45話戦いの終わり

 や、やったのか?


 頭では理解していても、思考が追いつかない。


 皆も同様に黙り込んでいる。

 しかし、一人だけ違う奴がいた。


「オーホッホッホー! 見ましたかっ! ワタクシの魔法を——きゃぅ……」


「おっと」


 残る体力を振り絞り、ホムラを受け止める。


「ユ、ユウマ……」


「全く、大した奴だよ」


「凄かったですねっ!」


「あんなの食らったらひとたまりもねえな」


「へぇ、やるじゃん」


「と、当然ですわっ! ワタクシは一流の魔法使いですからっ!」


「ああ、その通りだ」


「ちょっ……真顔で言われると照れますわ……」


「むぅ……良い感じです。でも、今回は譲りますかねー」


「譲るも何もないがな」


「へっ、呑気なこった」


「若いってのは良いね」


「あ、あれ……?」


「おっ、気がついたか」


「お、終わったんですか?」


「ああ、イージス。お前のおかげでな」


「オ、オイラは何も……気を失って……」


「最初に立ち向かったのはお前だし、時間を稼いだのもお前だ」


「正直言って見直したよ、アンタのこと。いつもおどおどしているからさ」


「アテネさん……ありがとうございます!」


 どうやら、一番の薬のようだ。


「春ですかねー」


「なんのことかしら?」


「俺にも来ないかね……」


「アロイスなら、そのうち良い人が現れるさ」




 その後屋敷を捜索するが、誰も見つからない。


「どういうことだ? 伯爵は?」


「妹も、結局いなかったね……もう、どこかに行ったんだろうか?」


「伯爵を連れてですかー?」


「捕まった伯爵は、間違いなく死刑になりますわ。だから、その前に自分で殺した?」


「ありえるかもね……部屋には妹の弓と血の跡が残って——だが、死体がない」


「あとは、国の調査を待つとしましょう。我々も、これ以上は身体が動きませんし」




 その後、国の使いが来て調査を開始する。


 俺たちは起こったことを伝え、ひとまずその場を去る。


 俺たちはお役御免ということで、都市の宿にて疲れを癒すことにする。


 そして……夜が明ける。


「フゥ……身体は異常なしと」


 あれだけの魔力を消費したのは初めてだった。


「しかし……なんだ? この感覚は?」


 昨日よりも、さらに増加している気がする。


「おう、ここにいたか」


「シグルド殿……」


「今は誰もいないぜ」


 周りを見ると、まだ誰も起きていない。


「叔父上、どうしたんです?」


「いや、朝帰りでよー」


「全く……仕方ない人だ」


 解毒の魔法をかける。


「おっ、サンキュー。しかし、オーガを倒すとは……よくやったな」


 叔父上が褒めることなど滅多にない。

 俺は嬉しい気持ちを抑え込む……何より、それは俺の手柄ではない。


「あ、ありがとうございます。しかし、それも仲間の力があってこそです」


「わかってるなら良い。そして、それもお前の力だ。甘ちゃんで、世間知らずで、生真面目で……つまらん」


「も、申し訳ない……」


「だが、今の時代には必要かもしれん。どいつもこいつも、自分のことしか考えない奴らばかりだ。俺も含めてな……お前なら、民に寄り添える良い貴族になれるだろうよ」


「えっ!? い、いや、俺にその気はないのですが……」


「ああ、ミストル家の話じゃねえよ。さて……場所を変えるぞ」


「はい?」


「今のお前なら楽しめそうだ」



 ひとまず叔父上についていくと……。


 ひと気のない空き地に到着する。


「ここなら迷惑はかからんだろう。さあ、かかってこい」


「……わかりました——いきます」


 あれ? 身体から軽い?

 その勢いのまま、剣を叩きつける。


「むっ……やはりか」


 鍔迫り合いの状態になる。


「叔父上?」


「いや、良い——いくぞ」


 その声に震えが止まらないが……それでこそだ。


「はいっ!」


 当たったら骨が砕かれるであろう斬撃が降り注ぐ!


「叔父上?」


 あれ? いつもより遅い?


「ほう? ならば——ペースを上げてるとしよう」


「クッ!?」


 先ほどより重く速い攻撃が繰り出される!

 しかし——俺とて!


「ハァ!」


「……俺の攻撃を掻い潜って、俺に剣を当てるか……くははっ!」


「楽しそうですね?」


「ああっ! 俺の考えは間違ってなかったっ! だが、まだ足りん! 少し本気で行くから——死ぬなよ?」




 ……生きているのか?


 あの後の記憶がない。


 迫り来る剣に対処することが精一杯だった……。


「まあ、こんなもんか。俺の半分くらいの力には耐えられるようになってきたか」


「あ、あれで半分……バケモノですか」


「失礼な奴だ。しかし、格段に強くなってきているな」


「自分でもそう思います。ただ、それが何故なのか……叔父上の稽古のおかげなのか、実戦経験を積んだからなのか……」


「それもあるだろうが……まあ、気にすんな。じゃあ、俺は帰るとする。後の仕事は知らん」


「叔父上!」


 俺は力を振り絞り立ち上がる。


「ん?」


ありがとうございましたっ!」


 国の要請を聞く必要がない叔父上が、ここにきた理由は一つしかない。

 自惚れでなければ、俺の力になるためだろう。

 しかし、そんなことを叔父上が俺に言うわけがない。

 だから精一杯の誠意を込めて、しっかりとお辞儀をする。


「……ふんっ、なんのことだか」


 少し照れ臭そうに叔父上は去っていく。

 どうやら、俺の考えは間違ってなかったらしい。




 宿に戻ると、全員が揃っていた。


「どうしたんだ?」


「あっ、ユウマさん」


「団長、国の使いが来たぜ」


「なに? 今はどちらに?」


「貴方がユウマ殿ですね?」


 一人の男性が宿から現れる。

 その格好は王都に勤める文官の格好をしている。

 つまりは……。


「はい、私がそうです」


「国王陛下より、お言葉があります……此度の働き、誠に見事なり。其方の働きによって、悪政をひく貴族を排除することが出来た。これにて民も救われるであろう。今回の働きに感謝する。そして、褒美として——其方に騎士爵位を授ける」


「……はい?」


「コホン! ……もう一度……其方に騎士爵位を授ける」


「つ、謹んでお受けいたします」


「はい、かしこまりました。正式な通達は後日となります」


 ……え? 俺、爵位を得たの?



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