【アマチュア創作と倫理】 2

(注)2017年の記事です  


 前回(「アマチュア創作と倫理 1」)から随分と時間がたってしまいました。その間に興味深い出来事がありましたので、そのことについて取り上げながら「プロとアマ」について考えていきたいと思います。


「役所から「ギャラ削減のために本名で落語やってくれ」と頼まれて断ったら不幸の手紙が届いた」(https://togetter.com/li/994849)


 昨年のことですが、落語家の司馬龍鳳さんが無料でのお仕事(?)を頼まれたというんですね。それを本人がツイートしていて、そんなことあるんだなあ、というのが私の最初の感想でした。クリエイターなどが無料で何かを頼まれる、というのは割とよくあることです。ただこの話、ここから意外な展開になります。


「司馬龍鳳氏はプロの落語家じゃない」という指摘から「プロの落語家とは」について考えるまとめ」(https://togetter.com/li/995430)


 なんと、嘆いていた龍鳳さんはプロの落語家ではない、と指摘する方が出てきたのです。落語に詳しくないと、なんでそんな話になるのかよくわかりませんね。

 柳家東三楼さんは「アタシの定義、関東ではですが、師匠に入門して、前座なり、二つ目なり、真打ちの地位にいる。これだけです。前座、二つ目で師匠のとこクビになったり、辞めた人は素人です。」と述べています。たとえ技術があってお金をもらっていても、ちゃんとした手順を踏んで真打になっていないとプロではない、という立場ですね。

 それに対して立川志らくさんは「プロの本質的な定義はそれで食えるか否か。一流はファンを魅了出来るか否か。アマチュアでも落語で食えて沢山の人を魅了出来ればそれはプロと何ら変わりがない。立川流を寄席に出ていないからプロでないなんて言う奴は負犬の遠吠え。」と述べています。プロとは技術があってお金をもらえて、というところを重視しているように感じます。

 私は、どの見解が正しいかをここで決めたいわけではありません。この事例から、同じ落語家でも、いろいろな見解があり得る、ということがわかってもらえればと思います。

 前回に私は、このように言いました。


 とはいえ、アマチュア創作者を定義するのはなかなか困難です。たとえば「プロゴルファー」のように、資格によってプロになる競技では「それ以外はアマ」と言ってしまえばいいかもしれません。(これでさえ、「トーナメントに参加しているのがプロ」と考える人もいるでしょうが。) 資格などがない「作家」や「絵描き」となれば、問題はどんどん複雑になってきます。専業だけど食べていけない人、副業だけど十分な収入を得ている人、雑誌に連載しているけど本はあまり売れていない人、同人誌が爆発的に売れている人。世の中には様々な創作者がいますが、誰と誰が「アマチュア」なのでしょうか。(「アマチュア創作と倫理 1」)


 師弟制度がある落語でさえこのように見解が分かれるのですから、創作においてはもっとややこしいでしょう。前回も述べましたが、「様々な見解がある」ことを理解し、自分の考えこそが正しいと決めつけないことが重要だと思います。

 ただ、プロとアマを明確に分けることは難しいですが、自らがプロかアマかということははっきりさせておくことが重要という場面はあるでしょう。龍鳳さんも自らをプロと規定していたからこそ、仕事に対して対価を求めたわけです。彼が「アマと言われるなら無料でする」と受け入れてしまうと、他者からアマと思われても仕方ないことになりますし、再び無料で仕事を頼まれてしまうでしょう。また「落語家には無料で頼める」と思われるとそのような依頼が相次ぎ、他の落語家も無料で頼まれることになり、迷惑をかけてしまうでしょう。龍鳳さんがプロかアマかとの問題とは別に、「プロの落語家であると自覚する龍鳳さんがプロとしての扱いを求める」というのは、筋が通ったことであり、他の落語家の立場を守ることにもなると思います。

 そんなわけで今回は、受け手側からしてみれば「誰がプロでだれがアマか」ははっきりと定義しにくく、当事者たちでも見解が分かれるということについてでした。そこから少しだけ「自らをプロとアマ、どちらに定義するか」について触れてみましたが、皆様はどう感じたでしょうか。こう書きつつも、そのようなことがあいまいだからこそいい点もあるのではないか、と考えることがあります。それで問題が起きなければ「あいまいさ」は自由な創作につながると思うのですが、どうしてもトラブルは起きてしまいます。創作に関するそのようなトラブルをどうすれば防げるのか、その点についてもいずれ倫理学的に考察してみたいと思います。

 次回からは、具体的な創作ジャンルを眺めながらいろいろとアマチュア創作について語っていければと思います。



初出note(2017) https://note.com/rakuha/n/n53ea0707db5d

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