三章
23話護衛依頼
さて、仲間が増えてから数週間が過ぎた。
俺は七級に、アロイスは六級に、シノブとイージスも八級にランクアップした。
このことにより、ようやく本格始動が出来る。
四人もいれば仕事の幅も広がり、色々な依頼を受けることができるからだ。
「さて……それじゃ、どうするかな?」
「そうですな……七級のオークは当然として……これなんかどうです?」
「七級からある護衛依頼と探索依頼か…… イージス、シノブ、お前達はどちらが良い?」
「私は探索ですかねー。自分の特技を生かせますし」
「オ、オイラは護衛かな。探索とか足を引っ張りそうだし……シノブさん、ごめ……いえ、なんでもないです」
「えへへ、それで良いんですよー。謝る必要はありませんからねー」
イージスも少しずつだが、癖が抜けてきてはいるな。
何より、シノブはおおらかで優しいからイージスとも上手くやれそうだ。
「団長、どうする? 意見が分かれましたぜ。俺は意見を言わないので、団長が決めてくれ」
「……まあ、二対二だとらちがあかないか」
「それもあるが……俺はあえて意見を言わない立場でいようと思っている」
「えっと……どういう意味だ?」
「人数が増えてくると客観的に見る奴が必要だと思ってな。何より、俺は年齢も経験も上だ。その俺の意見が合っていると思っちまうだろ?それじゃ、成長もしないぜ。もちろん先達者として、明らかに間違っているものには口を出すが」
「そうだな……わかった、アロイス。ありがとな、お前がいてくれて良かったよ」
「むぅ……ユウマさんが信頼している……私も頑張らないと!」
「オイラもです!」
「へっ、団長の右腕は俺だっ!」
「いや、なにを張り合っているんだ……そうだな、護衛依頼を受けようかと思う」
「団長、理由はなんだ?」
「俺もシノブもイージスも、この国では世間知らずな方だと思う。俺は貴族街出身で、人々基本的な生活を詳しくは知らない。シノブは言うまでもなく、そもそもこの国に来たばかりだ。イージスは長年いるが、それどころではなかったと思うし」
「まあ、良いと思うぜ。護衛依頼は村々を回ったりもするからな」
「二人とも、いいか?」
「仕方ないですねー」
「オイラは良いですよ」
「よし、ではどれにするかだな……うん?」
依頼書を眺めていると、気になるものを見つける。
「どうしましたー?」
「いや、これが気になってな。一昨日からあるが、急募と書いてある」
「団長、どれどれ……うむ」
『大切な人を探しています。目撃情報を得たのですが、一人ではそこまで行くことが出来ません。どうか、そこまで護衛をして頂けないでしょうか? お願いします!』
「オ、オイラ、この人の依頼を受けたいです!」
「しかし……安いな。だから、残っているんだろうが」
アロイスの言う通りだ。
護衛依頼というのは、基本的に高額なものが多い。
基本的には裕福な商人や、貴族などが依頼をすることが多いからだ。
しかし、この依頼書は本来の三分の一程度しかない。
だが急募と書いてあるので、きっと精一杯のお金なのだろう。
「アロイス、すまないが……」
「目に入っちまった以上、それが気になるんだろ? わかっているよ、団長がそういう奴だっていうのは……仕方ねえ、俺はそういうアンタに惚れてんだ」
「アロイス……ありがとな。二人もいいか?」
「オイラはもちろん!」
「良いですよー。さあ、行きましょー」
俺は良い仲間を持ったな……本当に。
依頼書を受け付けに持っていき、記された場所へ向かう。
ぞろぞろと押しかけるのもあれなので、俺とシノブで行くことにする。
その間に、イージスとアロイスには買い出しに行ってもらう。
護衛依頼ということは、食材や衣類などが必要になるからだ。
「ここか?」
とある平屋の民家に到着する。
扉をノックして、声をかける。
「こんにちはー。冒険者ギルドで依頼を受けたものです」
バタバタと音がして扉が開かれる。
若い女性の方なので、俺は素早く一歩下がる。
「ぼ、冒険者の方ですか!? あのっ!」
「ええ、そうですよー」
