一章

第8話再びの出会い

 アロイスとパーティー組んでから一月が経った。


 その間は実家に様子を見に行ったり、叔父上と稽古をしたり……。


 アロイスと共に、依頼を受けて日々を過ごしていた。


 ちなみに、1日に依頼を受けられる数は決まっているらしい。


 なので、まだランクは上がっていない状態だ。




 特に変わったことといえば……。


 伸び悩んていた剣技が、叔父上の稽古の効果なのか、少しずつ伸びていること。


 限界だと思っていた魔力の総量が、少しずつ上がっていること。


ただ、明確な理由はわかっていない。


 なにより……俺の、アロイスに対する口調だな。


 最近になってようやく慣れてきた。


「アロイス、次はどうする?」


「そうだな……そろそろ、コボルトや薬草集め以外を受けてみるか」


「おっ、やっとか」


 アロイスが、この1ヶ月は基本的な依頼しか許可しなかった。

 その訳はこまめに仕事をして、始めのうちはギルド職員に顔を覚えてもらうこと。

 荷物運びや街の中の依頼をうけて、人々に顔を覚えてもらうこと。

 そして、双方から信頼してもらえるようになることだった。

 それに納得した俺は、この1ヶ月はそのように過ごしていた。


「大分顔が売れてきたからな……お前さんは見た目も良いし腕もある。さらには性格まで良いときたら当然だな」


「見た目は母上に似たからなぁ……剣の腕には自信はあるし。ただ、性格が良いとは思わないぞ?」


 親父や兄貴のことは嫌いだし、死んでも悲しまないと思うし。

 もちろん、死ねとまでは思わないけど……。


「いや、性格良いだろ。人当たりは良いし、依頼以外でも手伝ったりするし……貧困街や孤児院に行ったりしてるし」


 貧困街出身のアロイスには言ってあるが、俺は定期的に孤児院に通っている。

 ただ、それは優しいからじゃない。

 怪我をした孤児やお金がない方のために、教会勤めだった母上が通っていた。

 だが、今は事情があり回復魔法がほとんど使えない。

 なので、息子の俺が代わりに行っているだけだ。


「それは……まあ、色々と理由があるんだよ。ほら、依頼を受けよう」


「それもそうだな……よし、これにするか」


「ゴブリンか……」


 醜い容姿の気持ち悪い魔物だ。

 オスしか生まれず、人間や亜人の女性を孕ませることで繁殖する。

 なので、オークと並んで全女性の敵と言われている。

強さはコボルトと大差ないが、集団で生活するので難易度は上だ。


「経験はあるか?」


「ああ、もちろんだ」


「そういや軍経験があるんだったな。じゃあ、依頼を受けて出発するか」


 アロイスには貴族であることを伝えてある。

 いずれ、元がつくことも含めて。

 アロイスも身の上を話してくれたのでフェアじゃないからな。



 少し距離があるので、馬を走らせて目的地に向かう。


「この先の村で目撃情報があったんだな?」


「ああ、そうだぜ。村人が何人か行方不明だそうだ」


「それなら急がないとな……!」




 無事に村に到着し、村長に話を聞くと……。


「1週間前くらいから目撃がありまして……その辺りから何人かが行方不明になりまして……」


「わかりました、お任せください。では……」


 詳しい場所を聞いた俺たちは出発しようとしたが……。


「あの! 他の冒険者達が先に来て……まだ、帰ってきていないのです」


「なに? どんな奴らだった?」


「確か、女性が二人と男性が三人だったと思います」


「そうですか……わかりました。では、行ってきます」





 その後村を出て、街道を少し外れた森に到着する。


「この辺か?」


「ああ、目撃情報と一致するぜ」


 すると……発見した!


「いるな……よし、馬を置いていこう。小回りがきかないし」


 近くには同じように馬が繋がれている。

 おそらく、他の冒険者だろう。


「おう、それがいい」


 訓練された馬なので、ゴブリンくらいなら問題ないだろう。


「よし……アロイス! 行くぞ!」


「おうよ! 団長!」


「なあ……それってどうにかならない?」


「白き風のリーダーはお前さんだ。そして、俺はそれを認めた。ならば団長だろ?」


 この間から、急に呼ばれるようになった。

 男として認めたから問題ないとかって……よくわからないが。


「ハァ……まあ、良いか」


 そのまま走り、すれ違い様に——鞘から抜く!


「ギャア!?」


 俺の抜刀により、一撃で地に伏せる。


「オラァ!」


「ギャキャァ!?」


 アロイスは、両手持ちの斧によりゴブリンを両断する。


「相変わらずの一撃だな!?」


「団長こそ!」


 二人でゴブリンを始末しつつ、進んでいると……。


「た、助けてくれぇ——!」


「ヒィ——!」


 二人の男がこちらに向かってくる。

 おそらく、格好からして冒険者だろう。


「アロイス!」


「おうよ!」


 二人で、彼らを追っていたゴブリンを始末する。


「た、助かった……」


「し、死ぬかと……」


「おい、他の奴らは?」


「確か女性二人と、もう一人男性がいたはずですね?」


「そ、それは……」


「い、いいだろ! そんなこと!」


「お前ら……見捨てたな?」


「なに?」


「し、仕方ないんだ! 数が多くて! 一人が捕まって……!」


「チッ! すでに巣を作っていたか……!」


ゴブリンの繁殖力は半端ない。

弱い魔物だが、数の暴力は侮れない。


「アロイス、こいつらはもういい。今すぐ行けば間に合うかもしれない」


「ああ、そうだな。お前達……冒険者のルールは知ってるな? 覚悟しておけ」


 パーティーを組んだ冒険者を見捨てることは犯罪に値する。

 でないと、そういった奴らが増えるからだ。


「く、くそっ!」


「チクショー!」


 俺たちは其奴らを放置して、森の奥へと進んでいく。




ゴブリンを始末しつつ、そのまま走り続けると……。


「ギャキャ!」


「ゲゲェー!」


「私は誇り高き一族のホムラ! ケダモノ達! ワタクシに触れられると思わないことですわ!」


 女性を背にしつつ、杖を構えて古今奮闘する女性がいた。

 そして、その近くには男性が倒れている。

 間違いなく……死んでいる。


「アロイス! お前は群れに突っ込んでくれ!」


「おう!」


「閃光乱舞!」


 俺は女性の前に立ち、目にも止まらぬスピードで連続斬りを食らわせる。


「旋風刃!」


 アロイスは斧を振り回して、ゴブリンをスクラップする。


「あ、貴方達は……!?」


「同じ依頼を受けた冒険者だ! 今は協力して倒す! いいな!?」


「ワ、ワタクシに指図しないでくださいませ! ですが——良いでしょう! 一緒に戦うことを許可いたしますわ!」


「なんというか……うん、まあいいや」


 とりあえず仲間を見捨ててないし、悪い奴ではなさそうだし。


 俺は意識を集中し、ゴブリンの大群と向き合うのだった。

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