38.救出
「お前ら、向かうぞ!」
「「「うおー!!!」」」
森の奥から、むさ苦しい声が聞こえてきた。
この声は……間違いない、騎士のみんなだ。私はほっと胸を撫で下ろし、エミルの横にぺたんと座り込んだ。
まだエミルは気を失っているが……騎士たちの声に気がついたようで、ぱちぱちと瞬きをしながら目を開いた。そしてエミルは朧げな表情でこちらを見ると、一気に真っ青になって叫んだ。
「――ば、化け物っ!!!!」
だっ、誰が化け物じゃい!!
◇
結局、私たちは救援にやってきた第7班の人たちに助けられた。爆発音を聞いた彼らが、私の魔力の痕跡を追って探し出してくれたのだという。
エミルも軽い擦り傷だけで無事だった。……薬草の群生地を見つけて森の奥へ入った所、夢中になるあまり一緒にいた友達とはぐれ、更に道にも迷い、途方に暮れていたのだとか。私が嗅いだシソのような匂いは、この薬草の匂いだったらしい。
「よく頑張ったな」
班長であるエルマーさんが私の頭をわしゃわしゃと撫でる。ふふ、いい気分だ。
私はルルちゃんに抱えられ、エミルも騎士におんぶされ、十分な護衛のもと街へと戻ることとなった。
くあぁー……。
おやつ食べた後だし、たくさん動いた後だし……なんだか眠たくなってきちゃった。ルルちゃんの心地よい温もりを感じながら、私はいつのまにかこくりこくりと船を漕いでいた。
でもまた、なにか大事なことを忘れているような――まあいいや!
今のふわふわとした頭じゃ、もう何も思い出せない。エミルも無事だし、私はちょっと一眠りします……。
「ルーナ、怪我はないか」
「むにゃむにゃ……たい、ちょーさん?」
安心する優しい声が聞こえてきて、私の意識は一気に引き戻される。……いつのまにか、森の出口まで着いていたようだ。気づかないうちに隊長さんの抱っこに変わっていてびっくりしたけど、安心感は変わらない。
隊長さんは私をじっと覗き込むと、少し心配そうな顔で私を見つめていた。
ふふ、大丈夫。私は元気だよ!
隊長さんを安心させようと私はぷるぷると尻尾を揺らしてみると、頭を軽く撫でられた。やっぱり隊長さんに撫でてもらうのが一番好きかも。ちりんとなる首の鈴の音が、今となっては心地よい。
「何があったか教えてくれないか?」
「えっと……」
隊長さんは、私に説明を求めた。
うんと頷いた私は、一から順を追って説明する。靴を見つけたこと、匂いを辿ってエミルを見つけたこと、そしてオオカミに追われたこと。……あ、あとでっかいドラゴンもいたんだった!
そうして全てを言い終えると、隊長さんは軽くため息を吐いて私に向き合った。
「……今後、危険な真似はしないようにしてくれ。お前が怪我をすると、皆が悲しむ」
隊長さんは真っ直ぐと言った。
……それはそうだ。アイラが怪我をしたとき私が悲しくなったように、私が怪我をしたら騎士のみんなも悲しくなる。私はただ「ごめんなさい」としゅんとするしかなかった。
だが隊長さんは、私の頬をそっと撫でると、今度は一転して優しい口調で語りかける。
「だがこの子が助かったのは、他でもないお前のおかげだ。第8隊の隊長として、正式に感謝する。……ありがとう、ルーナ」
「そ、そんな、私は大したこと」
「あの母親の顔を見てみろ」
隊長さんが指さした先では、エミルとその母親が抱き合っていた。母親の目からは涙が溢れていて、どれほど我が子を心配していたかを物語っていた。
私はその姿を見て、心の底から言葉が溢れた。
「……無事で良かった」
「ああ、そうだ」
しみじみと噛みしめる隊長さんの表情を見ると、ああ、やっぱり騎士なんだ、と思わされる。騎士団が守るべき相手は、この地に住まう人々。私も少しだけ、その気持ちがわかったような気がした。
「あー……ところで、もう一つ質問があるんだが」
隊長さんが尋ねる。
なんだろうと思って、私は隊長さんの目線を追いかけてみた。……するとそこには、黒い髪に金色の瞳の女の子が立っていた。騎士の間に混じってじっと立つその少女は、何故か私の方をじーっと無言で見つめていて、なんだか……怖い。
「あの子を知っているか? 捜索中に3班が発見し保護されたんだが、誰もあの子のことを知らない」
「えっと、私も見たことない」
隊長さんと私は、顔を見合わせた。ほんっとうに、全然見たことない。あの子も迷子なのかな。
でも不思議なのは……ずっと私を見つめていること。
え、私の顔になんかついてる?
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