「あっ、ありがとうございます! あの! 私を連れていってください! お願いします!」
「ユウマさん?」
どうやら、相当テンパっているようだな。
ここは、まずは落ち着いてもらわないと。
「お嬢さん、まずは落ち着いてください。お名前を教えて頂けますか?」
「あっ——わ、私ったら……ロナと申します」
「いえ、無理もないことです。まずは、詳しくお話を聞かせてもらっても?」
「そ、そうですよね。ええ、ではお入りください」
「ええ、ではお邪魔させていただきます」
「お邪魔しまーす」
中に入り、リビングに案内されるが……他の気配がしない。
ほっ……シノブを連れてきて正解だった。
女性だけの家に、男だけで行くのはよろしくない。
「それで依頼の件ですが……」
「はい、実は……婚約者がいるんですが、オランが私のために……!」
「落ち着いて、ゆっくりと、順を追って……」
出来るだけ優しい口調で、ロナさんに問いかける。
それにしても……随分と所作が綺麗だな。
これは……あのパターンか。
「えっと……私とオランは婚約者なんです。その、えっと……」
「失礼……ロナさんは貴族の娘さんですね?」
「えっ!? ど、どうしてわかったのですか?」
「へぇー、全然わかんないですねー。団長は何故?」
「いや、大したことではない。所作が綺麗だったこと、まだ若いのに言葉遣いなんかも丁寧だし……何より、同じ匂いがしたからな」
「貴方も……道理で、冒険者の方にしては立ち振る舞いが紳士だと思いました」
「ありがとうございます。でも、平民の冒険者にも紳士な方はいますよ。先ほど、私のためにとおっしゃいましたね?」
「はい……恥ずかしいことに駆け落ちをしてまして。両親が平民との結婚は許さないって……両親の気持ちもわかるのですが、私は彼以外には考えられなくて」
「素敵ですねー!」
「ありがとうございます……でも、彼はそれを良しとはしなくて……きちんと私の両親に認められたいって」
「見えてきましたね……平民の方が貴族に認められるのは……手柄を上げるか、それ相応の対価が必要ですね」
「そうなんですっ! 彼も冒険者で、賞金首を発見したから、その住処に攻め込むって……彼は貧しいから冒険者になったけど、本来は戦いなんか向いていないのに。でも、そこで大金を得て、両親にも認めてもらうって。私は貧乏でも良いから、彼と穏やかに過ごせたらそれで良いのに……」
「普通の女性はそうですよねー」
「そうかもな……ただ、男というのはバカなんだよ。見栄をはりたい生き物だからな。しかし、賞金首か……名前はわかりますか?」
「はい……仲間の一人が発見したそうで、ゴンザレスという山賊だそうです」
「まずい」
「え? 何かですかー?」
「奴は手強い……彼のランクは?」
「八級です……でも、仲間には六級もいるから平気だって……」
「奴は五級相当の実力と書いてあったな……六級なら不可能ではないか。ただ、敵味方の数にもよる。急いだ方が良さそうだな」
「やはり、そうなのですね……彼は気丈に振る舞っていましたが、とても不安そうに見えました。だから、私は彼に怒られることを承知で……生きてさえいてくれればいいんです。でも、こんな安いお金じゃダメですよね……でも、これ以上のお金はなくて」
「貴女のその覚悟、受け取りました。その依頼、引き受けましょう」
俺がアロイスに怒られることは覚悟しておこう。
「えっ!? いいのですか?」
「ええ、ちょうど良いタイミングです。俺らも名前を上げたいと思ってましたので。ついでに、ゴンザレスも始末しましょう。そして、その報酬をいただきます」
「私が気を使わないように……ありがとうございます!」
「団長、どうしますか?」
「シノブはこの方を連れて、先に入り口へ。そして、馬を四頭用意してくれるか?」
「あいあいさー!」
「では、すぐにでも行きましょう」
「よろしくお願いしますっ!」
俺はシノブと別れ、急いでアロイス達の元にいくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます