしはバッチリだ。いつも暗い色の服を好む彼女だが、今日は折角のなので明るいベージュのものを着てもらった。よく似合ってる。


「行こう」

「うん!」


 私はセレスと手をつなぎ、二人の騎士の後に続く。

 その足取りは、普段以上に軽やかだったことは言うまでもない。


 離宮の正面玄関にたどり着くと、そこには一台の馬車が待機していた。華美な装飾が施された立派な車で、隊で使ってる幌馬車とは大違いだ。

 そしてその横には、隊長さんが立っていた。……実は会うのは昨日ぶり。

 スカートの中で尻尾がもぞもぞと揺れるのを我慢する。ドラゴンの姿のときなら迷わず飛びついているんだけど、今は人前なので我慢しよう。


「お友達を待たせてるぞ」


 隊長さんはそう言うと、馬車のドアをガチャリと開けた。

 そこには窓の外を退屈そうに眺めているティーナ。だが私たちの姿を見るやいなや、その表情はぱあっと花開いた。


「おまたせ!」

「ルーナ、それにセレス様!」


 朝食のときとは異なって、ティーナはフリル付きの桃色のドレスを身にまとっていた。色は明るいんだけど、ストンと落ちるようなシルエットで、そこまで激しく目立つような感じでもない。

 みんな三者三様のコーディネートで、とても見ていて楽しい。


 隊長さんの華麗なエスコートで馬車に乗り込んで、気分はまるでお姫様だ。

 ドアが閉じられると、カラカラと車輪と蹄の音が響き渡り、車体が揺れ始める。お城の敷地は広いので、この馬車で一旦街の外まで向かうのだ。

 余りにも広いので、徒歩で行くと2~30分は掛かるらしい。やばいね。


「わあ、すごい……」


 高台に作られたお城から、下るように城下町へと向かっていく。その道中からは見下ろすように街並みが一望でき、遠くまで広がる建物の海に私の胸は弾む。赤い屋根のおうちが多くあって、街並みはとてもカラフルだ。気分はさながら海外旅行だ。


 窓の外を眺め、その異国情緒に感激していたところ、いつの間にか目的地に到着していた。

 小さなアーチ橋を渡りきったところで馬車は完全に停止し、扉がゆっくりと開かれる。


 隊長さんの手を取り、私はゆっくりと馬車から降りた。

 後ろからはもう一台の馬車と騎馬が続いていて、思いの外厳重な警備であったことにびっくりしたけど、その中にアイラやライルといった見知った顔が混ざっていて安心する。ぶんぶんと手を振ると、振り返してくれた。


「楽しんでこい」


 隊長さんの優しい声に、私は元気よく返事をする。

 そうして騎士たちに別れを告げると、私たちは出発した。

 この辺りは少し人通りが少ないけれど、もう数ブロックも入れば大通りになる。ドキドキとワクワクを同時並行で感じながら、私たちは人混みに紛れるのだった。

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