37.大ピンチ
森の中を疾走する影が2つ。正しくは、私は空を飛んでいるので実際に走っているのは1人だけど。
……それはともかく、その背後からは、ハアハアと短く区切るような呼吸が絶えず聞こえていた。
「どっち!?」
「たぶん……こっちのはず」
私の問いかけに、ちょっと不安そうに答えるエミル。
森の中はどこもかしこも似たような景色で、私ならとっくに迷子になってる。だがいまのところ、エミルは迷わずに森を走り抜けているので、ある程度道はわかっているのだろう。
少なくとも私は、もっと上空に行かないと道はわからないので、とりあえず今はエミルの言葉を信じるしか無い。
今のところ、はじめに放った私のブレスや地形を上手く利用し近道したお陰で、オオカミとはだいぶ距離を取ることができている。私のブレスを警戒しているのか、少し後ろを振り向くだけで牽制になってる。
今の所は私達のほうが優勢だけど……持久力で言えば、確実にオオカミのほうが上。
エミルが襲われるのも、時間の問題だ。
――でも、そうはさせない。
「しつこいな……っ!」
私はブレスを定期的に放ち、オオカミの動きを牽制する。動き回るオオカミに当てるのは凄く難しくて、その辺の枯れ葉や樹木に当たっているのだけど……でも牽制にはなってるはず。な、なってるよね?
はやく諦めてくれればいいんだけど、とてもしつこい。本当に、しつこい。
集団で囲い込んで、相手が動けなくなったところで狩るという戦法なんだろうけど……嫌いだ。
私達が走り初めて数分が経った頃、突然ピンチが訪れる。
「が、崖だ……」
「回り道しよう!」
そう思って右を見れば、すでにオオカミが既に通り道を占拠していた。じゃあ、逆なら――と思ったらそちらにもオオカミが回り込んでいた。
くっ……囲まれていたなんて! なんてずる賢いんだ……私はオオカミが大嫌いだ。
で、でも私は諦めたわけじゃない。
崖自体は、飛び降りたら即死の断崖絶壁というわけではなく、傾斜の激しい斜面のようになっている。こうなったら一か八か滑り降りれば……。
「……待って、あれ!」
「ど、どうしたのエミル?」
ふとエミルが指さした先は、木々から覗く空だった。視線が示す先、私は目を凝らしてその目標を探す。
「鳥……にしては形が変」
あの影は、少し前に見たワイバーンの影に似ている。いやまさか、ワイバーンなんてもっと森の奥の方でしか見ないはず。
いや、これだけ移動すれば、十分森の奥まで来ちゃった可能性がある。……これはまずい。森の奥は隊長さんから危険だと聞いたばかりだ。
オオカミなんかよりずっと恐ろしい存在だよ。
「オオカミが逃げていく……」
何故か後退りをするオオカミたち。今すぐに私達に襲いかかればいいのに、そうしないということは……。
「エミル、こ、これまずいかも!」
――ドカンッ!!!
目の前の地面が激しく爆発した。凄まじい轟音。土煙が巻き上がり、砂や小石がこつんと私達に降り注ぐ。
エミルと私はぎゅっと二人で抱き合った。こんなことしても意味ないって分かってるけど、でも、びっくりしたんだもん……。激しい爆風に私達は地面にうずくまり、姿勢を低くして逃れる。
そして数秒後、次になにも起きないことを確認して思わず閉じていた目を開ける。
……な、なにがあった?
「…………ひっ」
震えながら正面を向いたところで、私は驚愕した。
真っ黒な体。びっしりと埋め尽くされたウロコは、その一つ一つが美しい金属光沢を放っており、非常に芸術的。金色の瞳はこちらをじっと観察するように見つめており、口元からはそれ単体で私の体くらいはある牙が覗いていた。私をそのまま巨大化して、真っ黒にを塗ったような見た目だ。
そう――それは、真っ黒なドラゴンだった。
――恐ろしい。
こんなの、敵いっこないじゃないか……。命が何個あっても勝てないよ、こんなの。
しかもデカい。私もこれと同じ種族なんだよね? 明らかにサイズが違いすぎる。差別だよ!
あまりにも大きすぎる存在に、とりあえず私は逃げることを選択する。
「エミル! エミルっ!!」
やべっ、失神してるじゃないか! 起きろ、エミル!!
エミルに起き上がるよう声を掛けてみるけど、無反応。今度はエミルの体をぺちぺち叩いてみたけど……全然起きないじゃん!
おそらく目の前のこの巨大獣を見て、恐怖から気を失ってしまったのだろう。
ああ、私も同じになりそう。こ……怖い。とても怖い。オオカミなんて比じゃないぞ……。
足がガクガクと震えて、視線もうまく定まらない。
くそ……でも、こうなったらやるしかない。
「……く、くらえ!!!」
私は後ろ足を踏ん張って、口元に魔力を集中させる。……もう何度も使ったんだ、失敗することはない。
そしてそれが限界に達したところで――一気に放出。我ながら強力なのが出来た気がする。
発射したブレスは、しゅるしゅるとそれ自体が回転しながら、目の前の巨大ドラゴンの額に直撃する。変化球みたいなのもできるんだね、これ。
着弾したブレスは、その瞬間ボンと弾け飛んで、ドラゴンの額に弾かれていた。
……ぜ、全然効いてなくない? 無傷じゃん! ワイバーン相手にはあんなに強かったのに!
「グオオォォォォッ……!!」
しかしその見た目とは裏腹に、ドラゴンはとても苦しそうに胸を押さえていた。
えっ……なんで胸? なんかよくわからないけど、ダメージは入ってる?
効いてることには効いてるようで、ドラゴンは苦悶の表情をしながら、後退りをして森の中へと消えていった。
「……………………」
し、勝利ー?
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