46話正式加入

騎士爵位、それは継承権のない準貴族のことである。


平民と貴族の間と言えば良いのか。


平民が功を上げることで、王家から受勲される階級である。


そこで更に手柄を上げることで、準男爵の爵位へと上がっていくことができる。


ちなみに準男爵の爵位以降には継承権がある——そこからが本物の貴族となる。


「し、しかし良いのですか? わ、私が……?」


「ええ。このパーティーのリーダーでありますし、今回の立役者でもあります」


「いや、しかし……私だけの力ではなくて」


「団長、受けとんな」


「そうですよー、私は無理ですし」


「オイラもです」


「アタイは言うまでもないね」


「ワタクシは……無理ですわっ!」


後ろを振り返り思う……うん、ひとまず俺が受けるべきだと。


「ご安心ください。騎士爵位といっても、特にすることはございません。正直申しまして、平民と大差はございませんから。今まで通りの生活を送ってください」


「わ、わかりました」


「それでは失礼します」




 その日の午後に、今度は役人さんが訪ねてきた。


 そして、ことの顛末を説明してくれた。


 結局、伯爵も行方不明になったが……。


 悪事の証拠は残っており、指名手配されることなったと。


 爵位も剥奪され、身内も罰せられると。


 新たな領主となる人物が、すぐにても決まると。


 つまり、これにてひとまず解決となったようだ。


 ただ一つのことを除いては……。



 王都へ帰還する前に、アテネさんがいないことに気づく。


もしや、もうどこかに行ったのと思い探していると……。


丘の上に佇んでいるアテネさんを発見する。


 俺は静かに隣に立つ。


「アテネさん……」


「良いさ、気を使わなくて。死んだか生きてるかわからないけど……どっちしろ、捕まっていたら死刑は免れないだろうって言ってたし」


 証拠を見つけた役人さんに聞いたところ、そういった返事が帰ってきた。


「そうですか……」


「むしろ、アンタたちを手伝って良かったよ。じゃないと、アタイまで疑われるところだったって言ってたしね」


 双子の姉妹で顔もそっくりだしな。

 双子と知っていなかったら、アテネさんを捕まえる人もいただろう。

 さらに、協力したことでアテネさんには何も罰はないそうだ。


「これからどうするんですか?」


「そうさね……もし生きていたとしても、見つけちゃいけないしね。アタイにとっては、父親が誰とかどうでも良かったのに……あのバカ」


 その目からは涙が零れおちる。


「父親は選べませんしね……」


 俺は見て見ぬ振りをして、空を眺める。


「おや? アンタも何かあるのかい?」


「ええ、まあ……父親に嫌われていましてね」


「苦労してんだね、アンタも。それなのに、そんなに真っ直ぐに育つとは……」


「幸いなことに、母上には愛されているので」


「なるほど……アンタ達さえ良ければ、アタイをパーティーに入れてくれるかい?」


「えっ? こっちとしては願ったりですが……良いのですか?」


「放浪するのにも飽きたしね。何となく、アンタ達といたら退屈しなそうだ。あと……気に入ったんだよ、アンタ達のこと。それに、アタイみたいな大人がいないと大変そうだし」


 そう言い、微笑む。

 その顔には、もう涙は流れていない。


「わかりました。では、これからよろしくお願いします」


「ああ、よろしく頼むよ……さん」




その後、みんなにも報告をする。


「ああ、良いと思うぜ。これで後衛も揃ったしな」


「私の負担も減りますしねー。賛成ですっ!」


「わぁ……! オイラは大歓迎ですっ!」


「良いですわっ! ワタクシが色々と教えてあげますわっ!」


「いや、お前が入ったの最近だし。というか、ランクはアテネさんが上だから」


「そ、そんなことは分かってますっ!」


「クスッ……悪くない気分だね」




支度をして、王都への道を進む。


すると、この国に疎いシノブが聞いてくる。


「これからどうなるんですかー?」


「そうだな……まずは新たな伯爵が選出される」


「それって、どうやって選ぶんです?」


「子爵の中から功績のある者が選ばれることになるかな」


「それって誰ですかー?」


「今だと……シャロン-グラム子爵とか」


「誰です?」


「剣聖大会で、二回連続で叔父上と決勝戦を戦っている方だ。性格は温厚で、礼儀正しく、武力もある。あの地が生まれかわるには、そう言った人が相応しいかもしれない」


「ほぇ〜そんな人がいるんですねー」


「まあ、わからないけどな」




そんな会話をしつつ、王都へ帰還する。


そのまま、冒険者ギルドに報告へ向かう。


中に入り、俺だけがギルドマスターの部屋に入る。


「失礼します」


「ユウマ殿、ご苦労様でした」


「いえ、私がしたことなど大したことではありません」


「謙遜しすぎるとかえって良くないですよ?」


「うっ……いえ、その」


「まあ、いいでしょう。貴方の美点でもありますし、まだ若いですから」


「は、はぁ……」


「いけませんね、説教臭くなって……さて、これにて依頼完了とします。報酬は、後日お渡しします。そしてランクアップもですね」


「……少し早すぎるのでは?」


「いえ、働きに応じた処遇ですよ。この短期間で片付けられるとは思いませんでしたし。一緒にいた四級の方々が、貴方を上げるように申し出てきました。あの腕前とパーティーを燻らせるのは勿体ないと。同意見ですね」


「わ、わかりました」


俺としてはこう言うしかない。


というか、ずっとそんなことを言っているな。


しかし……騎士爵位に、五級へのランクアップ。


どうも実感は湧かないが、これで目的に近づいたと言っても良いだろう。


一度、エリカに会いに行くとするか。

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