20話イージスと俺の鍛錬の成果

 シノブが帰ったあと、部屋の掃除や、日課の訓練をこなす。


 そして一通り終わった後……二人がやってくる。


「団長、おはようございます!」


「よう、団長……災難だったぜ」


「おはよう、二人共……もう来たのか?」


「来ましたぜ。いつのまにか部屋に入ってきて、殺されるかと思ったぜ」


「オイラの方も……死ぬかと思った……」


「すまんな、二人共。それで、どうした?」


「俺の方は許可したぜ。あの強さは戦力になるし、タイプ的に団長の代わりにもなれる。あと斥候役にもなれるし、女子がいることにもよって依頼の幅も広がるしな」


「そうか……確かにな。女子がいるっていうのはポイント高いかもな。護衛対象が女性の場合もあるだろうし」


 お風呂や着替えは、俺たちが見張るわけにはいかないし。


「オイラも許可しましたよ。というか、オイラなんかにも許可をもらいに来たことが嬉しかったです」


「おいおい、お前だって白き風のメンバーなんだからな?しかも、先輩になるかもしれない」


「が、頑張ります……!」


「そのあと、登録に行くって言ってたぜ。ただ、俺が最低限のルールを教えておいた。団長はもうすぐ七級に上がるから、十級ではパーティーは組めないと」


「ん? 俺、もう上がるのか?」


「俺の感覚ではな。戦争でのポイントも付いているだろう。あと、二つくらい受ければ上がるはずだ。ちなみに、俺は保留にしてある。まずはイージスのランクを上げなくてな」


「す、すみません……」


「なに、気にすることはないさ。なっ、アロイス?」


「ああ、もちろんだ。その分、あとで働いてくれれば良い」


「はいっ!」


「さて……じゃあ、早速受けに行くか」



 その後俺たちは、冒険者ギルドに入り依頼書を眺める。


「イージスが九級だから、八級の依頼……ゴブリンやコボルト退治と、薬草集めにしておくか」


「よし、さっさとやっちまおうぜ」


 すぐに受理され、俺たちは都市を出発する。



 そして……ゴブリンとコボルト達の縄張り争いに遭遇する。


 そこに乱入をして、始末していく。


「イージス!」


「ガルル!」


「はいっ!」


 槍のひと突きが、コボルトを貫く。


「オラァ!」


「グギャ!?」


 斧により一撃が、ゴブリンを両断する。


「うん、俺が何もしなくても安心して見ていられるな」


 これに遊撃のシノブという女性が加われば……。

 俺は指示出しや回復に専念して、時に前線にも出るという戦法がとれる。



 結局二人だけで、敵を殲滅してしまう。


「お疲れさん……ヒール」


「おっ、助かるぜ」


「あ、ありがとうございます。で、でも、大した怪我じゃないですよ?」


「擦り傷程度だが、バカにしてはいけないからな。そこから傷が炎症することもある」


「……そうなんですね、気をつけます」


「ああ、それで良い。俺と一緒に、少しずつ学んでいこう」


「さて……むっ? 団長、血に惹かれてやってきましたぜ?」


「あれは……二体のオークか」


 七級クラスの魔物で、豚の顔に人の身体という気味の悪い魔物だ。

 ゴブリンと同じ習性を持ち、オスしかいない。

 まさしく、全ての女性の敵というわけだ。


「ど、どうします!?お、オイラのランクじゃ……」


「ランク自体は上だが、問題あるまい。イージス、お前が一体を倒すんだ」


「えぇ!? む、無理ですよ!?」


「いや、本来の実力が出せれば倒せるはずだ。俺が信じられないか?」


「オイラじゃなくて……団長を信じる……や、やってみます!」


「ああ、では準備をしておいてくれ。アロイス、俺がやる。イージスのフォローを任せていいな?」


「ああ、任せておけ」


「俺も初めてだな——さあ、やるか」


 強化をせずに、そのままの状態で走り出す。


 イージスも、後ろから追ってくる。


 走りながら、叔父上の言葉を思い出す……。



「いいか、ユウマ。お前の魔力総量は高いし、強化も上手い。だが、それに頼りすぎている節があるな」


「はい……どうしても膂力が足りずに、魔力強化に頼ってしまうことは多々あります」


「おそらく、お前の剣技が伸び悩んでいるのはそれが原因だ」


「え?」


「回復魔法は一流と言っていいだろう。だが、剣は二流だ。なぜなら、剣の威力を魔力で補っているからだ」


「はい……」


「お前が魔力を持っていない場合は足から腰へ、腰から腕へと力を連動させて体全体で振るう剣技のはずだ」


「なるほど……」


「だから、魔力強化は控えろ。危険な時以外は、自分の剣技のみを使用することだな」


「わかりました! 師匠!」


「よせよ、照れるぜ……それに大会に出ても、準決勝に進出がいいところだろうな」


「大会では魔力が使えないからですね?」


「ああ、そうだ。お前が箔をつけたいなら最低でも大会準優勝は必要だ。わかったなら、一からやり直すといい」




 ええ、わかっています。


「フゴォー!」


 オークの槍による一撃を寸前で躱し——懐に入る。


「回転剣舞」


 足と腰を連動させ、体全体を駒のように回す!

 そして下から斜め上に斬りあげる!


「ブィー!? フゴォ!」


 腹から血を流しつつも、奴が反撃をしてくる。


「チッ! 仕留めきれないか!」


 七級の魔物とはいえ、やはり単純な力が足りない。


「フガァァ!」


 だが、これで引き剥がしには成功したな。

 そのまま引きつけて、イージスと距離を取る。


「こっちだ!」


「フゴォ!」


「シッ!」


 槍と剣が交差する。


「俺が力負けするよな……だが」


「フガァァ!」


 力が足りないなら、魔力を使えないなら——相手の力を使えばいい!

 相手の突進攻撃に合わせ——剣を放つ。


「回転剣舞」


「グガ………ガ……」


 先ほどの箇所に、もう一度同じ剣技を叩きつけた。


「よし……魔力なしでも何とかなったな」


 さて、イージスの方に行くとしよう。


 俺が近づいていくと……佳境を迎えたようだ。


「セァ!」


「フゴォ!」


 俺とは違い、真っ向勝負となっている。

 槍と槍がぶつかり合い、双方退かずの状態だ。


「アロイス、どうだ?」


「悪くないぜ。一歩も下がっていないし、きちんと攻撃もしている」


「成長したな……いや、違うか。今まで積み重ねてきたものが、ここに来て開花してきたんだろうな」


「全く……団長が言い出した時は、何を血迷ったかと思ったが。こいつは、中々の拾いもんかもしれないぜ」


「ああ……おっ、決着がつくな」


「フガァ……フゴォ……」


「ハァ……ハァ……」


「フゴォ!」


「ハァ!」


 双方槍を繰り出すが……一瞬早くイージスの槍が、敵を貫いていた。


「ブガ……」


 大きい音を立てて、オークが倒れる。


「で、できた? お、オイラにもできた!」


「よくやった! イージス! これで、もう誰もお前を役立たずとは呼べまい! いや、俺が言わせない!」


「団長……はいっ! この力で、あなたの役に立ってみせます!」


 これは、俺もうかうかしていられない。


 イージスに負けないように、純粋な剣技を磨いていかないとな。

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