29話決着の時がきたが……

 ……これが、本来のヴァンパイア族ということなのか?


 普段の姿は、ほとんど人族と変わりないから疑問には思っていたが……。



「ユウマさん……」


 いや、それはどうでもいい。

 不安そうな顔をしているシノブに、まずは言うべきことがある。


「シノブ、綺麗だ」


「ふえっ?」


「あれ? 違ったか? 驚きはしたが……怖くないし、とても綺麗だと思う」


「っ〜!! な、なんなんですか!?」


「……何故、怒る?」


「怒ってませんよっ! もう!」


「いや、しかし……」


「もう良いですから〜! これ、時間制限があるんですっ!」


「それを早く言えよっ!」


「今、言いましたっ! それどころじゃなかったもんっ!」


「亜人だったのか……道理で、嫌悪感がすると思えば! 醜い種族めっ!」


「むぅ……」


「気にするな、シノブ。誰がなんと言おうと、俺は綺麗だと思う」


「わかりましたからっ! それより……作戦です。私、これ五分も保たないんです」


 ……そんなに短いのか。

 しかも、心なしか苦しそうだ。

 すぐに決着をつけるには……。


「シノブ、俺を奴の目の前まで連れて行けるか?」


「……いけます。あの壁も問題なく破壊しますよー」


「わかった、その言葉を信じよう。では、そのあとは俺に任せろ」


「はいっ! ではっ!」


 シノブが駆け出すが……速い!

 俺も脚に魔力をまとい、必死についていく。


「ユウマさんは防御を気にしなくて良いですからねっ!」


「なに? ……いや、わかった」


「く、来るんじゃない! ロックランス!」


 丸太ほどの槍が飛んでくるが……。


「ハァァーー!!」


 長く伸びた爪により、それを切り裂く。


「ば、バカなっ!?」


「クッ——!」


 簡単に処理したように見えるが……とても辛そうだ。

 この一回で確実に仕留めなくては。

 俺はシノブを信頼して任せ、自分の魔力を溜めることに集中する。


「こ、これならどうだ!? アースキャノン!!」


 直径一メートルほどの大岩が飛んでくる!


「シノブ!」


 流石に避けないと!


「平気ですっ! ヤァァァ——!!」


「な、ナニィィ——!?」


 なんと……殴りつけやがった。

 爪では折れると思ったんだろうが……何という膂力だ。


「ユウマさん! もういけますっ! 準備を!」


「ああ! もう出来ている!」


「うあぁぁぁ——!? アースガード!!」


 奴の目の前に、二メートルほどの高さの土の壁が現れる。


「邪魔だァァァ! 双竜爪!」


 シノブは両爪を交差して、それを一気に振り抜いた。

 その結果……土の壁はバラバラになる。


「ヒィ!?」


「あっ——ダメです……ひゃぅ……」


 シノブの状態が元に戻る。


「よくやった! 後は任せろ!」


「ヒヒッ! そいつさえいなければ問題ない! ロックランス!」


「舐めるなよ!? 魔光剣!」


 剣に潤魔力を込め、光輝く剣を振り抜く。


「グハッ!? ……ば、バカな……」


 俺の剣は、奴の魔法ごと斬り裂いた。

 そして、奴は意識を失ったようだ。


「……死んでいないな。だが、それで良い」


 是非とも、こいつから情報が欲しいところだからな。


「やりましたねー!」


「シノブ、身体は平気か?」


「はいっ! 私達は回復速度が速いのでー」


「そうか……あっ! イージス!」


「い、生きてますっ! ゴーレムも消えましたっ!」


 俺はイージスに駆け寄ろうとするが……。


「お、オイラの傷は平気です! アロイスさんを!」


 アロイスの方を見ると……。


「オァァァ!」


「ガァァァ!」


 斧と斧が激しくぶつかり合っている。

 が、俺はイージスのほうにむかう。


「ど、どうしてですか!?」


「まあ、見てろ——すぐに終わる」


 俺はアロイスを見た瞬間に、背中から声がした気がした。

 俺に任せろ、もう終わらせると。


「え?」


「いいから、お前だって血だらけだからな?……ヒール」


 さすがに魔力がキツイな……。


「も、もう平気ですから! 無理しないでください!」


「動けるか?」


「はいっ!」


「じゃあ、一緒に見守るとしよう。ロンドはシノブが見てくれているしな」


 俺が再び視線と耳を傾けると……。


「ゼェ、ゼェ……アロイス……噂通りの男だったか。下級に留まっているが、実力は中級以上だと……」


「ゴンザレス……お前の戦いからは卑怯さが感じられない。真っ直ぐな戦いかた……一体、何故こんな状況になっている?」


「へっ! お偉い貴族に嵌められたんだよ! そっからは簡単さ! 指名手配され、返り討ちしてたら賞金首になり……終いには、こんな馬鹿げたことに手を貸すくらいだ」


「正直に全てを話すなら、俺が上に掛け合ってやる。ギルドマスターとも付き合いもある。情状酌量の余地があるかはわからないが……」


「随分とお優しいことで……だが、俺は人を殺しすぎた。いくら脅されていたとはいえな。だから、ここで決着をつけようぜ」


「……わかったぜ。じゃあ——構えろや!」


「おう!」


「いくぞ! ウォォォ——!」


「来いや! ガァァァ——!」


 二人の斧が激しくぶつかり合い——片方が砕け散る。


「ゴハッ!?」


「ゼェ、ゼェ……」


 俺はアロイスの元に駆け寄り、すぐさまに回復をかける。


「平気か?」


「ああ、大丈夫だ。それより、よくわかったな?」


「何となくな……お前がそう言ってる気がしてさ」


「団長には敵わんぜ……」


「い、いい仲間を持っているな……羨ましいぜ。俺にもそんな奴らがいれば、何かが違ったのかもな……己の強さを過信して、貴族に雇われちまったが……」


 ……もう、命の灯火が消えるな。


「最後に何か言うことはあるか?」


「黒幕の正体を教えてやる……奴の名は伯」


「ユウマさん! 避けて——!?」


「クッ!?」


 俺は一歩下がり、何とか矢を避けるが……。


「カハッ……ア、ア……サウ……」


 ゴンザレスは首に矢が刺さり、そのまま絶命した。


「誰だ!?」


「ユウマさん! あそこですっ!」


 天井の柱に小柄な人物がいる。

 しかし、近くの窓からすぐに出て行ってしまった。


「追いますか!?」


「いや、良い。シノブも疲れただろう。というか……やはり、そいつも死んでいるか」


視線の先では、ロンドは頭を貫かれている。

あれでは即死だろう。


「すみません……あの人、相当な腕前ですよ? この距離から正確に射ってきましたね」


「ああ、しかも連射でな。おそらく、口止めの意味を持つのはわかるが……」


「何で、手出しをしてこなかったかだな?」


「オイラ達、あれが援護してたら危なかったですよね?」


「ああ、誰かが死んでいたかもしれない。ただ、出来なかったのかもしれない」


「何でですかねー?」


「さあ……ただ、何かしらの理由はあるだろうな。だが、それは帰ってからにしよう」


「それもそうですねー。とりあえず依頼は完了ですし、賞金首も倒しましたしー」


「ゴンザレスは俺が担いでいこう」


「こいつも犠牲者だったのかな?」


「団長、気にしてはいかんぜ。こいつはこいつで悪事を働いていたんだからな」


「……だが、それも嵌められたと。サウとか言いかけてたな」


 サウ……ハク……この二つの言葉の意味か。


 最近、どっかで聞いたような気がする……。


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