35話ひとまず解散のはずが……

 自己紹介も済んだので、お互いの事情を改めて説明する。


 そして、それぞれがどんなことを願っているのかを……。


「さて、シノブのおかげでほとんど確定したと言っていい」


「どうする? すぐに報告するか?」


「いや、その前に……アテナさんは、どうしたいですか?」


「アタイかい?」


「ええ、妹さんは……その……」


「気を使うことはないさ。最悪、死刑になるってことだろ?」


「え、ええ……」


「そりゃ、何にも感じないって言ったら嘘になるが……でも、あの子が悪さをしているなら責任は取らないといけない。それに、それを止めてやるのもアタイの……姉としての役だろうさ」


「そうですか……わかりました。では、ギルドマスターに知らせてきますね。アテナさんは、一緒に来てください。きっと説明が必要ですから。みんなはここで待っててくれ」


 俺が部屋の外へ行くと……。


「……ユウマとか言ったね?」


「え?」


「ありがとね、アンタはいい奴だよ」


「いえ……」


 俺には推し量れないが……きっと、辛いだろうな。




 そのまま、受付に向かう。


「すみません、ユウマと申します。ギルドマスターに会いたいのですが……」


「ユウマ様ですね、すぐに通すように仰せつかまっております」




 すぐに通されて、以前の部屋の前に到着する。


「失礼します、ユウマ様をお連れしました」


「おや? 何か伝え忘れてたのかな? どうぞ」


 ……無理もない。

 さっきの今で、こんなに状況が変わるとは思うまい。


「では、私はこれで」


「ありがとうございました。では、失礼します」


 中に入ると、秘書の方とギルドマスターが不思議そうな表情をしている。


「どうかしましたか? その女性は?」


「いえ、実は……」


 この三時間くらいの出来事を伝える。


「……何かの罠ですかね?」


「少し、話が美味すぎます」


「無理もないことです。俺も、あまりにトントン拍子に進んで……少し戸惑いましたから」


「いえ、貴方を疑っているわけではありません」


「アタイのことを疑ってるんだね?」


「はい、そうです。冒険者カードを見せてもらっても?」


「もちろんさ……はいよ」


「五級の冒険者……偽物の類ではなさそうですね。ライラ君、他の支部に確認を取ってくれ」


「はい、かしこまりました」


「すまないね、ことがことだから。伯爵クラスが絡んでいるとなると……色々と下準備が必要だからね。ひとまず他の支部に確認して、君の素行を調べさせてもらうよ」


「いや、気にしないさ。むしろ、好感が持てるよ。どうやら、今回のギルドマスターは優秀みたいだね」


「以前の方は、少し頭が固い方でしたから」


「ふ〜ん……ここにいるのも悪くないかもね」


「それで、この後はどうしたら良いですか?」


「ひとまず確認が取れるまでは待機でお願いします。その後に、こちらでも擦り合わせを行い、最終的な判断をしてお伝えします。報酬も、その時に確定ということで」


「わかりました。では、お待ちしてます」


「いやはや……まさか、今日頼んで今日のうちに来るとは……」


「ふふ、これは持っている人材ですね。人当たりも良く、腕も良いですし」


「ええ、シグルド殿の言う通りかもしれませんね」


「あまり持ち上げないでくださいよ。慣れていないもので……」


 こういう時って、どう返していいか迷うんだよなぁ。

 叔父上とかなら……まあな!とか言うんだろうけど。



 すぐにでも準備に取り掛かるというので、俺たちは退出する。


 そして、再び仲間達の元に戻る。


「さて、ひとまず依頼達成ということになったが……」


「この後はどうする? まさか、こんなに早く終わるとは思ってなかったしな」


「他の依頼も受けてませんしねー」


「だが、新たな依頼を受けるのもまずい。いきなり呼び出されることもあるだろうし」


「すまないね、アタイのせいで」


「いえ、それはお気になさらないでください。そもそも、貴女がいなければもっと時間がかかってましたから。貴女は、どうする予定だったのですか?」


「まだ、この街に着いたばかりだからね。何もなければ宿を確保したり、街を散策するつもりだったんだよ」


「なるほど……もう夜になるな。イージス、お前が宿に案内してやれ。あそこは値段の割に良いところだったはず」


「へっ? お、オイラがですか?」


 どうやら、イージスは彼女のことが気になっているようだからな。


「ああ、お前はあの辺りにも詳しいし、この土地にも馴染んでいるからな」


「アタイは別に、一人でも……」


「あ、案内させてくださいっ!」


「……そうかい。じゃあ、悪いが案内してもらえるかい?」


「はいっ!」


 二人は俺たちに挨拶をして、部屋から出て行く。


「団長、良いところあるぜ」


「ふふ〜ホントですねっ!」


「なに、俺だってこれくらいの気は遣えるさ」


「じゃあ、俺は飲みに行ってくるぜ」


「おう、俺に頼るなよ?」


「うっ……が、頑張るぜ」


「シノブはどうする? 宿に帰るか?」


「ご飯でも行きませんかー?」


「そうするかね」


 俺たちもギルドを出ようとするが……。


「あれは……」


 ホムラが、他の冒険者ともめている?


「お前はパーティーから出て行け!」


「そうよっ!」


「ええ! 出て行きますともっ! こちらから願い下げですわっ!」


 ……穏やかじゃないな。


「ユウマさん……」


「ん?どうした?」


 俺の服を引っ張り、視線であっちを見てと訴えてくる。


「なんだよ……ロイドさん?」


 ギルドマスターが受け付けの奥で手招きをしている。


「なんか、呼んでますよ?」


「ちょっと行ってくる。お前はここで様子を見ててくれ」




 よくわからないが、そちらに近づくと……。


「ユウマ殿、申し訳ない」


「どうしたんですか?」


「あの騒ぎなんですが……」


「止めなくて良いんですか?」


 さすがにエスカレートしてきたけど……。


「いえ、事情がありまして……私が出るわけにはいかないんです」


「はぁ……」


 ギルドマスターが気を使ってる?

 そんなの……数えるくらいしかいないぞ?


「とある方との約束により、私が手助けすることは禁止されているのです。ホムラさんの両親には、私は世話になったもので……私情が入ってしまいますから」


「なるほど、それはそうですね」


「というわけで……ユウマ殿が面倒を見てくれませんか? 貴方のパーティーに入れてあげて欲しいのです」


 ………はい?





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