外伝~イージス~

 オイラは今、ギルドの一角で手紙を書いています。


 故郷に暮らす家族達に向けて……。


『みんな元気ですか? オイラは元気にやっています。ランクアップもしたし、身体つきも成長しました。仕事も順調に進んで、少しずつですが稼げるようにもなってきました』


 本気でそう書けることに、涙が出そうになる。

 団長のお陰で、こうして初めての気持ちで書ける。

 今までは嘘をついていたから……両親に嘘だけはつくなって教わったのに。


「心配かけたくなくてついた嘘だけど……嘘をついたことには変わりはない」


 今度帰ったら、両親にきちんと謝ろう。

 そして、これまでのことを話そうと思う。


「何より、団長のことを話したい」


 オイラの生活は、ここ数週間の間で劇的に変化した。


「あの時、団長が声をかけてくれたから」


 冒険者になってから、ずっと役立たずと言われていたオイラに。

 最初は体格も良くて、皆から期待されていたけど……。


「すぐに化けの皮が剥がれちゃったんだ……当たり前だけどね」


 戦闘経験もないし、武器の扱いも知らない。

 学もないし、専門的知識もない。


「そんなんじゃ、上手くいくわけがなかったんだ」


 学ぼうにもお金はかかるし、日々生きるだけで精一杯だった……。


「きっと、このまま……いずれは、どこかで死んじゃうと思ってた」


 でも、そうはならなかった。

 団長が、オイラを仲間にしてくれたから。


「それだけじゃなくて、稽古までつけてくれて……」


 毎日毎日同じ時間にきて、オイラを特訓してくれた。

 オイラが怪我をすれば、貴重な回復魔法を惜しみなく使ってくれた。

 そんなことしても、団長には得がないのに。


「オイラにあそこまで付き合ってくれた人はいなかった……」


 今までもそう言ってくれた人はいたけど、すぐに居なくなってしまった。

 もちろん、オイラが悪いんであってその人は悪くない。


「それところが、お金まで……」


 みんなで命がけで稼いだお金を、オイラにお祝いだって……。

 オイラどんなに辛くても泣かなかったけど、嬉し涙は我慢できなかった。


『新しい素敵な仲間達に恵まれて、オイラは楽しく過ごしています。だから、安心してください。詳しいことは帰ったら話すけど、ユウマさんって人のおかげなんだ。すごく優しいし頼りになって、オイラが守りたい人なんだ。いつか、みんなにも会わせてあげたいです。そのおかげもあり、多めに仕送りを送ります。これはパーティーのみんなが、オイラの昇進祝いにくれたものです。オイラをここまで育ててくれた両親に使って欲しいです。だから、遠慮なく使ってください』


 ……フゥ、こんなところかな?

 長くなりすぎると、お金もかかるし。

 書きたいこと書いたらきりがないし。


「イージス!」


「団長?」


「書けたのか?」


「ま、まだです、すみません」


 ギルドに報告しているついでに書いているので、みんなもそれぞれの場所にいたんだった。


「謝ることはない。というか、謝り癖をどうにかしろ」


「すいま」


「おい?」


「あっ——ご、ごめ……あ、う、え、」


 え? 謝っちゃいけない? どういうこと?


「すまん、俺が悪かった。悪いことをしてないのに、謝る必要はないということだ」


「そ、そういうことですか……無意識に癖になってるみたいです」


「まあ、仕方ない。なら、少しずつでいいさ。手紙、見てもいいか?」


「え? は、はい」


 き、緊張する! 変なこと書いてないっけ?


「ふむ……俺のこと褒めすぎじゃないか?」


「そんなことないですっ! 書き足りないくらいですよ!」


「お、おう……ありがとな」


 団長は褒められ慣れていないみたいです。

 こんなにかっこよくて、綺麗で性格も良いのに。

 オイラには詳しいことはわからないけど、こんなオイラでも力になれることがあるはず。

 だから……。


「ええ! 団長は素晴らしい人です! オイラの恩人です!」


「わ、わかった! もういいから!」


 オイラにできるのは、団長を褒め続けることだ。

 きっと、何かしらの理由があるんだと思う。

 なら、それ以上にオイラが……!


「団長は……」


「そ、それより!」


「はい?」


「手紙の内容はさておき……ここに書いてもいいか? そうじゃないと、多分心配するぞ?いきなり大金が届いたら」


 あっ、一筆添えてくれるって本当だったんだ。

 いや、嘘だとは思ってなかったけど……。


「は、はいっ! ありがとうございます!」


「では、失礼」


 団長は、オイラとは違い綺麗な字で書いていく……。


「うわぁー、字が綺麗ですね」


「そうか? ……まあ、そういう教育は受けているしな。というか、書いてるところを見られるのは恥ずかしいんだが……」


「あっ——すいま……あれ?」


「そこはすいませんでいいと思うぞ?」


「す、すいません」


 そのあと二、三分ほどで書き上げたみたいです。


「ほれ、確認をしてくれ」


「は、はい」


 内容を確認すると……。


『イージスの仲間のユウマと申します。彼はとても真面目で優しい男ですね。きっと、ご両親の育て方が良かったのでしょう。私はこれからも、そんな彼とパーティーを組んでいきたいと思っております。今回のお金についてですが、新しく仲間になったこと。そして、ランクアップしたこと。そのお祝いとしてイージスに渡した真っ当なお金です。なので、どうするかはイージスにお任せしております。ですがご両親も心配だと思うので、もし機会があればお会いしたいと思います。その手配はこちらでしますので、お手紙のお返事をお待ちしております』


「な、なんでここまでしてくれるのですか……?」


 また、涙が……。


「別に大したことはしてないさ。俺が思ったこと、したいと思ったことをしているだけだ」


「したいこと、思ったこと……」


 オイラがしたいこと……この方の恩に報いたい!!


 思ったこと……この方を守りたい!!


「団長!」


「ん?」


「オイラ、まだまだ弱いけど……きっと——貴方を守れる盾になってみせます!」


「ああ、期待してる」


 そう言い、団長は照れ臭そうにします。


 そんな方だから、なおさら思う。


 この方を守りたいと……。


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