28話ゴンザレス戦

 フォーメーションを確認し、いよいよ突入となる。


 盾を構えたイージスが先頭に立ち、勇気を出して入り口に踏み込む。


「イージス、ゆっくりでいい……慌てるな」


「は、はい」


「私がすぐに知らせますからねー」


「俺がきっちり押さえてやるぜ」


「何があっても俺が治す」


「はいっ!」


 慎重に進んでいると……。


「来ます!」


「はいっ!」


「よし! 任とけや!」


 次の瞬間、俺にも視認できた。

 土の塊が飛んでくるのが。


「ぐぁ!?」


「踏ん張れや! イージス!」


「い、いけます!」


「わわっ!? 槍が飛んできますよ!」


 ……魔力を温存している場合じゃないか!


「聖なる壁よ! 我らを守りたまえ——ホーリーガード!」


 イージスの前に光の壁が出現する。

 それにより、ロックランスを防ぐことに成功する。


「おおっ! 防御系まで使えるのか!?」


「最近覚えたてだがな! しかも、得意分野ではない! 魔力によるゴリ押しにすぎん! イージス、今のうちに進め」


「はいっ! ありがとうございます!」


 その後も、シノブの的確なアドバイスにより、何とか魔法を防いでいく。

 事前に知ることができるので、これがなければ無理だったに違いない。



 ……そして。


「出口が見えますよー!」


「よし! イージス! もう走って良い!」


「了解です!」


 ホーリーカードを張りつつ、全速力で駆け抜ける!

 通路を出ると、広い空間に出る。


 ……さて、ようやくご対面となったな。


「まさか、私の魔法が突破されるとは……」


「おい!? 大丈夫なんだろうな!?」


「うるさい、貴様は黙っていろ」


「あぁ!? ロンド、てめー!」


「二度は言わない——ゴンザレス黙れ」


「チッ! ……わかったよ」


 黒いフードを被った奴が、魔法使い……ロンドとか言ったか。

 ゴンザレスは……うん、手配書通りの悪い風貌をしている。

 丸刈りで筋肉隆々、バトルアックスを使うようだな。


「人間は残りは二人ですねー問題はアレですか」


 俺達がすぐに動かない理由がある。

 奴らの後ろに、大きさ三メートルほどの一体のゴーレムがいるからだ。

 土魔法使いとはわかっていたが……魔法の威力といい、中堅クラス以上の実力者だな。

 間違っても、一介の盗賊団にいるようなレベルではない。


「団長、どうする?」


「そのまま突撃というわけにはいかないな。あちらの出方を見るとしよう」


「オイラは言われた通りにします」


 すると、ロンドが前に出てくる。


「ようこそ、下賤な冒険者諸君。まさか、私の魔法が突破されるとは思ってもみなかった」


「ということは、お前は冒険者じゃないってことだな?」


「当たり前だ。私のような一流の魔法使いが冒険者風情なわけがあるまい」


「いや、冒険者にも一流の魔法使いはいるが? というか、自分を一流っていう奴に一流はいないと思うが?」


「……貴様、何者だ? 佇まいが違う……貴族の者か?」


「さあ? どうだろうな?」


「貴族を消すのはまずいか? ……いや、問題あるまい。冒険者になるということは下位貴族か、跡を継げない役立たずだろう」


「どうやら、裏に誰かがいるみたいだな?」


「……喋りすぎたな、私の悪い癖だ。では——死ぬといい」


 おそらく、その言葉自体が鍵となっているのだろう。

 ゴーレムがゆっくりと動き出す。


「ゴンザレス! お前も手伝え!」


「わかってるよ!」


 四対三か……。


「アロイス、ゴンザレスをやれるか?」


「へっ! 任せろ、厳しいが何とかするぜ」


「イージス——お前にゴーレムを任せる」


「お、オイラに……?」


 流石に厳しいか?

