四章

31話ギルドマスターと面会

 あの事件を報告してから、早くも二週間が過ぎた。


 あの翌日に報酬をもらい懐が暖かくなったので、少し休暇を取ることにした。


 まずは例の魔法使いについて、国に書簡を送っておいた。


 ゴンザレスや、その後ろにいる何者かについても……。


 もちろん、ミストルの名は使っていない。


 ただの冒険者としての報告だ。


 その間も、イージスの両親と兄弟が遊びに来たり。


 ホムラとシノブと何故か出掛けたり。


 アロイスと飲みに行ったり。


 叔父上と鍛錬……これはいつものことだな。


 まあ、そんな感じで過ごしていたが……。




 久々に依頼を受けようと、皆でギルドに集まっていた。


「返事がこないな」


「ですねー」


「あん? ああ、例の魔法使いか」


「オイラはよく知らないけど、こんなに時間がかかるものなんですかね?」


「いや、重要書類として提出したはず。ただの冒険者の戯言と思われたか……もしくは、揉み消された?」


「ということは、内部に魔法使いの関係者が?」


「その可能性はあるか……俺も、貴族間のことについてはよく知らないし」


 すると、見慣れない人物が近づいてくる。

 そして辺りを見回して、小声で話しかけてくる。


「貴方がユウマさんでよろしいですか?」


「え、ええ、そうですが……」


「ギルドマスターが貴方にお話があるそうです。今、お時間はありますか?」


 ……はい?

 ギルドマスターって……一番偉い人だよな?

 滅多に表に出てくることはなく、一介の冒険者が会うことはないという。


「マスターが呼んでいる?」


「あっ、アロイスは知っているんだよな?」


「ああ、俺は経歴が長いからな。後、何故ランクを上げないのかと聞かれたことがある。その際の答えが気に入ったのか、それ以降もたまにだが会うことがある」


「アロイス様には大変お世話になっております。新人冒険者の死亡率を下げて頂きましたから」


「よせやい、そんなものじゃねえ。で、団長一人か?」


「ええ、秘密裏にとのことで」


「きなくせえ……が、ギルドマスターは悪い奴じゃない。行ってくるといい」


「ああ、わかった。では、案内をお願いします」


「はい、こちらへどうぞ」




 女性職員の方の後をついていき……とあるドアの前で立ち止まる。


「ロイド様、ユウマ殿をお連れいたしました」


「入って良いですよ」


 ドアを開けて入室すると……。

 そこには、細い体型で落ち着いた雰囲気の男性が立っていた。

 とても荒くれ者を束ねるような人には見えないが……。

 不思議と威厳を感じるような気がする。

 見た目は優しそうな方に見えるが、やはりそれだけではないだろうな。


「初めまして、ユウマと申します」


「初めましてですね、ユウマ-殿。ロイドと申します」


 ……まあ、そりゃ知ってるよな。


「すみませんが、冒険者の時は名乗らないようにしているのです」


「ええ、構いませんよ。むしろ、好感が持てるというものです。どこどこの家の者だと威張る輩もいますから。冒険者に身分など関係ないというのに」


「そうなのですね」


「いえ、すみません。ついつい愚痴っぽくなってしまいましたね。若いからと舐められることも多いものですから」


「ロイド様は若くないですよ? もう三十五歳ですから」


「君……いや、もちろんそうだけど。上に立つ者って意味でだよ」


「えっと……」


 随分と気安く接しているが……。


「君を案内した人が私の秘書であり、ギルド内をまとめている子だ」


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。秘書官のライラと申します」


「あっ、ご丁寧にありがとうございます。ユウマと申します」


「ええ、よく存じております」


「えっ?」


「まあまあ、それも含めて話すとしよう。まずは席に座ろうじゃないか」




 とりあえず勧められるがままに、対面式のソファーに座る。


「では、先に疑問に答えようかな。まずは君の素性についてだ」


「私達は、冒険者の経歴を独自に調べています。犯罪者などがいたら困りますから。もちろん、法に触れるような調べ方はしませんが。あくまでもわかる範囲内ということで」


「ええ、そうでしょうね。それくらいは当然かと」


「そう言って頂けると嬉しいですね。私はギルドマスターとして、シグルド殿に面識があってね。それで、君のことは聞いていたんだ。いつか、冒険者登録をするから俺の代わりになるだろうよってね」


