12.愛しのおやつ
「すげぇ、ホンモノのドラゴンだ」
「ウロコって噂通りめちゃくちゃ硬いんだなあ」
「お前意外とかわいいな」
……これはどういう状況でしょうか。
「うわっ、ひんやりしてるぞ!」
「尻尾長ぇ……」
「ちっこいな、まだ子供か?」
私の周りには……人、人、人。それも、全員が全員コワモテの男たちばかりだ。
そのコワモテの男たちが、よってたかって私に触れたり話しかけたりしながら、観察をしている。控えめに言ってすごく怖い。悪意がないということだけはわかるのだけど、……やっぱり怖いもんは怖い。
「あの、よろしくおねがいします……」
「喋れるのか!!」
「すげーな」
「声かわいいな」
私が一言しゃべると、歓声が上がった。
私を取り囲んでいるのは、砦の騎士たちだ。お昼の休憩時間に食堂に連れて行ってもらったのだが、席についた途端この有様だ。
みんな食事そっちのけで私を見ようとしている。私を中心に人だかりができているくらいだ。
私を取り囲む騎士たちは、大体が筋骨隆々で、とても顔が怖い。
アイラやライルは華奢な方だが、この中でこの体格なのは少数派なようで、他の人達は揃いも揃って筋肉モリモリのゴツゴツの肉体だ。訓練の賜物だろう。
みんな格好から、かろうじて騎士であることがわかるけども、顔だけ見ればゴロツキだ。見た目で判断するのは良くないけど……良くないけどさ、皆さんちょっと顔が近い!
私は目をうるうるさせながら、近くを通りかかったアイラに助けを求めた。
「あ、アイラ……! たすけて……」
「ねえみんな、ルーナが怯えてるでしょ! 自分の席に戻って」
声を張り上げて、私を取り囲む騎士たちを律するアイラ。
私はその隙に椅子から飛び降りて、するすると男たちの足の間を抜ける。そしてアイラの体をよじ登ると、胸のあたりにすとんと収まった。
「あぁ……逃げちゃったよ」
「めちゃくちゃ懐いてるじゃねえか」
「よく見つけたよな、ドラゴンなんて」
「俺の見た目がもっと怖くなければなぁ……」
騎士たちは私とアイラにそんな言葉をかけながら、しぶしぶといった様子で自分の席へと戻っていった。
ふう、やっと落ち着くことができる。私達は適当に目の前のあいてる席につく。
アイラはカタンと机に料理の乗ったトレーを置いた。その上には色とりどりの料理が並んでいる。いい匂いだ。
「ごめんねルーナ。顔は怖いけど、悪い人たちじゃないから」
……それはなんとなくわかる。みんなに何の悪意がないのも、本当は勇敢で優しい騎士であることも。
でも見た目がなあ、どうしても怖いんだよ。みんな犯罪者顔ばかり。
私基準で怖くないのは、アイラにライルに隊長に…………っと、あれは?
「アイラ、あの女の子は?」
私の目に留まったのは、食堂の隅っこの机でひっそりと食事をとる一人の黒髪の女性騎士。
この広い食堂の中、見回しても一人でご飯を食べているのは、彼女のみだ。
「ああ……あの子はルルちゃん。つい最近ここに来たばかりの新入りだね」
「ひとりなの?」
「そうだね……まあ、まだ馴染めていないんじゃないかな。私も出来るだけ声を掛けてるんだけど」
「うーん、人見知りなのかな」
よくよく聞くとこの砦には、アイラとルル以外の女性はいないらしい。超がつくほど男だらけのむさ苦しい所だ。騎士たちみんな優しくて仲がいいらしいけど……彼女にとって馴染みづらい環境でもあるのだろう。
「多分ね。すごくいい子なんだけどね」
「――お前も最初あんな感じだったじゃねえか」
ふと背後から声がかかる。聞き覚えのある声色だ。
「げっ、ライル」
「なんだ、俺のことが嫌いか? ルーナ様?」
ふっと鼻で笑いながら、私の頭を軽く撫でるライル。
私はそんなふうにおちょくってくるライルを一蹴する。
「好きじゃない」
「あーあ。ならこれはお預けだな」
するとライルは、ポケットから茶色い物体を取り出した。
見覚えのある、香ばしい香りを放つ細長い物体。……そう、私の好きなジャーキー!
「ら……ライルのこと、嫌いじゃないよ?」
「さては、隊長に餌付けされまくったな?」
正解です……な、何故分かった。
隊長は騎士たちにとっても厳しいけど、私に対してはとても優しい。
私がドアの前で佇んでいると「開けられないのか?」って言って開けてくれるし、隊長の部屋でゴロゴロしていたらそれを見かねてふわふわのカーペットを置いてくれたし、なによりおやつを沢山くれる。
「おやつで機嫌を取ろうとしない。ルーナもご飯の前におやつは食べないの」
そんなやり取りを繰り広げていると、間に入ったアイラがジャーキーを取り上げる。
あぁ……私の愛しのおやつが……。
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