25話それぞれの国の内情
休憩を終え、俺たちは再び行動を開始する。
そして、暗くなる前に目撃情報近くの村に到着した。
「この辺りだって?」
「はい、知り合いの商人の方がこの辺りで見たって……」
「こんな村の近くに根城があるのか?」
「いや、あえてかもしれないぜ? こんな近くにあるとは思わせないためとかな」
「少し、話を聞く必要があるな……俺とシノブで行くとするか」
「おう、任せるぜ。お前さんたちは見た目がいいからな、警戒心が薄れる」
「オイラたちは馬を見てますね」
「では、ロナさん行きましょう」
「は、はいっ! オラン無事でいて……!」
その後、村で聞き込みをすると……。
「とりあえず、ここを通ったみたいですね」
「ああ、ただ話す暇もなく食料を調達しただけのようだな」
「えっと……でも、ここからどこに行ったかわからないですね……」
「いや、ある程度は推測出来ます。急いでいたこと、日が暮れるまで時間があること。急いで買い物を済ませたことから……おそらく、日が暮れる前に決着をつけに行ったということです。うかうかしていると、他の冒険者が来てしまうかもしれないですから」
「あっ——つまり、この近くにいると……?」
「その可能性が高いですねー。あとは、この近辺で隠れられそうな場所を聞いてみましょう」
「よし、方針は決まったな。では、二手に分かれるとしよう」
俺は単独で行動して、母上くらいの年齢の女性に話を聞いていく。
昔からこの年代の女性には好かれているからな。
その結果、この村は平和だということがわかった。
そして、時々見慣れない人が買い物をすることも。
再び集まり、意見を交わす。
「平和な村……ゴンザレスはなぜ襲わない? ……やはり、アロイスの言う通りに隠れ蓑にしているのか」
「あり得ますねー。この辺りは平和だっていうのが国に伝わっていれば、巡回の兵士も気が緩むでしょうし」
「あっ、そういうことなんですね」
「ええ、おそらくですが。しかし、まだまだわからないことだらけです。ですが、たまに来る見慣れない人……そいつが来る方向が怪しいな」
「ええ、あとはアロイスさん達にも聞いてみましょー」
アロイス達の元に戻って、まとめた話を説明すると……。
「ふむ……団長の推測で良いと思うぜ?」
「オイラもですっ!」
「そうか、なら行動開始だな」
「レッツゴーです!」
「ふふ、楽しい方ね。シノブさんって」
いや、本当に……シノブがいて良かった。
俺も含めて真面目というか、少し固い部分があるからな。
シノブというムードメーカーがいると、依頼人もリラックスできるから助かる。
ある程度進むと、アロイスとイージス、俺とシノブに分かれて痕跡を探す。
そして、それを開始して三十分ほど経つと……。
「ユウマさん! ここに馬の足跡がありますよー」
「シノブ! よくやった!」
「えへへー、褒められちゃいましたねー」
「やはり、目が良いんだな」
「まあ、人よりは良いですよー。夜目も効きますしねー」
「えっと……?」
「あっ、いや、そのですね……」
「私、亜人って言われてる種族なんですよー」
「え!?」
「怖いですかー?」
「……いえ、最初に聞いていたらわかりませんが、少なくとも今は怖くないです。亜人にも、貴女のような方がいるんですね……人族は嫌われているものかと……獣人という方は見たことがありますが、人族を避けているように見えたので」
我が国にも獣人族はいるが、大体は中継点として使われる。
強ければ誰でも受け入れる冒険者の国、州郡国家バルザールに向かうからだ。
「そういう人も多いですよー。未だに奴隷の過去を引きずっている世代もいますし。中には、記憶なんかを受け継ぐ種族もいますので」
「シノブさんはそうは見えませんね?」
「私は変わり者でしたからねー。普通は人間と付き合おうなんて思いませんし。でも、大人達って口ばっかりで何もしないんですよー。友好を深めるべきだなんて話し合いを何十年も前から繰り返して……きっと、自分じゃない誰かがそのうちやってくれるって思ってるんですよ! だから、それが私でもいいかなぁ〜って」
「立派ですね……両親を含めて、我が国の貴族も似たようなものです」
「耳が痛いな……特に年老いた連中なんかは顕著だ。自分が死んだ後のことなんかとどうでも良いと思って、民にとって無茶な政策を繰り返す。それでも、うちはマシな部類だが。最近は少しずつだが、良い方向に向かっている気がする」
「両親から聞いたのですが、最近王位についたデュラン国王様がご立派な方だと。傲慢な貴族達を少しずつ排除しているみたいです。それにエデンとの付き合い方も考えていると」
「そういえば軍学校でも話題になってましたね」
「へえー、確かに……そういうことなのかも?」
「うん?」
「いや……国境を越える時に、聞いていたより随分とあっさり通過できたので。その方が何かしらしたのかなぁーって」
「ほう? それが本当だとしたら希望が持てる話しだな」
その後合流して、その足跡を追っていくと……。
「団長、 馬があるぜ」
「ああ、見えるな。しかも、建物まで見えるな」
森の外に馬が繋がれて、森の中には大きな建物が見える。
「おかしくないですかー?あんなあからさまに怪しい場所なんて……普通、兵士達だって気づきますよね?」
「ああ、そう思う。平民や冒険者はあえてこの辺りには来ないだろうが、兵士達は巡回をしたら目に入るはずだ。これはきな臭いな……アロイス、どう思う?」
「ゴンザレスは、何故か目撃情報が少ない奴だ。警戒心が強いからと思っていたが……何か裏があると思った方がいいぜ」
「そうか……ところで、イージス」
「ひゃい!?」
「どうした? さっきから黙っているが」
「す、すみません……緊張しちゃって……これから殺し合いをするんですよね」
「……すまん、失念していた。イージスは経験がないのか?」
「いえ! オイラが言わなかったので! えっと、魔物はあるんですけど……人間を殺したことはないです」
「アロイスはあるよな? もちろん、俺もある。軍学校の授業で盗賊退治をしたからな」
「ああ、もちろんだぜ。冒険者も六級に上がる条件に、人を殺せることがあるし」
「シノブは?」
「私は問題ありません。教会のクズ共と、トライデント王国の騎士達を殺しました。貞操の危機だったのでー」
「お、オイラだけ……やっぱり、足手まといなのかなぁ……」
「ここで待っているか? 言っておくが、それくらいで足手まといなどと思わないからな?そのうち経験は必要だが、人を容易く殺せることは決して褒められたものではない」
「だ、団長は……? どうやって乗り切ったんですか?」
「俺か……こいつを逃したら、大切な誰かが犠牲にになるかもしれないって思ったな」
「それは……?」
「前にも言ったろ? その盗賊を殺さずに逃がしてしまって、それがお前の村を襲ったらどうする?」
「あっ——オイラの家族が……」
「そういうことだ。俺は妹や母上を思い、それを飲み込んだな。割り切ったと言ってもいい」
「……大切な人……団長が大切です!」
「お、おう、ありがとな」
「その方が危険な時にこんなところにいられません! オイラ——やりますっ!」
俺はイージスの目を見つめるが……意思の揺らぎは見えなかった。
「そうか……よし、お前の覚悟を受け取った。パーティーの盾として働きを期待する」
「はいっ!」
「ふふ……良い関係ですね」
「えへへー、ロナさんもそう思います? 私もですよー」
「ったく、青臭い奴らだが……いつのまにか嫌いじゃない自分がいるぜ」
パーティーの絆を新たにして、俺たちは森の中へと入っていくのだった。
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