30話シノブの話
俺たちが建物を出ると……。
「あっ! ユウマさん! 良かった、ご無事で……」
「良かった、全員無事のようですね」
戦った後や血の匂いがしないから、こっちには襲わなかったようだな。
あのスナイパーらしき人物は、本当に口止めのための人員だったのだろう。
「えっと……?」
「いえ、とりあえずは帰りましょう。帰るまでが依頼ですから」
日は沈んでいたが、全員で馬に乗って王都へと帰還する。
死体を持って村に行くのも憚れるし、なるべく早く報告がしたかったからだ。
そして、何とか門が閉まる前に到着することができた。
「ありがとう! アンタは命の恩人だっ!」
「この借りは必ず返すよ!」
「私もですっ! ありがとうございましたっ!」
「白き風か……覚えておくぜ」
助かった四人は礼を言い、自分の住処に帰って行き……。
アロイスとイージスは、先に冒険者ギルドに報告へ行き……。。
俺とシノブで、二人を家まで送って行った。
「さて、ロナさん。これにて依頼完了でよろしいですか?」
「本当にありがとうございました……!」
「いえ、我々は依頼を果たしただけですから」
「俺、冒険者辞めて真っ当に働こうと思います。俺には向いていないようですから」
「ええ、人には向き不向きがありますからね」
「そうですよー。奥さんを泣かせちゃダメですよ?」
「はいっ! 本当にありがとう!」
「あの、それで……」
「はい?」
「最後に聞いてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「貴方の母親って……エリス様ですか?」
「……ええ、そうです」
「道理で……その綺麗なお顔立ちと、上級回復魔法を使える技量……何より、その優しい心の持ち主……」
「母をご存知で?」
「母親が大変お世話になったそうです。結婚する時も後押しをして下さったとか……聖女と呼ばれるのも当然の方だと」
「そうらしいですね……まあ、俺にはピンときませんが」
母上はその美しさと類稀なる才能により、この王都では有名だったようだ。
しかも、性格もよいので聖女と呼ばれるほどだったと。
……本当に、親父と結婚した理由がわからない。
まあ、男と女のことはきっと本人達にしかわからないものだろうな。
「そして、その方の息子さんに救われるなんて……」
「不思議なことってあるんだな……」
「お二人はこれからどうするのですか?」
「もう一度、きちんと両親と話し合おうと思います」
「認めてくれるまで、何度でも頭を下げに行きます」
「ええ、それが良いと思います。一度崩れた親子関係を戻すことは難しいですから」
俺と親父のように……。
「はいっ! このお礼はいつか必ず!」
「また、何処かで会いましょう!」
その後二人に別れを告げ、俺たちは並んで歩く。
「おい、俺に掴まってろ」
「ふえっ?」
「俺が気づいていないと思っているのか? 相当無理しているはずだ。先に帰れとは言わんから、俺に掴まってると良い」
「な、何のことですか〜?」
「普段の時はくっついてくるくせに、こういう時はしないのか……ほら」
手を掴み、俺の服の裾を掴ませる。
「あぅぅ……何でわかったんです?」
「いくらあのスナイパーが凄腕とはいえ、お前があそこまで気づかないというのはおかしいと思ってな。それにロンドをみすみす殺されたことも」
「買い被りすぎですよ〜」
「……すまん、シノブ」
「な、何でユウマさんが謝るんですか!?」
「きっと、あの状態になることは危険なのだろう? そうでないなら、これまでも使用しているはずだ。あの土壇場まで使わなかったということは、きっと不本意だったのだろう?」
「そ、それは……アレですよ、乙女の恥じらいというやつですよー。ユウマさんに、あんな姿を見せたら嫌われちゃうかなーって」
「……俺は、その言葉を信じて良いんだな?」
「ぅ……ごめんなさい」
「謝ることはない。俺も含めて、力が足りなかったからだし。むしろ、お前があの状態にならなければ……勝てはしたが、誰かが死んでいたかもしれない。それで?」
「えっと……あの状態は真祖化っていいます」
「真祖化……祖がつくということは、祖先の姿ってことか?」
「ええ、それで合ってますね。私達は、本来あの姿だったらしいです。何千年も前のことですけど。確か、純血種というらしいです」
「そんな昔からいるのか……失われた古代の話か」
「ええ、世界が魔導王ウィンドルに支配されていた頃ですね」
「はい?」
「へ?」
「なんだ、それは?」
「え? ウィンドルを知らないんですか?」
「いや、知ってはいる。何百年前に宣戦布告をし、それ以降定期的に我が国に幾度となく攻め込む謎の国だということは……魔道王? そういえば、教科書にもあったな……」
「あぁ〜……これ、長くなりそうなんでまたにしましょう。多分、人族の寿命は短いので、正確な情報が伝わっていないんだと思います」
「そうなのか……えっと、それでどこまで話したっけ……純血種か」
「ええ。私達の祖先は長寿であり、その身体能力の高さは凄まじく最強の一角と呼ばれていました。ですか、長寿であるがゆえに滅びの道に進んでいました」
「個体数だな?」
「その通りです。どうしても、その辺りの感覚は鈍くなるみたいですね。そして世界大戦により、ただでさえ少ない個体数は絶滅間際まで減ったそうです」
「そうなると……お前の話に繋がるのか。他の種族と子を成すという」
「ふふ〜ユウマさんは賢いですね! 話してて楽ですよー」
「茶化すな、それで?」
「えっと……それで、多種族と子を成していくことになるんですが……月日が経ち、我々の血は薄れていきました。そして、今のような姿になっていきます。ですか、稀に先祖返りという者が生まれるみたいなんです」
「それがシノブだと」
「はい。私は溢れでる魔力を抑えるために、発生した時から鍵をかけられました。確か、五歳のときだったかな?」
「それが髪留めということか」
「ええ、元々は修行用のものだったらしいですよ」
「制御するためにか……」
「それでですが……これ、めちゃくちゃ身体に負担がかかりまして。なんせ先祖返りとは言っても、私の身体は祖先とは違うのでー」
「それで時間制限や、体力消耗が激しいということか」
「とまあ、こんな感じですねー。もっとありますけど、長くなってしまうので」
「ああ、俺も整理が必要だな。ただ、シノブは人族に近いが……」
「ああ、気になりますよねー? みんな、人族に近い姿なんです。どんな他種族と子供を成しても……不思議なんですけどね。一説には、私達は人族と同じルーツがあるのではと」
「元々は一緒で、そこから分かれた種ということか……何というか、ロマンを感じるな」
「あっ——私も、同じことを思いましたね……それを聞いた時」
少し不思議な気分になりながら、俺達は夜道を歩いていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます