『青い麦』を発見する

(注)2018年の記事です



 『青い麦』、作者はコレット、訳者は堀口大學。だが、この本を買った決め手は値段であった。当時、280円。25年前の私にも手が出しやすい値だ。ちなみに同じ理由で、友人も買っていた。

 当時の文庫は文字も小さい。よって、多くの文字を楽しむことができる。子供の頃はそんな言葉を知らなかったが、コスパがいい。


 すでに大人向けの本も読んでいた私だったが、この話には驚かされた。少年と少女、そして大人の女性が登場する恋愛の物語だ。そこはいい。ただ少年と少女は、ブルターニュの海岸に避暑に来て出逢うのである。なんだそれは。私も休みのたびに母方の実家に行っていたが、多分それとは違う。優雅な家族同士の、贅沢な交流。いや、それが普通なのか? 別世界の話だ、と思った。


 私は淡々とこの話を読み進めたが、実のところよくわかっていなかった。小説に書かれている比喩がわからず、少年がただ女性の家に通っていると思っていたのだ。かわいい若さではないか。少女の気持ちも全く分からなかった。わからなかったが、少年の方が弱い立場にある、ということは感じ取れた。

 結末に至り、なんとなく何が起こっているのかが分かった。分かったが、少年よりも幼い私は、少年の苦悩がわかる由もなかった。


 再読する本は少ない。売ってしまったものも多い。しかし『青い麦』は本棚にあり続けた。いつか理解する日が来たら。そう思っていたのだろうか。

 青年になった私は、ついに比喩の意味を理解したうえで、この本を開いた。そう、比喩だったのだ。何が起こっていたのかがわかれば、物語も変わって見える。そして、少女の視線から物語を見渡すこともできる。


 これから読書しようとする人にとっては、多くの物語の中の一つの候補、でいいと思う。子供の頃読んで、ぼんやりとした印象しか持てなかった人。そんな人にはぜひ再読してほしい。今こそ『青い麦』を発見できるだろう。



初出 note(2018) https://note.com/rakuha/n/n71b13fd8a899

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