17.緊急討伐任務
――私はいま、馬の上にいる。
カポッ、カポッ、と蹄が地面を打ち付ける音が鳴り響く。あとは、周りにいる騎士たちの足音。
そんな大勢の人々――徒歩で進む騎士たちを、隊長さんの騎乗で追従する。当の私はというと、馬の背中にしがみついて、みんなと同じ方向へと進んでいる。
あいにく馬の頭のせいで前は見えないけど、横を見ればどんどんと砦から離れ、鬱蒼とした森の中へと進んでいる。どうやら道はあるようだけど、当然舗装はされていない山道だ。みんな大変そう。
まだ昼過ぎなのに、辺りは徐々に暗くなっていく。木の枝が空を覆い尽くそうとしているからだ。私はちょっと不安になって後ろを振り向いた。
「ここってオオカミでる?」
「安心しろ。現れたとしても守ってやる」
隊長は目の前を進む騎士たちを見据えて言った。それと同時に私の頭を優しく撫でた。
やっぱり信頼しているんだね。私もあんな強面ムキムキマッチョの騎士さんが負けるとは到底思わない。
「そろそろ目標地点だ。ルーナ、ここから先は大きい声を出すな」
森を進み続け数十分。体感ではかなり奥へ来た気がしたが、まだこの辺は人が立ち入れるエリアらしい。
そんな場所で事件が起こったとなれば、騎士団として放置するわけにはいかない。
騎士たちは少し開けたこの場所で行進をやめると、荷物を置いてテキパキと準備を始めた。隊長さんも馬から降りて、みんなに指示を出していく。
拠点を張る、というと大げさだが、これからの作戦のための重要な足がかりとなる地点だ。班に分かれて忙しなく動く騎士たちを、私は隊長さんの馬の上に乗ったまま眺める。
……この馬、めちゃくちゃ大人しいね。馬って初めて乗ったけど、こんなに快適だとは思わなかった。たてがみがフサフサで気持ちいい。
馬の背中が描くカーブに身を任せ、ぐでーんと腹ばいになっていると、ふとルルちゃんが手招きしているのが見えた。
ピョンと飛び降りて、数十メートル先にいるルルちゃんの元へと向かう。
「班長が撫でたい、って言ってて……」
ルルちゃんがそう言って紹介したのは、30歳くらいの男性騎士。名前はエルマーというらしい。
第7班の班長でルルちゃんの上司。つまり「まどーし」の中でも偉い人ってわけだ。
そんなエルマーさんだったが、他の騎士に見られるような好戦的な香りはしない。むしろ、優しいおじさんって感じだ。
「いいよ!」
私は小声で答えると(言いつけを守れて偉い!)、エルマーさんの元へと近寄った。
エルマーさんは撫でる……というよりは、指先を軽く叩いたり滑らせたりして、私の体をくまなく観察し始めた。
なんというか、私のウロコの材質を調べているような手付きだ。いやらしい手つきでは全然ないんだけど、なんか、……恥ずかしい。
もちろん、お腹の方はウロコが少なくぷにぷにとしているので、触らせないように守る。くすぐったいし、もっと恥ずかしいからから。ここはアイラか隊長さんくらいしか許してない。
ちょっと微妙な気持ちになりながらも、エルマーさんに付き合っていたが、しばらくして騎士の一団が森の奥へと草をかき分けながら入っていくのが見えた。
「あれは?」
「4班と2班ですね。4班が直接攻撃して、2班が後方からサポートするみたいですよ」
「……抱っこして」
うまく見えなかったので、ルルちゃんに抱っこしてもらった。……ふう、視界が広くなった。
アイラやライルが見えるから、さっき奥へ入っていったのは第4班で間違いなさそう。そうこうしているうちに、第2班も中に入っていくようだ。
私はぶんぶんと手を振って、アイラを見送る。すると、第2班のメンバーみんなが気づいてくれたようで、全員こっちに手を振ってくれた。
「全く、緊張感の無い奴らだ」
エルマーさんが苦笑いしながらぼそっと呟く。
緊張感が無い、というより、私の所為で切れちゃったって感じがするけど、大丈夫かな。
「そういえばさ、今から何するの?」
第2班の面々が森の奥へと消えていったところで、後ろのルルちゃんに質問した。
「“ワイバーン”を倒すんですよ」
「わい、ば……?」
なんだそれ、と呆けた顔で私は聞いた。そんな無知な私に対し、ルルちゃんはワイバーンとやらについて詳しく説明してくれた。
ワイバーン――それは魔物の一種だ。魔物とは魔力を多く持つ生き物の総称だ。私、つまりドラゴンも世間では魔物と呼ばれているらしい……と、それは置いといて。
爬虫類チックな見た目と、翼を持ち自由に空を飛び回るという特徴から、ドラゴンに似ているとよく言われるそうだ。だがもちろん違いはあって、私は足が4本あるのに対し、ワイバーンは足が2本しかない。
「それって大きい?」
「大きいです。とても」
大人のドラゴンには到底及ばないが、人間と比較すればワイバーンも十分デカイ、らしい。
おまけに気性はかなり獰猛。空中を縦横無尽に舞いながら、目についた動くものを襲い続けるので、非常に厄介なんだとか。
だからこそ当然、人里に降り立てばすぐに討伐対象となる。今回私たちが行軍しているのも、街にほど近い森の中でワイバーンが確認されたからだとか。
「大丈夫、絶対勝てます」
ルルちゃんは、そう言いながら隊長の背中を見つめる。
私はちょっぴり不安だったけど、ルルちゃんの期待と、それから信頼に溢れた瞳に、なんだか安心させられた。
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