20.魔道士専門部隊
私は、森の中を走っていた。つい数十分前に通った道を逆戻りだ。葉っぱがペシペシと顔に当たるが、そんなことは気にしていられない。
道といっても舗装されているわけではなくて、動物や人が地面を踏みつけることによって自然とできた獣道だ。
だが道しるべがあるだけで十分。7班の人たちはここを通ってくるだろう。
私は必死に、森を駆ける。
「ルーナさん!」
少し離れたところから、ルルちゃんの声が聞こえた。
案の定、第7班の面々は増援のために現場へと駆けつけようとしていた。
「はぁ……はぁ……おっきいの、あいらっ……隊長さんがっ」
私は息も絶えだえに状況を伝えた。
が、全然伝わっていないようだ。
「……ルーナさん、落ち着いてください」
「一回深呼吸だ。ほら吸って…………吐いて…………」
ルルちゃんが言ったあと、エルマーさんが私に深呼吸を促す。
私は素直に従って、一度呼吸を整えた。すぅー……、はぁー……。
……うん、落ち着いた。
「別のワイバーンが、襲ってきたの。怪我人も出てる……!」
今度はなるべく正確かつ的確に情報を伝える。
深呼吸したおかげか、今度はゆっくりと整理しながら話すことができた。
「わかった、急ごう。ルーナは付いてくるかい?」
「うん。……隊長さんが一緒にって」
よかった! なんとか伝わったみたい。
エルマーさんはひとつ頷くと、後ろに続く第7班の騎士たちに号令をかけた。
「お前ら、助けに行くぞ!」
「うぉー!!」と士気に満ちた雄叫びがあがった。
さすがは班長だ。エルマーさんも、その部下も、みんなが闘志に満ちあふれていた。私が優しいおじさんと評した人間は、今、この場にはいなかった。
◇
広場では、まさに緊張が広がっていた。
いままさに交戦中。剣を構えた騎士たちが、決死の覚悟でワイバーンと対峙していた。
……それも2体。
「おい、増えてるじゃねえか」
エルマーさんが忌々しそうに言う。
広場の中央には、無残にも振りほどかれたロープだけが散らばっていた。
たぶんだけど、もう1体のワイバーンが拘束されているワイバーンを助けたのかもしれない。
「作戦変更だ、二手に分かれて援護にかかれ。……ルーナはルルと一緒に行動だ」
エルマーさんが咄嗟に指示を出す。
2つのグループに分かれる騎士たちに混じり、私はルルちゃんの背中を追いかける。7班の面々は交戦中の騎士の後方についた。
「うわ、でか……」
私の感想はまずそれだった。身長は2メートルは超えているだろう。
私は体が小さく、目線も低いので、とてつもなく大きく感じる。
茶色の体表と、縦に裂けた金色の瞳。私が成長した姿を見ているようだ(色は違うけど)。
ワイバーンは両手と一体になった翼を大きく広げ、威嚇しているようだ。実際、とても大きく、威圧的だ。
隊長さん含めた2班と4班の騎士たちは、みんな剣を構え、ワイバーンと向かい合っていた。
ワイバーンも騎士も、お互い決定打を与えられず、膠着状態が続いていた。
第7班は魔道士専門部隊。魔道士は、魔法を使って攻撃をすることができる。……つまり、遠距離攻撃が可能だということだ。
一応、2班と4班にも魔道士や弓兵はいるが、数が少ないので火力不足だ。とどめを刺すには至らない。
「撃て!」
エルマーさんが合図を出すと、一斉に攻撃がはじまる。
ワイバーンに対して手のひらを掲げると、その先から白く淡い光の玉が飛び出してきた。
「かっこいい……」
これが、魔法。
光の玉は、そこそこのスピードで飛び出すと、まっすぐ一直線にワイバーンに飛んでいく。そして、直撃するとその場でパンと炸裂が起きた。
連射はできないが、数の力でワイバーンを押し始めた。一発一発は決定打にはならないが、少なからず肉を穿ち、ダメージを与えている。
だが、
「がッ――!!!」
騎士の1人が、ワイバーンの尻尾でなぎ倒された。
その騎士はすぐに立ち上がるも、腰を強打したようで、このまま戦闘を続けられるようではなかった。
まずい。こちらも徐々にダメージを受けている。
「ライル、決めるぞ」
「わかりました、隊長!」
私達の前で剣を構えていたライルと隊長。
魔法攻撃で怯ませているのを契機と見たのか、一瞬見合うと、まずライルが駆け出した。重たいであろう剣をものともせず、跳躍。
そして斬りかかる。
「グオオォォォォ!!」
翼を切りつけられ、ワイバーンが叫ぶ。だが致命的ではない。
「いまだ!」
ライルが言うと、それを聞いて隊長が飛び込んだ。
黒い髪をなびかせながら、すっと空中に舞い上がる。重力を無視したかのような華麗な立ち回りに、敵も味方も圧倒される。剣は既にワイバーンを捉えていた。
「グギャアアアァァァ!!!!」
音もなく静かに、剣身はワイバーンの顔を縦に、垂直に貫いていた。
断末魔をあげるワイバーン。しかし頭を貫かれて生きていられるわけがなかった。
どさりと巨体が倒れる音。
その瞬間、騎士たちの間から歓喜があがった。
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