20.魔道士専門部隊

 私は、森の中を走っていた。つい数十分前に通った道を逆戻りだ。葉っぱがペシペシと顔に当たるが、そんなことは気にしていられない。

 道といっても舗装されているわけではなくて、動物や人が地面を踏みつけることによって自然とできた獣道だ。

 だが道しるべがあるだけで十分。7班の人たちはここを通ってくるだろう。

 私は必死に、森を駆ける。


「ルーナさん!」


 少し離れたところから、ルルちゃんの声が聞こえた。

 案の定、第7班の面々は増援のために現場へと駆けつけようとしていた。


「はぁ……はぁ……おっきいの、あいらっ……隊長さんがっ」


 私は息も絶えだえに状況を伝えた。

 が、全然伝わっていないようだ。


「……ルーナさん、落ち着いてください」

「一回深呼吸だ。ほら吸って…………吐いて…………」


 ルルちゃんが言ったあと、エルマーさんが私に深呼吸を促す。

 私は素直に従って、一度呼吸を整えた。すぅー……、はぁー……。

 ……うん、落ち着いた。


「別のワイバーンが、襲ってきたの。怪我人も出てる……!」


 今度はなるべく正確かつ的確に情報を伝える。

 深呼吸したおかげか、今度はゆっくりと整理しながら話すことができた。


「わかった、急ごう。ルーナは付いてくるかい?」

「うん。……隊長さんが一緒にって」


 よかった! なんとか伝わったみたい。

 エルマーさんはひとつ頷くと、後ろに続く第7班の騎士たちに号令をかけた。


「お前ら、助けに行くぞ!」


 「うぉー!!」と士気に満ちた雄叫びがあがった。

 さすがは班長だ。エルマーさんも、その部下も、みんなが闘志に満ちあふれていた。私が優しいおじさんと評した人間は、今、この場にはいなかった。



 広場では、まさに緊張が広がっていた。

 いままさに交戦中。剣を構えた騎士たちが、決死の覚悟でワイバーンと対峙していた。

 ……それも2体。


「おい、増えてるじゃねえか」


 エルマーさんが忌々しそうに言う。

 広場の中央には、無残にも振りほどかれたロープだけが散らばっていた。

 たぶんだけど、もう1体のワイバーンが拘束されているワイバーンを助けたのかもしれない。


「作戦変更だ、二手に分かれて援護にかかれ。……ルーナはルルと一緒に行動だ」


 エルマーさんが咄嗟に指示を出す。

 2つのグループに分かれる騎士たちに混じり、私はルルちゃんの背中を追いかける。7班の面々は交戦中の騎士の後方についた。


「うわ、でか……」


 私の感想はまずそれだった。身長は2メートルは超えているだろう。

 私は体が小さく、目線も低いので、とてつもなく大きく感じる。

 茶色の体表と、縦に裂けた金色の瞳。私が成長した姿を見ているようだ(色は違うけど)。

 ワイバーンは両手と一体になった翼を大きく広げ、威嚇しているようだ。実際、とても大きく、威圧的だ。


 隊長さん含めた2班と4班の騎士たちは、みんな剣を構え、ワイバーンと向かい合っていた。

 ワイバーンも騎士も、お互い決定打を与えられず、膠着状態が続いていた。

 

 第7班は魔道士専門部隊。魔道士は、魔法を使って攻撃をすることができる。……つまり、遠距離攻撃が可能だということだ。

 一応、2班と4班にも魔道士や弓兵はいるが、数が少ないので火力不足だ。とどめを刺すには至らない。


「撃て!」


 エルマーさんが合図を出すと、一斉に攻撃がはじまる。

 ワイバーンに対して手のひらを掲げると、その先から白く淡い光の玉が飛び出してきた。


「かっこいい……」


 これが、魔法。

 光の玉は、そこそこのスピードで飛び出すと、まっすぐ一直線にワイバーンに飛んでいく。そして、直撃するとその場でパンと炸裂が起きた。

 連射はできないが、数の力でワイバーンを押し始めた。一発一発は決定打にはならないが、少なからず肉を穿ち、ダメージを与えている。


 だが、


「がッ――!!!」


 騎士の1人が、ワイバーンの尻尾でなぎ倒された。

 その騎士はすぐに立ち上がるも、腰を強打したようで、このまま戦闘を続けられるようではなかった。

 まずい。こちらも徐々にダメージを受けている。


「ライル、決めるぞ」

「わかりました、隊長!」


 私達の前で剣を構えていたライルと隊長。

 魔法攻撃で怯ませているのを契機と見たのか、一瞬見合うと、まずライルが駆け出した。重たいであろう剣をものともせず、跳躍。

 そして斬りかかる。


「グオオォォォォ!!」


 翼を切りつけられ、ワイバーンが叫ぶ。だが致命的ではない。


「いまだ!」


 ライルが言うと、それを聞いて隊長が飛び込んだ。

 黒い髪をなびかせながら、すっと空中に舞い上がる。重力を無視したかのような華麗な立ち回りに、敵も味方も圧倒される。剣は既にワイバーンを捉えていた。


「グギャアアアァァァ!!!!」


 音もなく静かに、剣身はワイバーンの顔を縦に、垂直に貫いていた。

 断末魔をあげるワイバーン。しかし頭を貫かれて生きていられるわけがなかった。

 

 どさりと巨体が倒れる音。

 その瞬間、騎士たちの間から歓喜があがった。

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