27.ルーナ探検隊(3)
牧草の上で軽くごろごろした後、私は厩舎を後にする。
意外と寂しがりやなイケメン白馬さんだが、「また来るから安心して」と伝えて、別れを告げた。
とことこと眩しい陽気を背に通路を歩いていると、前の方から騎士の一団が歩いてくるのが見えた。
「よお、ルーナ! 今日も散歩か?」
「元気してたか?」
「今日は楽しそうだな」
私を見るや否や、堰を切ったように一気に私に話しかける騎士たち。
一斉に言われてもわかんないよ!
この人達は、確か4班か5班だった気がする。第8隊の各班は、日ごとにローテーションで役割が決まっていて、この人達は今日が非番みたい。
非番だからといって休むわけではなくて、訓練をしたり事務作業をしたりしている。騎士というのは、思いの外忙しい職業なのだ。
そんな忙しいのにも関わらず、この人達は私に群がって頭を撫でたり、顎を撫でたり。
隊長さんが私関連に甘いのをいいことに、合法的にサボろうとしているのだ。
……まあ、これでみんなの士気が上がるなら甘んじて受けいれるよ。コワモテな顔も、ゴツゴツの手も――最近はもうすっかり慣れたけど。
「ねえねえ、これ見て」
騎士たちのスキンシップが一段落したとき、私は彼らにそう宣言する。
私の自慢のあるものを見せようとしていた。
「なにを見せてくれるんだ?」
「楽しみだな」
私はパタパタと翼を動かし、ゆっくりふわーっと体を浮上させる。
ふふふ、まあ見ててよ。
「行くよっ――」
私は水平方向に空を飛びながら、徐々に加速を付けていく。ちょっとずつ体に受ける風の抵抗も増していく。
そして、ある程度速度がついたところで、私は翼を軽くしまいつつ、右向きに大きく旋回するように傾けた。
そしてあとは風に身を任せるだけ。コツは思いっきり体をひねること。
ぐるん。
私の体は、見事に一回転。
進行方向を保ちながら横回転をする、いわゆる“バレルロール”という曲芸飛行の一つだ。
「うおおおお!!」
「やるじゃねえかルーナ!!」
騎士たちから歓声が上がる。えへへ、すごいでしょ。
最近は普通に飛ぶことに飽きて、こういう曲芸飛行をしてみたりしてる。新ワザを身につけては、こうやって騎士にお披露目しているのだ。
「最初来たときはあんなに怯えてたのにな……」
「こんなに立派になっちまってヨォ……」
なんか泣きそうな勢いなんだけど……。
まだここに来て二ヶ月も経ってないのに。保護者ヅラする騎士たちを冷ややかな目で見つつ、私はちゃっかりおひねり(おやつ)を頂く。うまい!
◇
気になる情報を手に入れた。
それは、さっき別れ際にある1人の騎士が言っていたものだ。
「さっき東の訓練場で猫を見たぞ」
……と。
とても興味深い情報だ。私が詳細を尋ねたところ、ほんの数分前に黒っぽい猫が訓練場を抜けて、建物の方へと向かっていったらしい。
ふふふ……これは面白そうだ。
ルーナ探検隊隊長――ちなみに隊員は私だけ――として、これを見逃すわけにはいかない!
「ありがとー! ちょっと探してみる!」
「おう、頑張れよ!」
コワモテの騎士たちは、みんな満面の笑みで手を振っていた。
私は「バイバイ」とそう言い残し、訓練場の方に走った。
途中、近道を使いながら東にある訓練場にたどり着く。
さっき私達が試合をしていたところとは別の、もう一つの訓練場である。地面は砂で、こじんまりした運動場のようなところだ。
猫は………………いない。
だが、まだ近くにはいるはずだ。建物の方に向かっていったらしいから、たぶん東棟のどこかだろう。
「ねこちゃーん……?」
茂みの中とか、物陰とか、ちょっと猫が隠れていそうな場所を探す。東棟の建物の側には、使わなくなった備品なんかが雨ざらしで置いてあって、そこが丁度いい日陰になっているのだ。
……これ、本当に探検隊みたいだ。たのしい。
わくわくしながら、猫ちゃんを探すこと十数分。
ついに見つけた、黒い影。
「ねこちゃん……!」
私は高ぶる興奮を抑えつつ、ゆっくりと猫に近づく。
基本は黒色の毛だが、脇腹からお腹くらいにかけて正反対の白い毛が生えている。瞳はくりくりっとしていて、私とおそろいの金色だ。
「かわいい……」
恐る恐るといった体で猫に近づくも、とても警戒しているようで、私をじっと観察しながら逃げるタイミングを窺っているようだった。近づこうとすると、後ろにじりじりと後退りするのだ。
これ以上近づいたら逃げられる……。ちょっと寂しい。
でも、どうしても仲良くなりたいので、禁断の方法に手を染めようかと思う。
「隊長さん! 開けて!」
東棟には隊長さんの部屋がある。
猫から一旦離れ、ふわーっと空を飛んだ私は、その隊長さんの部屋の窓をコンコンと叩いた。
中にいる隊長さんは、窓の外で飛んでいる私を見て少し驚いていたが、そのまま席から立ち上がると窓の方までやってきた。
「……どうした」
窓を開けて、私を呆れたように見る。
「おやつ、どうしてもほしいの。おねがい……」
「……仕方ないな」
隊長さんはそう言うと自分のデスクに戻り、引き出しから茶色い塊――もといジャーキーを取り出した。
私はそれを口でパクリと受け取った。
「
「なんだ……?」
私はお礼を言って、隊長さんの部屋から離れる。隊長さんがなにか言いたげだったけど、聞いている暇はない。ごめん。
私は急いで、猫のいた物陰に向かうと、咥えたジャーキーを地面においた。
猫はまだ……いるね。よかった。
「こ、これあげる!」
私はそう言うと、その場を離れる。ほんとは直接あげたかったけど、怖がられるのも嫌なので!
少し遠くのほうから猫を観察していると…………あっ! 食べてくれた!
猫はそそくさとまた物陰の中に隠れたけど、ちょっと距離が縮まったようでとても嬉しかった。食べ物というのは、種族という壁を超える便利なコミュニケーションツールなのだ!
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