19話お互いに譲れないものがある
翌日、叔父上の家で寝ていると……。
「おい、ユウマ」
「ん……叔父上? どうしたのです?」
「これはお前のか? 家の周りをチョロチョロしてたから捕まえたが……」
「ユウマさん! このバケモノは何ですか!? 私が手も足も出ないなんて!」
そこには片手で掴まれて、猫のようになっている女性がいた。
「おい、失礼な奴だな」
「君は昨日の……よく、この場所がわかったな?」
「企業秘密ですっ!」
「ほらよ!」
「キャア!?」
「ちょっ!? 投げないでくださいよ!」
「全く、ガキだと思っていたが……隅に置けない奴だ。俺は出掛けるから好きにやると良い……じゃあな」
「叔父上!? 違いますよ!」
俺の話を聞くことなく、叔父上は行ってしまう。
「えへへー、家主公認ですね?」
「おい!? 引っ付くな!」
「良いじゃないですかー? 減るものじゃないし……あっ、別に付き合ってくれとは言いませんので。ただ、子種をくれればそれで良いのでー」
「いや、だから……まずは、説明をしてくれ」
「もう、逃げませんか?」
「昨日は悪かったよ。ただ、いきなり子種をくれと言われたら逃げたくもなる」
「むぅ……それもそうですねー。私も焦っていたので……えっと、どこから説明しましょう?」
「最初からだ。まずは、何者、いや何族だ?」
これが昨日から疑問だった。
いくら魔力強化してないとはいえ、この細腕で俺と力が互角はおかしい。
「へぇ、益々良いですねー。私、見た目は人族に近いと思うんですけど?」
「ああ、だからこその疑問だ。君は亜人なのか?」
「むぅ〜合ってますけど……その言い方は嫌いですねー」
「え?」
いや、しかし……俺はそうとしか教わっていない。
だが、知らないからといって相手を不快にさせるのは違う。
「私はですね……」
「待った」
「はい?」
「まずは謝罪する。そして、俺はエデンに住む方々を亜人としか習っていない。もしよかったら、君の種族を教えてくれないか?」
我が国は亜人国家と言われるエデンとは微妙な関係だ。
仲は悪くないが、お互いに不干渉という形をとっている。
その理由は、人族が彼らを奴隷として扱っていた時代があるからだ。
いや……正確には、今でも少数ながら存在すると言われている。
もちろん非合法なので、見つかればタダではすまない。
「……真面目なんですねー。えへへ〜、良いですよー。私の一族はヴァンパイア族です」
「ヴァンパイア族……俺が知っているのは獣人というやつだな」
「一番数も多いですし、種類もいますからねー。この国でもたまに見かけますし」
我が国は個人としてなら、国の行き来は自由となっている。
もちろん、人族がエデンに行くことも可能だが……あまり行きたがる人はいない。
誰も好き好んで、憎しみの目で見られたくないしな。
「他にはどんなのがいるんだ?」
「獣人族、ドワーフ族、ハーフエルフ族、鬼人族、ヴァンパイア族が住んでますね」
「その中の一つであるヴァンパイア族ってことか……それで、子種とは?」
「私の種族はですね、男が生まれにくいんですよー。なので、初潮を迎えた女性は、他の種族に種をもらいにいくんです。それも、出来るだけ強い個体に」
「……なるほど、それで俺に子種をってことか。それは同じ国の、別の種族ではいけないのか?」
「大体はそうなりますねー。ただ、ピンとくるのが条件の一つでして……私も自分の国を回ってみたんですが……まあ、いなくてですね。隣の宗教国家セントアレイや、その上にある騎士国家トライデントにも行きましたが……どこにもいなかったですし」
「すごいな……エデンを敵視している国にまで行ったのか……見つかったらタダではすまないだろうに。一応、人族に近いからバレにくいとはいえ……」
セントアレイは人間至上主義の国だし、トライデントはセントアレイの同盟国だ。
亜人と人とは認めていないし、過去に奴隷扱いをしていたのはこいつらだ。
「まあ、捕まって犯されてますねー。子種どころじゃないですね」
「軽いな! ……いや、違うか。そのピンとくるってやつが、そこまで大事なことなんだな?」
すると、先ほどとは違い……真剣な表情になる。
「ええ、そういうことです。強い子を産むためには、直感が頼りになります。この人となら強い子が出来るっていうのを本能的に感じるんです。そして、この国にきて貴方に会いました」
「残りの国であり、我が国の上に位置するバルザックには行かなくていいのか?」
「むぅ……正直言って、それは少し迷いましたね。ただ、貴方を見た瞬間から——この人しかいないって強く思いました」
彼女は強い意志を瞳に宿している。
「そうか……ならば、俺も本気で答える必要があるか」
「断る理由があるんですね?」
「まあ、そうだな……俺は、とある貴族の次男坊だ。そして、長男や親父からは嫌われている。ただ、兄貴の子供ができるまでは廃嫡されないはずだ。だから子供を作る気はないし、恋人も作る気はない。少なくとも兄貴に子供ができるまではな」
「なるほど〜お家騒動になるからですね?」
「そういうことだ。きっと俺の相手は嫌がらせを受けるだろう。それだけでなく、刺客もやってくるかもしれない。ただ、俺は溺愛する妹がいる。その子がきちんとした相手と婚約するまでは国を出てもいけない。つまり、それまでは結婚もできないということだ」
「へぇー……詳しいことはわかりませんが、貴方の譲れない思いってことですか?」
「ああ、これだけはな」
「ふーむ……なら、尚更のこと私で良くないですかー?」
「はい?」
「私なら嫌がらせも平気ですし、刺客も撃退できますし。それに、子種だけもらったら国に帰るのでー」
「いや、そういうことじゃない。俺が嫌なんだ。大事な人が、俺のせいで危険な目にあうことが。あと、俺はそんな無責任なことは出来ない。子供ができたなら責任をとって結婚する」
「……真面目さんですねー。据え膳食わないとか……」
「ほっとけ……自分でもどうかと思う時はある」
「でも……嫌いじゃないですよ、そういう考えの人」
「そ、そうか……」
「おや? デレましたー? やっぱり、今からしますかー?」
「しないわっ!」
「あら、残念」
「まあ、というわけなんで……平行線だな」
「うーん……それが解決したら、私のことを考えてくれますか?」
「……まあ、俺とて男ではあるからな。ただ、その人となりを知らないことには……」
「なら、私も仲間に入りますねー」
「はい?」
「パーティーってやつですか? 私は冒険者の資格は持ってないから、これから取らなきゃですけどー」
「いや、まあ……だが女性というのは、タイムリミットというか……俺は、いつになるかわからないぞ?」
「問題ありませんよー。私達の種族は若い時期が長くて、五十歳くらいまではこのままですし。子供も、四十歳くらいまでは余裕ですからー」
「ほう? 人族とはだいぶ違うのだな」
「そういうことも含めて、知ってもらいたいです——私のこと」
その澄んだ瞳で、俺を見つめてくる……。
俺はそういうのに……弱いんだよ!
というか……見た目的にはどストライクだし。
「わかったとは言えない……が、アロイスとイージスが認めたなら許可する」
「あの二人ですか〜わっかりましたー! では、早速行ってきますねっ! ついでに登録もしてきますねー!」
「え? 今?」
「善は急げですっ! では、失礼しますねー」
そう言い、風のように去っていった……。
いや……仲間は欲しかったけれども!
どうやら、俺は……変な子に好かれたようだ。
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