32話調査開始

 ギルドマスターとの話を終えた俺は、仲間達の元へと戻る。


「どうだった?」


「ここでは話辛いな……部屋を借りるとするか」


 冒険者ギルド内部には、お金を払うことで使用できる個室がある。

 パーティーの作戦会議や、クランなどの集まりが使用する。

 防音になっており、外に聞こえることはない。


「なに? ……厄介事か」


「ああ、そうなるかも。ただ、その前にランクアップの申請をだってさ」


「おっ、全員分が通ったか」


 ゴンザレス討伐により、全員が昇格することになったが。

 どうせなら、みんなで上げようということで待っていた。


「えっとアロイスさんは五級、ユウマさんが六級、私達も七級ですね」


「お、オイラが七級……!」


「これで、全員が銀級冒険者になったな。中堅クラスのパーティーということだ」


「へっ、ようやくか。俺はこっから上がることは難しくなるぜ」


 五級から上に上がるには、単純に依頼を受けるだけでは上がらない。

 試験が行われ、それに合格しないといけない。

 さらにはギルドマスターとの面会もある。

 四級から人数がガクッと減るのはそのためだ。



 その後、受付にて新しいギルドカードを受け取り、そのまま部屋を借りる。


 部屋に入って、俺は先程の話を簡潔に説明する。


「伯爵か……大物だな」


「えっと、八人しかいないんですよねー?」


「ああ、八つある都市の領主という意味合いもあるからな」


「そんな人が……? なんで?」


「さあな……まあ、大方の予想はつくが。というわけで、指名依頼を受けた。俺としても気になるところなので、調べたいと思うんだ」


「異議なしだぜ。ギルドマスターの心象を良くしておくに越したことはない」


「私もですー。さっさとランクアップしたいですもん」


「オイラもですっ! 困っている人達がいますから!」


「よし、全員一致したな。帰りに一応報告はしておくとして……役割分担をどうするかだな」


「全員で行動するのは効率が悪いだろうぜ」


「オイラは、何をすれば良いのか見当もつかないです……」


「いや、わからないことをわからないと言えるだけ良い。イージスは街の住民から聞き込みをしてくれ。お前は好かれているしな。聞き方は……最近、行方がわからない人っていますか?と聞いてくれ。行方不明者の依頼を受けたということにしよう」


「お、オイラに出来るかな……でも、やってみます!」


「ああ、無理はしないでいいからな。相手に気づかれないためとはいえ嘘をつくことになる。向き不向きがあるのは仕方ないのことだ」


「俺はどうする?」


「アロイスに言う必要はあるのか?」


「団長はお前だぜ? それに合っているかの確認だ」


「やれやれ……厳しいこと。アロイスは酒場に決まってるだろ?」


「正解だ」


「いや、ニヤリじゃないから。そんなのすぐにわかるし。というか、飲まれるなよ?」


「へっ、この俺を誰だと思っている?」


「二日酔いで俺に治してもらうおっさん」


 今のところ、俺の解毒魔法は叔父上とアロイスにしか使っていない。

 いや、使わないに越したことはないんだが……複雑である。


「ぐっ……た、たまにだろ? ほら、シノブにも教えてやれ!」


「全く……シノブは、その隠密性を活かしたいな。そうなると……いや、しかし」


「ユウマさん、遠慮なくどうぞ〜。というか、怒りますよ?」


「……これは俺が悪かった。すまん、シノブ。危険だが、スラム街に行ってもらえるか?そこには情報屋がいるらしいのだが、滅多に会えないという。どうやら、気配を消すことに長けているという噂だ」


「もしかしたら、私と同じ隠密系かもしれませんねー。わっかりましたー!」


「俺は貧困街に向かう。あそこは、昔から通っているから不自然ではないからな」


 こうして役割分担を決めて、俺たちはギルドを出て行った。




 俺は久々の一人ということで、少しの寂しさを感じていた。


「今までは友達もいなかったし……いつの間にか、あいつらが大きな存在になっていたんだな」


 そんなことを考えつつ、人々から話を聞いていく。


 すると、ある主婦の方から有力な情報が出てきた。


「行方不明者? 確かに、最近孤児が増えたとは思ったのよ」


「それはどういうことでしょうか?」


 俺もゴタゴタがあり、最近は行けてなかったが……。


「親が商人とか冒険者だっていう子が、最近孤児院に入ったって聞いたわ」


「なるほど……その親が行方不明になったと」


「怖いわよねー。みんなお金が必要に迫られてる家だったらしくて……」


 お金をエサにして呼び寄せたか。

 これは、当たりかもしれない。


「ありがとうございます」


「良いのよ、ユウマ君は良い貴族だもの。冒険者でも頑張ってね」


 主婦の方にお礼を言い、俺は孤児院へと向かう。



 孤児院に到着すると……。


 真っ赤な髪で、小柄な女の子がいた。


 その女の子は子供達と遊んでいる。


「見ない顔だな……孤児にしては大きいし」


 ボランティアの方かもな。

 俺も昔は似たようなことやってたし。


「あら、ユウマ君」


 少し歳を召しているが、背筋の伸びた女性が俺に気づく。

 彼女こそが院長先生のモネ先生だ。


「院長先生、ご無沙汰しております。中々顔を出せずに申し訳ありません」


「良いのよ、元気でさえいてくれれば。それにお金を送ってもらっているわ。いつもありがとうございます」


「いえ、母上共々大変お世話になっておりますから」


 友達もいなく、エリカがいない頃は、ここが俺の遊ぶ場所だった。

 親父と兄貴は構ってくれなかったし、同じ貴族の連中は好かなかったし。

 母上も息抜きを兼ねて、結婚してからも訪れていた。


「あまり、無理をしてはいけませんよ? こっちのことは気にしないでいいですから」


「ええ、わかっています。出来る範囲でお手伝いをさせていただきます」


「ふふ、ありがとう。それで、今日はどうしたの?」


「実は……最近、孤児が増えたと聞いたので」


「……そうなの。冒険者を親に持つ子や、借金を抱えた商人の人とか……皆は捨てられたって言うけど、本人達はそうは思っていなくて……」


「実は、行方不明者の調査をしてまして……」


「ああ、そういうことなのね」


「何時頃からですか?」


「ここ、半年くらいかしら……?」


「なるほど……ところで、あの女性は?」


 なんだが、さっきから気になるんだよな。


「ああ、初めてかしらね。アテラさん!」


「なんだい!? 今、忙しいんだよっ!」


「少し挨拶をしてもらっていいかしら?」


「仕方ないね。アンタら、遊んでな」


「あー!! ユウマさんだっ!」


「こんにちは!」


「ああ、こんにちは。少し待っててな。あとで遊んであげるからさ」


「「「はーい!!!」」」


「良い子だ。初めまして、ユウマと申します」


 ……あれ? 反応がない……。


 俺が頭をあげると……その女の子は固まっていた。


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