第3章 王都
43.王都、行きたい!
私が砦にきて、だいたい半年くらいが経った。
ここに来てからしたことと言えば……隊長さんにおやつを貰い、騎士たちからご飯を貰い、セレスからあーんしてもらい。……あれ、私食べてばっかり?
まあでも、毎日楽しいです。みんな優しくて、たくさん遊んでくれるし。あれだけ沢山いる騎士たちの顔も、それなりに覚えてきた。名前はまだ全然覚えられてないけどね!
セレスも以前よりもずっとここに馴染んできて、なんやかんや騎士たちと楽しそうに過ごしている。進歩したことといえば、彼女がアイラやルルちゃんのことをちゃんと名前で呼ぶようになったことだ。まあまだこの二人だけだけど、大きな一歩だと言えよう。
……それで今日は、隊長さんのお部屋にお呼ばれした。
私からはほぼ毎日のように遊びに行ってるけど、隊長さんの方から呼ばれることは殆どない。こういう時は、決まって何か大事な話をすることが多い。滅多にない機会に、私はちょっとだけドキドキしていた。
「なんだろうね」
私が不思議そうな顔を浮かべると、隣にいるセレスも同じように考える仕草をとる。……けど、私は知ってる。セレスは、私の仕草をただ真似しているだけで、実際には何も考えていないのである!
とりあえず私は、ドアをカリカリと爪でこする。これがノック代わりだ。
すると、いつものように隊長さんが中からドアを開けてくれる。
「入れ」
淡々とした言い方で、いつもよりも緊張感をはらんでいた。私は思わずごくりと唾を飲む。
とりあえずの挨拶として、私は隊長さんからおやつを貰い、ソファにぴょんと飛び乗る。そしてもしゃもしゃと頬張りながら、向かい側のソファに腰掛けた隊長さんの顔を見つめた。
ちなみに今日のおやつは、特大サイズのナッツだった。
「先にはなるが……少し付き合って貰いたいことがある」
話を切り出す隊長さん。だが……なんというか、ちょっと申し訳無さそうな口調だった。
「どんなこと?」
「これだ」
私が聞き返すと、隊長さんは一通の手紙を取り出した。白地の封筒は、一見すると無地に見えるけど、紙に特殊な加工が施されており、光の当て方によって草花の模様が見え隠れするようになっている。ふわふわと漂ってくる香水の香りは、一面に広がるお花畑を思い起こすいい匂いだ。
……例によって、あの”ラブレター”って奴ですか。
「これは国王からだ。ずっと断ってきたんだが……」
「国王!」
以前にも国王からの手紙って届いてたよね。そしてそれを、隊長さんがポイと投げ捨てたのも覚えてる。その時は「そんなぞんざいな扱いをしたら怒られちゃうよ!」と思ったけど、そのことで何かあったのだろうか。
「2人に会いたいと書いてある」
隊長さんがペーパーナイフでさっと封を開くと、中からは小さな便箋が出てきた。
どうやらこれは招待状のようで、その宛先には私だけでなく、セレスも含まれるようだ。
「だが、王は城から離れることができない。だから我々が赴く必要がある」
「私たちが行くの?」
「そうだ。王都へと向かうことになる」
そりゃそうだ。王城までは結構距離があると聞くし、それこそこんな遠方に王様を呼びつけるというのも変な話だ。王様なんて、絶対忙しいだろうし。
「今までは全て突っぱねてきたのだが……セレスが来てから状況が変わり、断ることも難しくなった。
もちろん、どうしても行きたくないのなら善処しよう。卑怯な言い方になってしまうが、最終的に重視されるのは二人の意思だ」
隊長さんは、私たちを真剣な目で見つめた。
だがすぐに隊長さんは、優しそうな表情に切り替えて私たちにこう提案した。
「……だが、旅行に行くと思えば悪くないとも思ってな」
「旅行!」
私の尻尾はぴょこっと跳ねた。
……ふふ、隊長さん、そう来ましたか。交渉が上手ですね。
王都はここから馬車で数日は掛かると聞いたことがある。要は、かなりの遠出になる。行ってすぐ帰るということも難しいから、王都で宿泊することになる。そのついでに、観光とかもできちゃったりして。
――これを旅行と言わずして、なんと言おうか!
私はまだ、この世界に来てから多くの時間を砦で費やしてきた。つまり、外に行ったことがほとんど無い。だからこそ、この広い広い世界がどのようなもなのか、すごく見てみたいのである!
「王都って良い所なの?」
「ああ、とても良い街だ。だが実際、どこまで観光できるかはまだ未定だ。……着いた時のお楽しみ、ということにしておこうか」
隊長さんの言い方はとても魅力的だった。隊長さんは、やはり隊長という偉い職業なだけあって、王都には何度も足を運んだことがあるらしい。そんな隊長さんが言うのなら、間違いなく楽しい旅になるだろう。
……それで私は、セレスにも意見を聞いた。
「セレスはどう?」
「ルーナが良いなら、良い」
セレスは私に同調した。……そう言うと思ってました。
セレスはあまり意思がなくて、いつも私の真似をしたり、私に追随したりするのだ。今回もそう。
――でも今回は私にとって都合がいい。これで結論は出たから。
「王都、行きたい!」
「そうか……ありがとう、ルーナ」
私の高らかな宣言に、隊長さんは軽く頭を下げた。
いえいえ、どういたしまして! 私こそ、旅行に行けて嬉しいよ!
……ああ、まだ少し先のことなのに、なんだか胸が弾む思いだ。
なにか美味しいもの食べたいなあ。きっと王都ならいろんなグルメが目白押しなんだろう。あ……ヨダレが出てきちゃった。
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