 だが、役割分担的にはこれが正解なはず。

 イージスではゴンザレスには勝てまい。

 魔法使いにも相性が悪いし。


「俺とシノブでロンドを仕留める。その間の時間を稼いでくれ……出来るか?」


「……やります——いえ! やらせてくださいっ!」


「よし、任せた。シノブ、一刻も早く奴を仕留めるぞ」


「あいさー!」


 それぞれ配置について、敵と対峙する。


「私の相手は貴方達ですか……近接系しかいないパーティーで私に挑むとは、全く愚かな連中ですね」


 ……痛いところを突かれた。

 そうなんだよ、遠距離攻撃が出来る仲間が欲しいなぁー。


「別に問題ないさ。お前程度が相手ならな」


「……言ってくれますね。ならば——見るがいい! 攻防一体の最強魔法と言われる土魔法を!」


 奴の周りに、拳ほどの土の塊が大量に出現する。


「ユウマさん、どうしますかー?」


「まずは機動力を生かして突っ込んでみるとしよう。二手にわかれて撹乱しつつな」


「了解でーす」


「死ぬ覚悟はできたか? ……ロックバレット!」


 高速で打ち出された岩の弾が飛んでくる。


「散開!」


「あいさー!」


 左右に分かれて、それぞれで攻め込んでいく。


「チッ! 速い!」


 いけるかと思った矢先……。


「そう甘くはないか」


 足元がせり上がり、スピードを殺される。


「でも——遠距離だってありますからね!」


 シノブが服の中から取り出したクナイを投げるが……。


「土の壁よ! 我を守れ!」


 奴を囲むように土の壁が現れる。


「流石、汎用性の高い魔法と言われるだけはあるな」


 火属性は強力だが、木が多いところや建物内では使えない。

 水属性は防御系が多く、攻撃には向いてない。

 風属性は威力はあるが、防御には使えない。

 土属性はどこでも使えるし、攻撃も防御もできる。


「むぅ……アレでは無理ですねー」


「魔力切れを狙っても良いが……」


 チラリとアロイスとイージスの様子を伺うが……。


「オラァ!」


「んだコラァ!」


「あぁ!?」


「やんのかぁ!?」


 セリフだけではどっちがどっちかわからないな……。

 しかし、姿形まで似てるし。

 おまけに、強さまで互角らしい。


 問題は……イージスだな。


「ハァ、ハァ……くっ!?」


 無言の巨体から振り下ろされる拳を必死に受け止めている。

 あれでは、そう長くは保たないだろう。


「さて……どうしたものか」


 俺の魔力剣なら、あの壁を破壊することも可能だが……。

 その後、あいつにトドメをさせない。

 シノブと反対方向から攻め込んで行くか?


「ユウマさん、考えがあるんですけど……」


 何か迷った表情?をしている。


「うん? 珍しいな、お前が言い淀むとは……」


 付き合いが短いが、割とはっきりと物を言うタイプなのはわかっている。


「いや、そのですね……」


「どうした! 時間稼ぎか!? まあ良い! その間に仲間は死ぬがな!」


 口ではああ言っているが、やはり時間がかかるのはあいつも嫌なんだろう。

 言葉の端々から焦りを感じる。

 ゴーレムの維持に、俺たちへの魔法、自分の守り……相当魔力を消費するはずだ。


「もう! 人が話してるのにっ!」


「よくわからないが、考えがあるなら言ってくれ」


「その前に……何を見ても驚きません? 私のこと嫌いになったりしませんか?」


 その目には怯えが見え隠れしている。

 ならば、俺にできることはただ一つ——その不安を取り除くことだけだ。


「……わかった。俺の全てをかけて約束しよう。何を見ようが、お前を嫌いになることなどないと」


「ユウマさん……えへへ〜仕方ありませんねー。ではでは——やるとしますかねっ!」


 シノブは出会ってから一度も触れたことがないものに手をかける。


 俺は以前聞いたことがある。


 何故、ずっとポニーテールのままなのかと。


 風呂上がりでも寝るときでも、常にその状態だったからだ。


 その時、シノブは誤魔化していたが……。


「それがどうかしたのか……なに?」


 シノブがシュシュで纏めてある髪を解く——その瞬間異変は起きた。


 シノブの黒髪は真っ白に染まり。

 瞳は黒から真紅に染まり。

 口元からは犬歯が伸び、両腕の爪の先が伸び。

 全身から可視化された紅いオーラが放たれる。


 その姿形は異形そのものだったが……。


 俺は思ってしまった——なんて美しいのだと。


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