第8話

 蜜月の日々は流れるように過ぎていった。ほぼ毎日欠かすことなく情華は『ゴーレム少女(仮)』を作ったのだ。

 それはもちろん、アンジに会うため。アンジに愛されるため。アンジに拠り所を求めてのため。というのが主な理由だが、それとは別の事情もあった。

 大量の『ゴーレム少女(仮)』の買い物によって情華は私生活を切り詰めることを余儀なくされていた。それは苦ではない。むしろ幸福な節約だったのは確かだが……。結果的に一番割を食ったのが、食費である。

 以前から、十分栄養が取れているとは言い難かった情華の体形は、これを期により貧相なものへと変っていった。不自然にやせ細った身体は見るに痛ましい。しかし、アンジはそれら総てを受け入れ愛してくれた。情華に不満などあるはずもなかった。常の空腹状態は一日一回の『ゴーレム少女(仮)』の本来の使用目的――ジョークグッツたる所以――である摂食でのみ埋められた。

 これはお互いにとって悦ばしい行為となった。倫理的にどうのこうのと他者が非難する隙もない愛による崇高な別れの儀式である。

 アンジにとっては情華を生かすために、文字通り余すところなく情華のために身を捧げる行為。

 情華にとってはアンジを食べることは、彼女を一個の個人と認め、自身と同化することを可能にする行為。

 その悦びに身悶えするのは当然で、行為の異常性は両者に背徳的な快楽をもたらした。

 しかし、いくら食べたところで日に一度、極度に疲弊した後のささやかな食事である。これによって情華の栄養バランスが改善されることはなく、消費することで失われるアンジの肉体もスポンジのような軽さで腹を十分に満たすことなく、物足りなさが常に付きまとった。

 情華が異常なまでにアンジに執着するのも、この常に付きまとう飢餓感が転化してのものである。と、彼女が気が付いていれば、結末はまた違ったものになっていたかもしれない。

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