「ファンタジー」という感覚
以前、ニコニコ動画でアニメ『アルスラーン戦記』を見ていたとき、気になるコメントがあふれかえる瞬間があった。敵の陣営に魔導士のような存在がにゅっと現れたところ、「ファンタジーだったのか!」というコメントだらけになったのである。
確かにそれまでは、超人的な人間は出てくるもののいちおう「普通の人間たち」の物語ではあった。魔法的な存在は突然出てきたので、「そういう世界観だったのか」と思った人が多いのはわかる。ただ、私は思った。「最初から架空の世界だよなあ」
『アルスラーン戦記』は中世の中東っぽい世界観だが、実在の国や民族が出てくるわけではない。この世に存在したことのない「パルス王国」が舞台である点で、「ファンタジーだなあ」と私は普通に受け止めていた。しかし最初の方では現実世界を逸脱した存在が出ていないため、「ファンタジーではない」という認識で見ていた人もいるということなのである。
なんとなくSFかどうかみたいな区別なのか、と思った。科学的なフィクションではなく、「存在的なフィクション」があることによってファンタジーだと感じるのである。確かにこの世にいない(いなかった)存在が出てくれば、明確にファンタジーっぽいと感じる。ただそうすると、そういう存在が出てこなかった場合「ファンタジーではない」と思うのだろうか。
私は「ファンタジーの明確な定義」をしたいわけではない。「ファンタジーと感じる感覚」というものがあるとしたら、世界設定とは別に「存在設定」というものが重要なのだな、と思ったのである。例えば物語の中に幽霊が出てきたとして、「ファンタジーだ」というコメントがあふれることはないだろう。これが精霊になると少し増えると思う。おそらく「架空の存在」という明確な定義ではなく、「ファンタジーっぽい存在」に対して「ファンタジーだ」と感じる感覚があるはずだ。
残念ながら、「ファンタジーだったのか!」というコメントにあふれるのは、別の作品ではまだ見ることができていない。「人々がファンタジーと感じる境界線」みたいなものは大変興味があるので、またそういう場面に遭遇したいものである。
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