「ロイド様が、シグルド殿を冒険者ギルドに勧誘に行ったのですが……そう言っておりました」


「それは……申し訳ない。叔父上は縛られることが嫌いなので……それに買い被りですよ、俺には叔父上ほどの才能はありません」


「いいえ、謝ることはありません。もしかしたら、あれこそが本来の冒険者の姿なのだと思うほどかと。冒険者ギルドは自由をうたってますが……やはり、そういうわけにもいかない面もありますからね」


「才能についても、シグルド殿は言っておりました。奴の才能は俺以上だと……何より、奴には協調性があり、人の言うことを聞く素直さと優しい心を持っている。きっと冒険者向きだろうと」


「叔父上がそんなことを……」


 なんだよ、そんなことを言ったことないくせに……。

 不覚にも感動している自分がいる。


「さて、ここらで本題に入りますか」


「では、私はお茶を入れますね」


 秘書の方が、その場を離れる。


「えっと、俺が呼び出されたわけですね?」


「王城に手紙を書きましたね?」


「え、ええ……自分の手には余ると思ったので」


「良い判断です……が、今回はまずかったですね」


「……やはり、貴族がらみですか?」


「ええ、どうやら予想はついている顔ですね?」


「流石に返事が遅すぎますからね」


「ギルドに手紙が来ました。この件から手を引けと」


「それは……かなりの大物が後ろにいますね」


「ええ、おそらく途中で握り潰されました」


「そうなると子爵か……伯爵……伯爵!」


 それだっ! ハクとサウではなく、サウとハク!


「どうしましたか?」


「推測なのですが、サウス伯爵ではないかと……ゴンザレスの最後の言葉がですね……」


 俺はその時の状況を説明する。


「なるほど……怪しいですね。伯爵なら隠蔽も容易いでしょうし。領地権限に加えて、侯爵クラスとも繋がりがありますし。デュラン国王様は若くして即位したので、まだ手綱が取れていないことを利用しているかも……」


 現国王様は、数年前の事故により父親と兄を亡くしている。

 確か、エデンとの交渉を進めていて、各地を回っていた時に……。

 一説には、それを嫌がった者による暗殺とも言われているとか……。


「今のうちにということですか。では、あまり突くのも得策ではないですかね?」


「そうですね。王宮内も、まだバランスが取れてませんから。いや……ある意味でチャンスなのかもしれません。デュラン国王様は、今の状況を打破したいはず」


「もし暴ければ、突破口になると?」


「ええ、おそらく。ですが、その前に……」


「確証を得ることですね……」


「そこが一番難しいところです。それさえ掴めれば、私の伝手を使って国王様に直接手紙が行くようにはできますが……届くかは、五分五分ですがね」


「それは?」


「普段は普通に仕事をしているはずです。ただ殺される危険もあるので……」


 なるほど、メイドや使用人ということか。


「あまり使いたくないですね」


「ええ、なので確証を得てからです」


「そんなことを俺に話しても?」


「ええ、問題ありません。これでも目は良い方です。立ち振る舞いで、人となりはわかるものですから。何より、これから長い付き合いになりそうですからね」


「えっと……ありがとうございます。あっ、そういえば……冒険者ギルドは政治に関わることを良しとしないのでは?」


「基本的にはそうです。ただ、冒険者も何人か犠牲になってますから。あちらから手を出してきたなら——話は別です」


 その瞬間、目の色が変わる。

 凄まじい怒りを感じる……。


「おっといけませんね。それで、貴方に依頼したいのですが……」


「証拠集めですか?」


「ええ、もちろん他の人にも頼みますが……あまり、人を増やすのもよろしくないですから」


「その分知られる可能性も増えると……」


「ええ。なので、貴方達が適任かと。ついでにランクアップも、この後手続きを出来るように手配しておきます」


「ありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ。良い方が来てくれましたよ。さすがは期待のルーキーにしてバーサクヒーラーですね?」


「やめてくださいよ……というか、笑ってます?」


「ふふ……何か用があれば、受付に言ってください。ここに来れるように手配をしておきます」


「えっ?」


「貴方を気に入りましたので。ライラ君、送ってあげて」


「はい、かしこまりました。ユウマ殿、戻りましょう」


 戸惑いながらも、俺は部屋を出て行く。


 ……俺の何処を気に入ったのだろうか?


至って普通にしていたと思うんだが……。



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