第9話

 情華の住む2LDKの部屋の中からどんどん物がなくなっていく。

『ゴーレム少女(仮)』を一つ作るための代償としては安いと考えていたが、見る間に消費していくことに比例して、私生活が削り取られていくというのは思いのほかストレスを感じるものだと、遅まきながら知ることとなった。

 とはいえ、いまさら情華がアンジを生み出す幸福を手放すことは出来るはずもなかった。

〝大切なもの〟という定義も疑うほどに曖昧なもので、ときには情華にとってあまり用をなさないものですら『ゴーレム少女(仮)』を作り出すことが可能だった。だがまあ、情華のアンジに対する想いが〝自分にとってどうでもいいもの〟を良しとせず、ゆえに、室内にある私物は率先して利用することにしていた。それで満たされる想いなのだから情華自身の生活がままならなくなろうとも、それに伴うストレスに晒されることも厭わなかった。

 例えば、多少値が張ったお気に入りのリップ。誰からも褒められることのなかったネイルカラー。そんなに多くを持っていなかった化粧品はあっという間になくなってしまう。会社に行くことをやめて必要なくなったものたちをアンジの肉体に捧げていく。

 物理的に浴室に持ち込むことにできなかったものを除いて――むろんアンジと愛し合うベッドだけは別物――細々としたものから手ごろな家電製品や、衣類はあっという間になくなっていった。アンジの肉体に昇華し、私のお腹で消化する。ものを無駄にしない、という観点で見た場合、これほど完成されたシステムはないと思える。そう。このような非常識な商品を、上限である一〇〇個まで購入してしまうような真っ当ではない類の人間なら理解できるよくよく完成されたシステム。……流れ、だ。

 情華は一人、誰もいなくなった後の寝室で暗い笑みを溢す。

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