24話教会について
俺はすぐにアロイスが待っている場所へと向かい……。
「アロイス! すまない!」
まずはきちんと頭を下げる。
依頼を受けるとは言ったものの、思っていた状況とはだいぶ異なる。
それを、ほぼ俺の独断で決めてしまったからだ。
「……何かあったな? 団長、詳しく教えてくれ」
「ああ、もちろんだ。実は……」
俺が一通りの説明をすると……。
「なるほど、そういうわけか。しかし、ゴンザレスか……」
「……怒らないのか?」
「ん? 何か悪いことをしたのか?」
「いや、本来なら持って帰って相談すべきだと思うのだが……」
「いや、そうなる予感はしてたぜ。ああいう依頼書の書き方といい、他の冒険者がとっていかないこといい……何かしらの厄介ことがあるとは踏んでいた」
「そうなのか……そういうのにも気づいていかないといけないな」
「まあ、追追でいいと思うぜ? 俺は団長くらいの時は何も考えてなかったしな」
「そうか……それで、すぐにても出発したいのだが」
「ああ、緊急性が高いからな。それに、ある意味でラッキーかもな。奴を倒せれば、お釣りがくるぜ」
「イージス……は、きたようだな」
「ハァ、ハァ、すみません、待たせてしまって……」
「いや、気にするな。イージスには歩きながら話すとしよう」
門へと向かいつつ、イージスにも説明をする。
「五級相当ですか……! オ、オイラ役に立てるかな?」
「お前一人じゃないから安心して良い。アロイス、勝算は?」
「俺が一対一では厳しい相手だが、団長のフォローがあれば行けると思うぜ」
「あとは奴の根城にどれだけの戦力があるかだな」
シュミレーションをしつつ、王都の入り口に到着すると……。
「ユウマさん! 用意できてますよー!」
「シノブ、ありがとな。では、すぐにでも出発しよう。ロナさん、その村への道はわかりますか?」
「す、すみません……ラクリ村としか……」
「ラクリ村……軍の演習で通ったことがある気がする……イージス、地図をくれるか?」
「は、はいっ!」
「……あった、これだな。うん、覚えているはず。よし、俺が先頭で行こう。シノブはロナさんを乗せて俺の後ろへ。その後にイージスとアロイスで行くぞ」
全員が頷くのを確認して、それぞれ馬にまたがる。
そして、急いで王都を出発する。
そのまま走ること二時間くらい経つと……。
「イタッ!?」
「ロナさん、大丈夫ですか?」
「シノブさん、平気ですから……早くいかないと……」
やはり、貴族のお嬢さんにはキツかったか……。
おいていくという選択肢もあったが、それでは説得も上手くいかないだろうし。
「みんな! 一度止まってくれ! 休憩を取る!」
「ユウマさん!?」
「急いで行って疲れ果てては意味がないですから。馬にも水や休息は必要ですしね。それに痛いのは俺に任せてください」
「は、はぃ……ごめんなさい」
「いえ、お気持ちはお察しします」
川が流れる場所を確保して、そこで小休憩を挟む。
「アロイス、イージス警戒を頼めるか?」
「おうよ」
「はいっ!」
「では任せるとしよう」
「ユウマさん、私がしなくて良いんですかー? 適任ですよ?」
「ああ、それはわかっている。だが、女性であるお前がいた方が安心だろうからな」
「い、いえ! もう良い人だというのはわかってますから!」
「ほらー」
「ありがとうございます。ですが、これからすることを考えると……申し訳ないですが、患部を見せてもらっても?」
「え………? えぇ!? お尻ですか!?」
「落ち着いてください。全部を脱ぐ必要はありませんから。痛い箇所を教えてください」
「え、えっと……」
「ロナさん、大丈夫ですよー。ユウマさんは回復魔法の使い手ですからー」
「え? ……男の人なのに? 聞いたことないわ……あっ、でもお金が……」
「お代は結構ですので。俺は教会の人間ではないので。そもそも、神の奇跡でもなんでもないですからね。こんなのは、ただの魔法です」
ただ、基本的に女性しか使えないこと。
その中でも使い手がいないことにより、神聖化されているだけだ。
