34話アテナさんの事情

 そうだと仮定すると……。


 この女性にとっては辛いことになるかもしれないが……。


 事情を説明しないわけにはいかないか。


「アンタ、良いやつだな」


「えっ?」


「アタイに気を遣わなくて良いさ。あの子、なんかヤバイことに手を出してんだろ?」


「……はい、おそらくは」


「やっぱりね。久しぶりに会ったっていうのに挙動不審だったからさ。問い詰めたらこのざまだよ。お姉ちゃんには関係ない!ってさ。確かに、私はあの子を見捨てたから何も言えないけどね」


「詳しい事情を聞いても良いですか? 代わりにこちらも説明するので」


「ああ、良いよ。等価交換ってやつだね。知ったからには、アタイもあの子のことを止めてやらないと。それがどんな結果になろうともね……」



 一先ず場所を変えて、ベンチに座る。


「まずはこちらから……」


 賞金首を倒す時に出会ったかもしれないこと。

 理由は立ち姿とスナイパーということ、俺の顔を見て驚いていたこと。

 そして、裏には貴族がいるかもしれないことなどを伝える。


「なるほどね。あの子はバカだね……」


「えっと?」


「ああ、すまないね。感傷に浸る前に説明しなきゃだね」


 アテナさんが語ってくれたことを要約すると……。

 双子の妹と共に、幼い頃に親に捨てられたこと。

 その後はスラム街で孤児をしていたこと。

 生きるのに必死で、その辺りの記憶があまりないこと。

 ただお腹を空かした記憶と、蔑まれた目で見られた記憶だけは残っていると。


「……申し訳ない」


「なんで、アンタが泣くんだい?」


「すみません……偽善ですね、貴女は求めていないのに」


「変わった貴族もいたもんだね。アンタ、そうだろ?」


「ええ、そうです」


「世界は広いんだね……あの子も、外に出れば良かったんだよ。そうすれば、悪い奴ばかりじゃないってわかったのにさ」


「推測するに……貴女はこの国を出て、妹さんはこの国に残ったということですか?」


「ああ、そうさ。冒険者登録が出来る歳に二人とも登録したね。そこで意見が分かれてね……アタイは過去を忘れて生きようとした。つまり外の世界に出て、新しい人生を送るということさ。でも妹は違った。あの子は、自分を捨てた親を探すと言った。そして、必ず殺すと……そんなことしても何にもならないのに」


「それで別々の道へと……ですが、生きていたとは? そして、何故戻ってきたのですか?」


「単純な話さ。そんな考えだったら、すぐに死んじまうと思ってたさ。薄情かもしれないが、アタイはそんな人生はつまらないと思ってた。なんで戻ってきたか……虫の知らせとでも言えばいいのかね。あとは各国を回ってみて、それぞれの国のことは知れたから一度この国に帰ってこようと思ったのさ。こう、見方が変わるんじゃないかと思ってね」


「そして、偶然出会ったと?」


「ああ、本当に驚いたさ。まあ、お互い様だろうけどね。結局、口論になっちまったけど。その後は姉妹喧嘩勃発だよ。ひと気のないところで射ち合いをして……今に至るね」


「そうですか……」


「それでさ……貴族に雇われているのは本当かもしれない」


「え?」


「あの子が言ってたんだ。多分、父親を見つけたって。そして、母親はもう死んでいたって。もしかしたら……」


「父親が貴族だとしたら……雇っている奴が父親?」


「その可能性が高いね。嫌いな貴族に雇われているくらいだ」


「確かに、会った時も言っていましたね」


「さて……こんなところかね。これからどうするんだい?」


「仲間達が情報を集めているので、一度集合しようかと思います」


「アタイも参加していいかい? もちろん、一度限りで良いからさ」


「もちろんです。では、俺は仲間を集めてきます。貴女は先に冒険者ギルドへ行ってください」


「あいよ」




 アテナさんと別れ、スラム街に向かうと……。


「あれ? ユウマさん?」


「おう、シノブ」


「どうしたんですか? あれれー? 私のこと心配して来てくれたんですかー?」


「まあ、そんなところだ」


「はえっ? ……ど、どうしましょう? 想定外ですっ!」


 オロオロしてて可愛いな、おい。


「ゴホンッ! それで、そっちはどうだ?」


「え、えっと……情報屋さんを見つけましてー。そしたら、見つけたからただで教えてやるっていわれまして。貴族に雇われたスナイパーを知らないかって聞いたら……赤い髪の女かもって、名前はアテラとか」


「よくやったシノブ! それだっ!」


「へっ? ……よくわからないですけど褒められましたねっ!」




 歩きながら、こちらの出来事を伝える。


「あっ、そういうことですねー」


「ああ、確証が得られたな」


「そうなると、どうなりますかね?」


「そこなんだよ。まあ、ギルドマスターの依頼はクリアできるが……アテラさんは、死刑になる可能性が高いしな。その貴族共々……いや、最悪の場合アテラさんだけが殺されることも」


「貴族は見逃されるんですかー?」


「いや、わからない。ただ、伯爵というのはそれだけの権力者であるということだ。後ろ盾もあるだろうし、そいつらがどう出るか……」


「大変ですねー、人族って」


「そっちはどうやって決まるんだ? その、偉い人とか、王様とか」


「王様は決闘で決めますよー。強くないと誰も従いませんから」


「わかりやすいな。おっ、どうやらタイミングがよかったようだ」


 歩いていると、アロイスとイージスが一緒にいるのを発見する。


「よう、団長」


「二人とも、どうだった?」


「知り合いも、何人か行方不明になってたぜ。腕の良い奴も居たんだが……」


「オイラの方は、若い娘さんがいなくなったって……彼氏が冒険者とか、商人の人で駆け落ちしたんじゃないかって……」


「そうか……どうやら、他にも色々ありそうだな」


 例えば……捕らえた冒険者などを人質にして、恋人をおびき寄せるとか。


 二人にも、俺の出来事を伝える。


「ほう? それは良い情報だ」


「オイラでも、何となくわかるくらいの情報が集まりましたね」


「ああ、運が良かったな」




 全員で冒険者ギルドに行き、アテナさんと合流する。


 一先ず部屋を借りて、自己紹介となる


「アタイの名はアテナ。五級の冒険者でスナイパーさ」


「俺の名前はアロイス。五級の冒険者で前衛の攻撃役だぜ」


 へえ……アロイスにもビビった様子はない。


「お、オイラはイージスっていいますっ! 七級の冒険者で盾役ですっ!」


 ん? なんだ? イージスの顔が赤い?


「シノブっていいますよー。七級の冒険者で遊撃や斥候担当ですねー」


 シノブだけ負担が大きいのをどうにかしたいよなぁ。


「俺が回復役でリーダーを勤めている。この四人で白き風というパーティーだな」


「バランスは悪くないが……遠距離がいないね」


「その通りです。まあ、これからの課題ですね」


 ……この人がパーティーに入ってくれたら良いけど。


 だが、まずは事件を解決してからの話だな。


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