33話双子の姉妹?

 はて、何処かで会ったことがあるのか?


「あ、アンタは……」


「はい?」


「貴族様がこんなところに何の用だい?」


「……俺、貴族って言ってませんよ?」


「……いやいや、その見た目と立ち振る舞いは、まんま貴族じゃないさ。傷ひとつない綺麗な顔に、自分は上位者という態度」


 ……貴族に相当恨みがあるようだな。


「もしそう見えたなら申し訳ない」


「な、なんだ!? アンタは!?」


「アテラさん、彼は貴女が思うような貴族ではないわ」


「院長……貴族は貴族だっ! 自分達が偉いと勘違いして威張るクソ野郎だっ! アタシ達と何が違う!? ただの人間じゃないかっ!」


「……否定はできない。そういう輩がいることは。だが少なくとも俺は、そんな輩に成り下がったつもりはない」


「口でならなんとも言えるさっ!」


「アテラさん、落ち着いて」


「っ〜!! アタイは帰るっ! 」


 その女の子は、足早に去っていく。


「すみません、タイミングが悪かったですね」


「いえ! こちらこそ申し訳ありません! せっかく来て頂いたのに……」


「院長が謝ることはないですよ。あの女性は?」


「アテラさんといいまして……最近、孤児院に来てくださっている方なのです。以前から、お見かけはしていたのですが……」


「あのねっ! 怒らないで! 」


「あのお姉ちゃんいい人なのっ!」


「遊んでくれたのっ!」


 子供達が真剣な表情で訴えてくる。


「怒ってないよ。少し行き違いがあっただけで。さあ、次は俺と遊ぼうか?」


「「「わぁーい!」」」


 子供達とひとしきり遊び、その場を後する。




 ついでに、スラム街に向かうことにする。


 シノブが無茶をしてないと良いが……。


 あいつ、張り切り過ぎるところがあるからなぁー。


 まあ、それが可愛いとか思う自分もいるけど。


 しかし……やはり、さっきの女の子が気になる。


「何処かで会ったことがあるわけではない?」


 うーん……何かが引っかかる。


「ん……? え?」


 路地裏にさっきの女の子がいる……。

 しかも……あれは!


「大丈夫ですか!? 血が出てますよ!?」


 肩から大量の血が出ている……!


「ん? 誰だい?」


「え? ……先ほどお会いした者ですが……」


「なんだって……? 詳しく聞かせてもらえるかい?」


 あれ? 随分と雰囲気が違う。

 容姿や口調はおんなじだけど、空気感が柔らかい。

 だが、その前に……。


「失礼します」


「な、なんだい?」


「かの者の傷を癒したまえ——ヒール」


「な、何をするんだっ!?」


「治療代は頂かないのでご安心ください」


「……嘘をついてる目じゃないね。それにつくメリットもないか。ただ、礼は言っておくよ。助かったよ、ありがとう」


「いえ、俺が勝手にやったことなので」


「ははっ! 変わった奴だね。 アンタみたいな奴もいるのか。私が見てきた教会の人間はクズばかりだったからね」


「俺は教会の人間ではないので。えっと、それで……」


「ああ、そうだった。ちょっとドジ踏んじまってね……この有様さ。アタイに似た奴を知っているんだろう?」


 ……ということは、別人ということか。


「ええ、多分ですが。貴女そっくりの女の子でした」


「女の子……?」


 何やら、めちゃくちゃ睨まれれる……!

 あれ? やっぱりさっきの女の子?


「え、ええ……貴女と同じ可愛らしい女の子でした」


「……アンタ、命拾いしたね。回復してもらってなかったらぶん殴るところだったよ」


「へ?」


「アンタ、私がいくつに見える?」


「十四か、十五くらいかと……」


「はぁ……まあ、仕方ないけどね。アタイはこう見えても——二十三歳なんだよ」


「……はい?」


 いや、どう見ても大人の女性には見えないぞ……?

 幼児体型というか、丸みというものがないというか……。


「今、何を考えた?」


「いえ、何も」


「……まあ、良いさ。それで、何処で見たんだい?」


「えっと、貧困街にある孤児院で会いましたね。ところで、双子ということでよろしいですか?」


「ああ、その通りさ。アタイ達は双子の姉妹でね。アタイの名前はアテナ、あの子はアテラさ。この国のスラム街出身でね……ただ、生きているとは思ってなかった……」


「何か事情があるのはわかりましたが……一つ聞いても良いですか?」


 さっきの傷を癒す時、その傷口が……。


「あの傷口は……弓ですか?」


「へぇ……わかるのかい? どうやら、ただの治療師ではないようだね?」


「申し遅れました。俺の名はユウマと申します。冒険者ランク六級の者です」


「その若さでかい?アンタ、中々やるね。実は、アタイも冒険者なんだ、ランクは五級のね。冒険者歴は八年って感じだよ」


「先輩でしたか、これは失礼しました。それで……」


「ああ、そうさ。その双子と射ちあってね……盛大な姉妹喧嘩ってところさ」


「喧嘩というレベルを超えているような……」


「まあ、そうだね。でも、会うのも十年ぶりだったしさ」


「それは良いとして……彼女も弓を使うと?」


「ああ、同じく優秀なスナイパーになってたよ。アタイとしたことが、良いのをもらっちまうくらいに。もちろん、あっちにも手傷を負わせたけどね」


 ……それだ、ずっと感じてた違和感は。


 一瞬だけ見えた立ち姿、スナイパーという言葉。


 ……もしかして、彼女があの時のスナイパーなんじゃないか?

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