ワニが思い出させる「あまちゃん」

(注)2020年の記事です


 きくちゆうきさんの「100日後に死ぬワニ」という漫画が話題である。擬人化された動物たちの日常を描く作品で、一日一話のペースで上げられている。描かれているのは、主人公の趣味であったり恋であったり友情であったり、ほっこりしたり切なくなったりといったものである。しかしタイトルが、全ての話にスパイスを加えていく。

 ワニは、死んでしまうのだ。

 誰もが、いつかは死ぬ。けれども、いつ死ぬかはわからない。ワニを含め、漫画の住人達は、誰も知らない。それなのに読者である私たちは、それを知っている。そのことにより、全ての話に対して「ああ、でもこのワニは近々死んでしまうんだ」と思ってしまう。

 漫画は必ず一日一話アップされ、ワニの寿命が一日ずつ短くなる。避けられない。すでに苦しくて見ていられない、という人もいるようだ。



 この、確実に一日一日が経過していく感覚は、身に覚えがあった。それは、朝ドラの「あまちゃん」で感じたものだった。

 朝ドラはほぼ毎日放送されるので、「あまちゃん」に限らず毎日少しずつ話が進んでいく。しかし「あまちゃん」が他とは違ったのは、ドラマの中であまり時間が進まない、という点だ。多くの朝ドラでは、主人公が子供の時代から話が始まり、青春時代を過ごし、大人になり、家族を持ち……という物語が展開されていく。しかし「あまちゃん」で描かれたのは、主人公の青春の一ページだ。

 けれども、それだけではなかった。登場人物は誰も知らないが、視聴者はみんな知っていた。いずれ、大震災が来ることを。

 物語の中で、挫折を経験する主人公。それを乗り越えていく物語が、描かれていく。ずっと、面白い話が続いていた。でも、いずれ「あの日」がやってくる。日常が劇的に変わってしまう。心が、ざわつく。

 


 ワニは、どうなるのだろうか。タイトル通りならば、あと二か月もたたずに死んでしまうのだ。今のところ、死につながるような病気を持っている、という描写はない。しかし、死をにおわせるような話は時折現れるようになった。作者だけが知る結末と、読者も知る運命。どんな展開、結末になろうとも、この漫画はしばらく語り継がれるものになるだろう。

 そして、「あまちゃん」をまた見たくなった。そのときはきっと、一日一話ずつがいいだろう。


初出 note(2020)https://note.com/rakuha/n/n20328c6353b1

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