幕間~とある貴族の話~

 ……ようやく、目障りなのがいなくなったか。


 優秀な次男など邪魔以外の何者でもない。


「父上!」


「バルス、これでお前が名実共に後継者だ」


 家臣の反対はあるが、奴はもう出て行ったからな。


「はいっ! まったく次男のくせに家臣に取り入ったり、優しく接したりしてせこい奴でしたよ」


「そうだな、当主とは家臣を使う側の人間だ。そこに優しさなどいらない。舐められてはいけない、それが相手をつけあがらせる」


「おっしゃる通りですね。私も見習って厳しくいこうと思います」


「ああ、そうするといい。お前は俺に似ているしな、奴とは違って」


「ええ、俺は父上に従います。それで結婚ですが……」


「ああ、準男爵の一人娘に決まった」


「準男爵の一人娘ですか……」


「なんだ?もっと上の爵位が良かったか?」


「い、いえ、てっきり対等の男爵かと思っていたので……」


「そうすると力関係が難しくなるぞ?どっちが上か明確な方が上手くいくと思うが……」


「これは失礼しました。そこまでお考えのことでしたか。確かに父上のおっしゃる通りですね」


 それに……バルスの力では扱いきれまい。

 俺に似て何もかもが平凡な男だからな。


「わかったならいい」


「それでは、失礼します」


 バルスが部屋を出て行った後……俺は執務室の机で考え込む。


「俺は正しい。優秀な次男などお家騒動の元だ。決してシグルドに嫉妬したり、ユウマに嫉妬しているわけではない」


 ……誰に言い訳をしている?

 ……俺は間違っていない。

 誰が何と言おうとも……。


「貴方、よろしいですか?」


 エリスか……ユウマのことだろうな。


「ああ、入るといい」


「失礼します。それで、私に断りなく追放とはどういうことですか?」


 相変わらず気が強い……そこに惹かれたが……今はただ憎い。

 聖女と言われたお前は、平凡な俺には不釣り合いだ。

 お前を見るたびに——俺は惨めになる。


「何故、お前の許可がいる? 当主である俺の勝手だ」


「私の息子ですっ!」


「それは本当か?」


「……どういう意味ですか?」


「奴は——ほんとに俺の子か? 俺と似ても似つかぬ姿、その剣の才能……」


「私の不貞を疑っているのですか?」


「……シグルドとの子供なんじゃないのか?」


 シグルドはこいつに懐いていた。

 こいつもシグルドを可愛がっていたしな。


「なっ——!? あ、あんまりです……」


「では、何故シグルドに会っていた?俺が知らないとでも?」


「そ、それは……」


「もういい、さっさと消えろ」


「……もう、私の言葉は届かないのですね……」


 そう言い残し、エリスは出て行った……。


「俺は……」


 ……後悔しても遅い。


 俺は既に……政治の世界に触れ——腐っている。


 もはや——誰の言うことも信じることができない……。


 

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