「高さ」の解放
皆様、「筋肉バスター」は実在する技ということをご存じでしょうか? 私も初めて見たときは驚いたのですが、やはり漫画のものとは少し違いました。キン肉マンはひょいとかついでジャンプするのですが、人間には無理です。コーナーポストに一度上げておいて、よいしょ、と担いだ後その場で尻もちをつきます。
『キン肉マン』と言えばびっくりするような必殺技が多いわけですが、実在する技も多く使われています。たとえばテリーマンの必殺技、カーフブランディングやテキサスクローバーホールドはほとんどプロレス技そのままで描写されています。他にもブレーンバスターなどが得意で、一番人間に近い超人かもしれません。最近ではウォーズマン式のパロ・スペシャルをするレスラーもいます。漫画の技を実現させたい、と思う人も多いのでしょうね。
とはいえ、やはり実現不可能な技も多く存在します。キン肉マンの他の必殺技、筋肉ドライバーやマッスル・スパークも人間ではまず実現不可能です。大きく跳躍して、空中で技をかけ、そのまま落下してこなければならないからです。ロビンマスクのロビン・スペシャルやラーメンマンの九龍城落地も、同様の「人間離れした跳躍力」を必要とする必殺技です。
こうして考えると、超人たちの強さを表現するのに「人間離れした跳躍力」は非常に便利なことがわかってきます。高さの限界を与えないことで、オリジナルの技が多く考案できるわけです。
実はこんなことを考えるきっかけは、『るろうに剣心』の映画を観たことでした。主人公剣心は、漫画では脅威的な跳躍力を利用して様々な技を繰り出してきます。多分十メートル以上跳んでます。しかし映画では、それほど跳んでいるようには見えませんでした。もし原作にこだわってむちゃくちゃ跳んでいたら、全く別の映画になっていたでしょう。あえて漫画でこそ表現できる部分をそぎ落とすことによって、リアリティを失わないすっきりしたバトルシーンが出来上がったのでは? と思ったのです。
そういえば『キャプテン翼』でもやたらと跳んでいたし、『ドラゴンボール』の悟空と天津飯の戦いも「いかに上空を支配できるか」の戦いでした。(そしてその後の物語ではみんな飛び始めます) 漫画では「高さを解放する」ことによって、現実では起こりえない様々な表現が可能になるようです。だからこそそれを実写にするときには、高さをどこまで規制するのかが問題になるのでは? と考えました。
フィクションだから小説でも一緒かと言うとどうも違って、文章で「高く跳び上がった」と書いてもせいぜい二メートルぐらいまでしか想像できませんし、「十メートル以上跳び上がった」と書くと嘘くささが増す気がします。やはり絵だからこそできる「高さの限界突破」というものがある気がします。
そんなわけで、「高さ」に注目して漫画を読むのも、案外楽しいのではないでしょうか。
初出 note(2015) https://note.com/rakuha/n/n309a3faa141e
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