外伝~ランド~

 何が起きた?


 せっかくのチャンスが……!


「ユウマめっ!」


「ち、父上! 落ち着いてください! いくら母上とエリカがいないとはいえ!」


「馬鹿者! これが落ち着いていられるかっ!」


 数に限りがある戦争に参加して、そこで活躍したというのに……!


「何のために、あのいけ好かないサウス伯爵に取り入ったと思ってる!」


 あの薄汚い豚に、俺がどんなに苦労したかっ!

 男爵の分際でと馬鹿にされ……剣しか能の無い奴と言われ……。

 それでも我慢していたというのに!!


「そ、それは……ティルフォング家と繋がりを持つためです」


「そうだっ! ようやく屋敷に呼ばれて、これからという時に……!」


 今朝、貴族全員に対して通達があった。

 サウス伯爵を指名手配すると。


「どうやら、相当な悪事を働いていたらしいですが……」


「そんなことは皆やっている! 綺麗事だけでは貴族などやれん!」


「それを解決したのが……ユウマなのですね」


 道理で、我が家が呼ばれなくなったわけだっ!


「ああ! そうだっ! しかも!指揮官としてシグルド! くそっ!」


「やはり、我が家を潰すつもりですかね?」


「いや……奴らは、私達がサウス伯爵にとり入ろうとしたことは知らないはず。なにせ、まだ準備段階だったからな」


「サウス伯爵には、まだ妻がいませんからね。そして……幼い少女が好きだと」


「エリカを嫁にと言うつもりであったが……これで計画を見直さなくてはいけない」


「次は誰にしますか?」


 どうする? もう実行寸前段階まで来ていた。

 あとはエリカをこっそりと連れ出し、伯爵に引き合わせるだけだった。


「……わからん。少し考えないといけないな」


「それでは、リストを作り直しましょう」


「そうするしかあるまい。だが、不幸中の幸いとも言える」


「それは?」


「もし取り入った後であったなら——粛清対象となっていただろう」


「なるほど……確かに見方を変えれば、ギリギリ逃れることができたということですか」


「ああ、忌々しいことだが。あのまま取りいっても、いずれはこうなっていたかもしれん」


「だからといって感謝などしませんがね」


「当たり前だっ! 何年も前から計画を立てていたというのに!」


 全てが台無しになった……あの愚息の所為でっ!

 どうせ、いらん正義感でも発揮したに違いない!

 あの恩知らずがっ! 父の邪魔ばかりしおって……!


「しかも、ユウマが騎士爵位を得たと……優秀な冒険者として噂にもなっていると」


「ふんっ……すでに嫌味を言われたわ!」


 次男に跡を継がせれば良かったのにと。


「……次の戦いがあったら、手柄を立てないといけないですね」


「ああ、その通りだ。どこで起きるかわからないがな」


 我がミストル家は遡れば、国の始まりの英雄の血筋を引いている。


 魔剣ミストルティンを扱い、魔力と剣技に長けた初代ラウル-ミストルの血が。


 本来なら、公爵でもおかしくはない。


 しかし、権力争いなのかわからないが、いつのまにか男爵まで成り下がっていた。


 何としても、俺の代で栄光あるミストル家を再興させる!


 シグルドでもなく、ユウマでもなく——この俺の手で!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る