23.隊長さんの部屋
アイラがノックする。すると中から「入れ」と声がする。
ここはいつも隊長さんが仕事している部屋。ドアをカリカリと擦ると開けてくれる。おやつの貰える楽しいところだ。
「失礼します」
こうやって、アイラと一緒に隊長さんの部屋に入るのは、なにげに初めてかもしれない。
まあ隊長さん、部屋に人を呼んだりしないらしいから。
ドアを開くと、そこには書類仕事をするウェルナーさんが。
いつもは仕事を中断してまで私と遊んでくれるので、こうやっている隊長さんを見るのも少し珍しい。
隊長の前まで進むと、アイラは騎士の礼をとる。私だけしないのもなんか変な気がしたので、ちょっとだけ真似してみた。ぴしっと。
「怪我の具合はどうだ」
「おかげさまで……問題ありません」
「それはよかった」
アイラを気遣う隊長さん。
あまり感情を表には出さない人だけれど、人一倍に部下思いで熱い男だっていうのは、もう誰もが知ってるはずだ。あとおやつもくれるしね、優しい。
「ルーナも、あれは見事だったぞ」
「えへへ」
「7班から聞いたんだが、……“くしゃみ”で倒したというのは事実か?」
ふふ、隊長さんまでそう言ってくれるとは。
我ながら、見事な作戦だったと思う。くしゃみで敵を倒そうだなんて、普通は思いつかないよね。やっぱ私って天才。
えへんと胸を張っていると、隊長さんから痛い追求をされた。
「自分でコントロールはできているか」
「…………できません」
私は正直に答えた。
あれは意図的に起こしたものとはいえ、意図的でなくとも起こり得る。実際、砦の壁をちょっとだけ破壊したし。
その返答を聞いて、隊長さんは一つ咳払い。
「今回の緊急討伐で、お前を危険な目に晒した。保護すると言ったにも関わらずだ。王国騎士団第8隊隊長として、正式に謝罪する」
「え、あっ、べつに、大丈夫……です」
「もう一つ。ルーナの攻撃によって、少なからず我々は助けられた。それに関して感謝すると同時に、ひとつ懸念をしている」
謝罪と感謝、そして懸念。
騎士団の第8隊を束ねる長としての、正式な、重たい言葉だ。
隊長さんは少し間を開けて、私に真っ直ぐ伝えた。
「あの攻撃は、人が死ぬ」
「は、はい……」
私はそう頷くしかなかった。
私のくしゃみ攻撃がコントロールできているかと言われれば、「全くできない」というのが答えだ。
くしゃみの大きさに比例して、魔法のエネルギーが放出される。
隊長さん曰く、あれは自分の魔力をコントロールできていない証拠だと。
くしゃみだけでなく、ふとした瞬間、衝撃によって、いつ魔力が暴発してもおかしくないらしい。そうなると、爆発的な威力が砦の騎士に牙をむく。
だって、ワイバーンを消し飛ばすほどの威力だもん。人間くらいどうってことないだろう。
「ルーナ。お前はドラゴン――この世界のトップに君臨する生物だ。俺たちは、それを忘れていた」
隊長さんは、申し訳無さそうに言う。
私の尻尾もしゅんと下がっているのがわかる。
「そこでだ。しばらくは訓練をしてもらう。体内魔力の制御と……あとは飛行が出来るようになれ」
隊長さんはそんな提案を投げかけた。
出された課題は2つだ。魔力の制御と飛行。
どちらも私にはからきしだ。くしゃみで魔力は漏れ出るわ、背中についた翼は今日の今日まで動かしたことがないわ。ダメダメだわ、私。
「訓練には第7班をつける。それに……アイラ、お前も復帰するまでは手伝え」
「え、私ですか!?」
アイラが驚きの声を上げる。
アイラの怪我は、重くはないが軽くはないという感じ。当然だけど、剣を振るうなどの激しい運動は厳禁だ。
隊長さんは、どうせ暇なのだからとアイラにも仕事をあてがったのだ。
「私は、アイラと一緒なら嬉しいよ?」
「あーもう、かわいいわね! ……わかりました、できる限り鍛えます」
私が正直に感想を伝えると、アイラの表情はぱーっと明るくなった。
でもなんだか……違和感を感じるのは私だけだろうか。
「話は終わりだ。やり方は任せる。今日から取り組んでもらっても構わない。頼んだぞ」
「わかりました! ありがとうございます、隊長」
アイラはそう言って、再び騎士の礼をとった。
失礼しましたと声をかけ、アイラと私は廊下に出る。木製のドアがバタリと閉まったところで、アイラは口を開く。
「みっちりやるから。覚悟してよね」
なんというか、冗談には聞こえなかった。
彼女は王国騎士団の騎士だ。日々辛い訓練と任務に臨み、国の安全を維持する役目にいる人だ。
そんな厳しい環境で育った者が、教官の立場であればどうなるか。想像は容易についた。
「あっ、ちょっと!」
私は逃げた。アイラは好きだけど、しんどいのは嫌いだ。
――あの、ちょ、追いかけないで! 自分でなんとかするk
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