外伝~シノブ~

 いや〜まいりましたねー。


 まさか、私がこんな気持ちになるなんて……。


 不思議な人だよねーユウマさんって。


 里にいた頃は、人族は悪魔だって教わってきました。


 亜人を奴隷扱いして、同じ生き物として認めないって。


 そもそも亜人という呼び名も、彼らが勝手につけたもの。


 私達だって人だもん、魔物じゃないもん。


 ですが、あちらはそうは思ってくれません。


 私達を発見したなら、怖がって避けるか——喜んで痛ぶるかです。


 だから、人族の者とは関わるなと言われていました。


 エデン内部の種族と結婚しろと……。


 でも私はとある事情により、国を出て行くことを決めました。


 それはユウマさんには話していないけど……。


 いつか、本当のことを話したいなと思います。







 疲れた身体を叱咤して、何とかギルドへ到着すると……。


「シノブ、ここで待っていろ。すぐに終わらせて戻ってくる」


「はい、ありがとうございます」


「しおらしいお前も珍しいな……」


「むぅ……私だってそう時はありますよー」


「クク……可愛くて良いと思うがな。では、良い子で待ってろよ?」


「ふえっ?」


 ……何ということでしょう。

 あれは天然さんなのですか?

 去り際にあんなセリフを言うなんて……不覚にも、ドキッとしてしまいました。

 私が欲しいのは種であって、愛情ではないのに……でも、それも変わってきたかも。


「ふぅ……流石に疲れましたね……」


 でも、私だけ先に帰るのは仲間外れみたいで嫌ですし。

 本当はユウマさんを待つ間の、ただの腰掛けのつもりだったのに……。

 いつの間かユウマさん以外の二人も好きになってましたねー。

 ユウマさんの人柄なのか、優しい人が集まってるからかな?



 壁に寄りかかりつ、入り口の横で待っていると……。

 みんなが、ギルドから出てきます。


「みんな、お疲れ。これにて依頼完了だ」


「おう、お疲れさん」


「お疲れ様です!」


「お疲れ様でしたー」


「確認のため、報酬は明日ということだ。というわけで、明日の昼過ぎにここに集合だな」


「おう! じゃあ、飯でも行くか?」


「あっ! いいですねっ!」


 ……どうしよう?

 正直言って辛い……もう、すぐにでも倒れこみたい。

 でも、ノリが悪い気もするし……。


「悪いが、今日はやめておく。シノブが辛そうだからな。さっき軽く説明したろ?」


 ユウマさん……?


「……例のアレか?」


「アレ、凄かったですね……」


「二人は、何も聞かないんですね? 私のあの状態について……」


 人族からしたらバケモノそのものなのに……。


「団長から軽く説明を受けたからな。流石に驚きはしたが……団長に怒られちまった。それで、これまでの何かが変わるのか?ってな。これまでの仕事を見て、俺は信頼できると思っているぜ」


「オイラもですっ! どんな姿だってシノブさんは仲間ですもん!」


「お二人とも……ありがとうございます」


 人族にも、良い人っているんですね……。

 教会やトライデントではいなかったから……。

 最初から、この国に来れば良かったのかな?

 でも、そうしたら……今みたいになってないかも。

 ユウマさんも、最近冒険者になったって言ってたし。


「と言うわけで、シノブだけを仲間外れは可哀想だ。今日はここで解散にしよう」


「だな、俺が悪かったぜ」


「ですね」


「い、いえ! 私のことは気にせずにみんなで……」


「はい、解散ー」


「じゃあな」


「また、明日です」


「もう! 聞いてます!?」


「ほら、行くぞ」


「えっ?」


「そんな状態で放っておけるか。今日はうちに泊まれ。叔父上には、俺から上手く伝えておくから」


「ご、強引じゃありません?」


「お前が弱音を吐かないからだ。意外とそういうところがあるみたいだからな」


「だって弱音を見せたら……」


 亜人である私は……。


「絶対守るなんてことは言えないが……俺が出来る限り力になる。いや、俺らがな」


「ユウマさん……」


「それとも、まだ俺達は信用できないか?」


「そんなことありませんっ! そうだったらあの姿にはなってませんっ!」


「なら問題ないな。シノブ、お前の気持ちに応えられるかどうかは正直わからない。だが、お前が大事な仲間であるということは断言できる」


「むぅ……そこは、正直に言わなくても良くないですかー?」


 恥ずかしくなって……私は、いつものように軽口をたたいてしまいます。


「すまんな、嘘はつきたくないものでな」


 その言葉は、私の心に突き刺さる。

 ……私は、嘘をついているから……。

 正確には嘘ではないけど、本当のことを言っていないというか……。


「ユウマさん、私……」


「まあ、そんなに思いつめた顔をするな」


「えっ?」


「まだ、何か言えないことがあるんだろう? 言いたくないことかもしれないが」


「す、すみません」


 気づいてたんだ……それでも、何も言わずに。


「謝ることはない。皆、それぞれに事情があるだろう。言いたくなったらいうと良い」


「あ、ありがとぅございます……」


「クク……ほら、帰ろう」


 その笑った顔を見て——私は自覚します。


 私は子種に惹かれていたけど……今は、この方自身に惹かれていると。


 だって……胸がドキドキするから。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る