14.エリート
「ルルちゃんって確か、7班だったよね?」
「は、はい、そうです! ……先輩方は第2班でしたよね」
アイラが話のきっかけをつくると、ルルちゃんはそれに応えた。
ルルちゃんはとても緊張しているように見えたが、一方で拒絶的な感じではない。むしろアイラと話せて楽しそうだ。
「もう知ってるかもしれないが、俺はライルだ。よろしくな」
「よ、よろしくおねがいします。もちろん存じ上げております――というか、いつも訓練のとき見てました。立ち振舞が遠目でもわかるくらいかっこよくて、模擬試合のときも」
「お前、堅苦しすぎ」
目の前の騎士への羨望の眼差しのまま早口で語るルルちゃんを、ライルはそう制した。
聞くところによるとルルちゃんは、まだ新人らしい。それも超がつくほど。
ルルちゃんが馴染めていなかったのは、ここの騎士さんたちを怖いと思っていたからじゃなくて、緊張して萎縮しちゃっていただけなのかもしれない。
「も、申し訳ありません!」
「おい、そういうところだぞ」
「申し訳ありません!!」
「だからそういうとこだって」
「申し訳ありません!!」
堅苦しすぎるのが嫌なライルと、堅苦しく謝罪するルルちゃん。ルルちゃんが全然姿勢を崩さないので、だんだん収集がつかなくなっている。……なんか、この二人って、意外と相性良い?
そんな無限ループに突入した掛け合いを横に、私はアイラに耳打ちで一つだけ質問をした。
「あのさ、“ななはん”とか“にはん”って何?」
「そうね……。この第8騎士隊には9つの班があってね、私とライルは2班で同じチームなの」
「ふーん」
アイラは私のワキをぐいっと掴んで、自分の膝の上に座らせた。
まるでぬいぐるみのような扱いだが、全く悪い気はしないのでよしとしよう。
「ルルちゃんは違う班なんだね?」
「そう。それに第7班は少し特殊でね。魔道士だけで構成されているんだよ」
「まどーし?」
また知らない単語が出てきた。まだこの騎士隊には謎がたくさん秘められているな……。これからも探検、もとい散歩を続けていきたいと思う。
わたしはくいっと首を傾げて、疑問という感情を体でもって表現する。
するとアイラではなく、ルルちゃんが口を開き回答した。
「魔道士っていうのは、“魔法”を使える人のことなんです」
「魔法? があるの?」
「はい、そうなんです。ルーナさんが火を吹いたり、空を飛んだりするのも、魔法の一種なんですよ」
…………えっ。私は空を飛んだことも、火を吹いたこともないけど……。
えっと、ドラゴンって本来そんなことができるの? 本当にできるんならめちゃくちゃ強そうだ。
でも私、高いところは得意ではないし、火の扱いとか下手そうだし。寝てる間にくしゃみと一緒に火が出たらどうしよ……火事になったら本当に大変だ。
「わたし、くしゃみしないように気をつける」
「急に何の話よ」
きっぱりとそう宣言したが、アイラに笑われてしまった。わりと本気なのに。
相手にされなくて、ちょっとむっすりとしていると、今度はライルがルルちゃんに話しかけた。
「そういえば、お前って第2隊の内定を蹴ってここに所属した……って噂があるんだが、本当なのか?」
「えっ、そうなのルルちゃん!?」
「お前は何で知らないんだよ」
「えっと、はい、そうです。でも私は第8隊に入りたくて」
アイラが驚嘆から普通に大きい声を出した。ちょっとびっくりした。
騎士団には、たくさんの第なんちゃら隊っていうのがあって、第1隊と第2隊は上位のごく一握りしか入れない、超エリートなところらしい。ルルちゃんすごい。
でもルルちゃんはその所属を蹴って、あえてこの辺境の第8隊に来たらしい。普通に考えれば、チャンスをドブに捨てるような行為だけど、なにか考えがあってのことだろうか。
「…………ウェルナー隊長に憧れまして」
「わかるぞ。俺もだ」
そう言ったルルちゃんに、うんうんと同意するライル。
へえ、隊長さんってすごい人なんだね。私の中では「いつもおやつくれる人」ってイメージだ。実際、全然間違ってないけど。
「ルルちゃん、隊長さんのどこに――」
「まあ私に負けているようじゃ、隊長に届くのは到底ムリね」
「今月の話だろ。今年で言えば、俺のほうが勝ってるからな」
「過去の栄光にすがるのは止めたほうがいいんじゃない? ライルの悪い癖よ」
「すまないな、直視できない過去を掘り起こしてしまって」
ルルちゃんに質問しようとしたところ、それは突然遮られた。発端はアイラの軽くおちょくるような一言だったが、ライルもそれに応戦。だんだんヒートアップして、口喧嘩のようになった。
えっと……急にどうしたの、仲良くしようよ。ルルちゃんもあわあわしてるし。
でも周りの騎士たちは、不思議と喧嘩を止めようとしない。言い合いに気づいていながらも、食事をしながらその様を見学している。
「ふーん、そう。ならやる?」
「当たり前だ。……ルルとルーナも練習場に来い」
……なんだこれは。これから殴り合いの喧嘩でもするのか? しかも私達まで呼ばれたし。ルルちゃんと私は神妙な面持ちで目を見合ってから、席を立つ二人の背を追うのだった。
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