18話シノブという女性

 ……いくら訓練場とはいえ……。


 声をかけられるまで気づかないとは……。


 この女性は——何者だ?


「良いですねー。咄嗟に戦闘体勢に入りましたね?」


 俺は剣の柄に手をかけている。


「「団長!」」


「動くな! こいつ……強い」


 暗殺者の類か……?

 まさか……親父や兄貴が?


「へぇー……先ほどの男気溢れる啖呵……相手を見抜く目……隙のない構え……私の気配に気づかなかったのは仕方ないとして……」


「……何が目的だ?」


「そうですね——死んでもらいます」


 奴が剣を抜く……アレは刀という特殊な武器。

 暗殺者などが好んで使う得物だ。

 そうか……やはり、刺客の類か。


「二人は下がってろ! こいつの狙いは俺だ!」


 視線を外さずに、魔力を脚に送り込む。


「しかし!」


「お、オイラ達も!」


「こいつのタイプは俺と似ている! 二人ではスピードについてこれない!」


「ふふ、そこまで見抜きますかー……安心してください——狙いは貴方だけなので」


「なら安心だ——来い」


「ええ——まいります」


 次の瞬間——視界から消える!


「っ——!?」


「おや? やりますねー」


「いつの間に……」


 消えたと思ったら、横から攻撃された……。


「反射神経も悪くないと……つぎは……」


 今度は真っ直ぐに突っ込んでくる。

 なんだ?こいつの狙いは?

 俺を試している?


 剣と刀が交差する。


「受けるのも上手い……」


「さっきから何を言っている? 答えろ!」


 意識を切り替えて、攻撃に転じる。

 こいつの狙いをはっきりさせなくては!

 そのためには、手と脚に魔力を分散!


「むぅ……一撃が重い……パワーが上がった? 私より上ですかー」


「おい? いい加減にしろ。さっきから思っていたが……死んでもらいますと言う割には殺気を感じないのだが?」


 攻撃を弾き、奴が大きく下がる。


「バレましたか〜……では最後に。貴方の技を見せてもらいますよー。ではいきますねー?……天草流抜刀術——疾風迅雷」


 奴が一瞬で俺に間合いを詰め、俺の目前で刀を抜く!


「ミストル流剣術——閃光乱舞」


 奴の怒涛の連続斬りに、俺の最速剣技を合わせる!


「だ、団長と互角だと……?」


「速すぎて……目で追えない」


 そして……攻撃が止む。


「全部受けとめられた……初めて……」


 何やら、呆然としている……。


「そっちこそ、俺の技を受けきりやがって……で、何が目的だ? 俺を殺すことではないだろう?」


「えへへー、そうなんですよ〜。私、天草忍っていいます。実はですねー……私と子作りしませんか?」


「…………はい?」


「ヒュー!」


「わわっ!?」


「貴方の子種が欲しいんですよー。だから——私と寝てください」


「はぁ!?」


「わっ!? あぁーびっくりしたー。もう、驚かさないでくださいよ!」


「こっちのセリフだっ!」


「それで、どうですかー? 自分で言うのもなんですけど——いい身体をしていると思うんですよー?」


 そういうと身体を密着してくる。

 懐に入られるまで気づかないとは……すごい技術だ。

 というか……柔らかいし、良い匂いがする。


「い、いや、しかしだな……」


 顔も可愛いし、黒髪黒眼は目を惹くし……俺の好きなポニーテールだし。

 惹かれないといえば嘘になるが……。


「あれれー? ウブな反応ですねー? イケメンさんなので、経験豊富かと思いましたけど」


「悪かったな、ウブで。経験なんぞは一切ない」


 自慢じゃないが、女性にモテた経験などない

 何故か、チラチラと見られはするが……。

 あと、男にはナンパされるが……嬉しくない!


「へぇー、意外です。でも、はっきりというのは男前さんですねー。安心してください、私も初めてなので」


「痴女じゃなかったのか……?」


 てっきり、その類かと……。


「むぅ〜ヒドイですっ!」


「そうだな……悪かった」


「ポイントアップですっ!」


「はい?」


「悪いと思っても謝れない人は多いのでー。それで、どうですか?」


「悪いが——断る」


「え……? い、いや、自分で言うのもアレですけど……」


「わかっている、君が魅力的な女性だということは」


 俺だって年頃の男だ、興味がないわけがない。

 スタイルも良くて可愛らしい容姿の子なら尚更のことだ。

 しかし、俺は女性と付き合うわけにはいかない。


「むぅ……ストレートですね……」


「すまないが、そういうことだ。諦めてくれ」


「イヤですっ!」


「はい?」


「やっと見つけたのに……ピンとくる人を……」


 何やら、思いつめた様子だ……。


「そもそも、どうして子種が欲しいんだ?」


「そ、それはですねー……」


「ファイアーボール!」


「ひゃあ!?」


「うおっ!?」


 咄嗟に離れ、その魔法を避ける。


「ユウマから離れなさい! この破廉恥娘!」


「ほ、ホムラ……?」


「むぅ……失礼ですねっ! 私は未経験ですよっ!」


「だ、男性にそんなにくっつく時点で破廉恥ですわ!」


 よくわからないが……これはチャンスだ。

 俺はアロイスとイージスに目配せをする。

 すると、二人は頷いている。


「そもそも、なんですかー? あっ——ユウマさんの彼女さんですか?」


「ワ、ワタクシが……? ち、違いますわ!」


「なら、邪魔をしないでください。私は子種をもらわないと……」


「なっ——は、破廉恥! ユウマ! こんな娘より……ユウマ?」




 その間に、俺はその場を離れていた。


「団長、モテモテですな?」


「すごいアプローチの仕方でしたね……」


「おい、勘弁してくれよ……」


 逃げたのは申し訳ないと思うが……。


 俺にだって譲れない事情がある。


 そりゃ……少し惜しいことをしたとは思うけどな。

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