それを教会の上の男共が利用しているだけに過ぎん。
奴らは慈善活動の名の下に、孤児の中から才能のある者を見つけ出す。
それを安くこき使うことで、その多くを自分達の金とする。
「ふふ……教会の人が聞いたら怒りそうですね」
「まあ、既に異端扱いを受けてますから。ただ母上が有名だったことで、そういうこともあるのかと納得してもらいましたね。あとは、当時いた司祭様は珍しく良い方で、その方が力になってくれましたね」
その方は亡くなってしまったが、母上もお世話になったそうだ。
複雑だが、親父との結婚もその方がいなければなかったらしい。
「あっ、その方って……」
「その前に治療してもいいですか? というか、しても良いですかね?」
「……いえ! それで早く着けるなら! どうぞ!」
ロナさんは恥ずかしそうに、痛い箇所を指差す。
女性にとっては恥ずかしいだろうな……手早く終わらせるとしよう。
「あっ——だからアロイスさんとイージスさんを……ユウマさん紳士ですねー」
「お気遣いありがとうございます……」
「いえ、では腰を触ってもよろしいですか?」
流石にお尻を触るわけにはいかんし。
「は、はぃ……」
「では……かの者を傷を癒したまえ——ヒール」
「あっ——痛みが……すごい」
「どうですか?」
「はいっ! 痛くないです! 凄いですねっ!」
「ですが、少しは休憩をしましょう。魔法が行き渡るまで、少し時間がかかりますから」
「では、お話をしても良いですか?」
「ええ、どうぞ。さっき言いかけてたことですか?」
「ええ、モーリス司祭様ですか?」
「その通りですが、ご存知なのですか?」
「ええ、回復魔法は使えませんが私の母も教会に勤めていましたので。準男爵家の出身ですが、貧しい家だったので働きに出ていたそうです。その時に、結婚したがっている女性を後押ししたって聞いたことがあって……」
基本的に回復魔法を使える者は、他国との結婚は認められない。
貴重な回復魔法使いの血が、よその国にいってしまうからだ。
だから本国から派遣されてきた彼女達は、基本的に敷地内から出ることはできない。
「なるほど、そういうことですか。ええ、あの方は良い方でした。今と違い、孤児院にもきちんとお金をかけていましたし。教会にきた男性と、それに惹かれた女性を後押ししていましたね」
孤児で幸せを知らないのだから、せめてこれからは幸せにと……。
もちろん、そうならないこともあるが……それはモーリス様の責任ではない。
俺も謝られてしまったが、恨んでなどいない。
そもそも後押ししてなければ、俺は生まれていないしな。
「ええ、良い方だったと。ただ、両親はお金で苦労したそうです。今でこそ、それなりに財を築いてますが……」
「それもあって認めないということですか」
「ええ、私には苦労してほしくないと……それはわかるんです。でも!頭ごなしに言わなくても! 彼に会ってもいないのにっ!」
「では、きちんと話し合うといいでしょう。貴女は両親に愛されているのだから。それは当たり前のようでいて、とても貴重なものです」
「……ユウマさんは……その」
「お恥ずかしながら、父親と上手くいかなくて……まあ、母上とは仲が良いんで。ですから、こじれる前にきちんと話し合うことをオススメします」
「はい……そうですね。ありがとうございます、ユウマさん。依頼にきたのが貴方で良かったです」
「いえ、礼は彼を見つけてからにしましょう」
モーリス司祭様が亡くなって教会は変わって……いや、元に戻った。
教会のトップが変わったことにより、孤児院にお金がいかなくなったこと。
治療の料金が跳ね上がったこと、女性達の監視が厳しくなったこと。
「あの俗物共め……」
モーリス様は、異端と言われた俺を守ってくださった。
あの方は自分がいなくなった後の孤児院のことを憂いていた。
ならば、俺が孤児院に通うことは当然ことだ。
それが大恩あるモーリス様にできる、俺のせめてもの行いだからだ。
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