第9話対ゴブリン戦

 剣を一閃し、ゴブリンを斬り伏せる!


「ゲキャ!」


「ギャキャ!」


 迫り来る敵を始末しつつ、辺りを見渡してみる。


「なるほど……数が多いな。それに……あれは上位種か?」


 何十匹といるゴブリンの奥の方に、三体だけ大きい個体がいる。


「ええ、そうですわ。ゴブリンソルジャーですわね。ランクは八級は必要とのこと」


「そうか……君は魔法使いと思っていいのか?」


 黒い帽子に、黒いローブを着ているし……。


「ええ、もちろんですわ。火と風を扱うことができる優秀な魔法使いですわ!」


「はい? 自分で言うの?」


「貴方は? 見たところ、ただの剣士ですが?」


「回復魔法使い兼剣士ってとこだな」


「……聞いたこともないですわ、そんなの。そもそも、男なのに回復魔法が使えるだなんて……」


「まあ、珍しいだろうな。俺も自分以外には知らないな」


 どうやら俺は特殊な体質らしい。

 基本的に回復魔法は使い手が希少な上に、男が使えるときたものだからな。


「で、あの方は……山賊ですか?」


「おい? それ本人に言うなよ?」


「が、我慢しますわ……! それで、あの方は前衛ですか?」


「ああ、完全な前衛タイプだ。よし、役割を変えよう」


「ちょっと? 勝手に決めないでくださいませんこと? 高貴なワタクシがリーダーになるべきですわ!」


「えぇー……いや、別に良いけど。どんな案が?」


「ワタクシが魔法をドカンとするので、時間を稼ぎなさい!」


「……一応、確認するが……撃った後はどうなる? 外したら?」


「もちろん——倒れますわ! ……ワタクシが!」


「ワタクシが……じゃねぇ——!」


 叫ぶついでに敵を斬る。


「な、何ですの!?」


「バカか! そんな一か八かに任せてたまるか!」


「バ、バ、バカ……? このワタクシが……?」


「おーい! コントしてないで早くしてくれ! こっちだって限界だ!」


 アロイスが敵に囲まれている。

 さすがのアロイスでも、数が多すぎるか。


「もういい! おい! 何か適当な魔法をあそこに撃て!」


「て、適当……!」


「こんなところで死にたくはないだろ!? それどころか……苗床にされるぞ!?」


「うぅー……それはイヤですわ! 仕方ありませんわね! 我が敵を燃やせ! ファイアーボール!」


 大きな火の玉が飛んでいき、俺とアロイスの間に着弾する。


「ゲゲェ——!?」


「ギャア——!?」


 皮膚が燃えたゴブリン達がもがき苦しんでいる。

 ほう……下級だが、威力が高いな。

 大きな口を叩くだけはあるってことか。


「アロイス! こっちに来い!」


「おうよ!」


 アロイスが来ると同時に、俺が前に出る。


「アロイス! そのワガママ娘を頼んだぞ?」


「おう!」


「ちょっと!? 誰がワガママ娘ですの!?」


 俺はそれを無視して、敵に突っ込んでいく。

 手足に魔力を配分、剣先に最小限の魔力をまとう。

 その状態で舞うように剣を振るっていく……!


「……え?……すごいですわ……」


「だろ?団長の剣技……いや、剣舞は」


「敵が触れられないでいるわ……」


「団長は回復魔法の使い手だ。つまり、自分が傷を負えば誰が仲間の回復する?」


「傷を負わないように、あのような戦い方を……」


「おい! ワガママ娘!」


「さっきから何ですの!? ワタクシはホムラですわ!」


「ホムラ! 右側に一発撃ち込め!」


「もう〜! 良いですわよ! 風よ切り裂け! ウインドカッター!」


 右側のゴブリン達の手足が千切れ飛ぶ。


「ギャア—!?」


「ゲキャ!?」


「よし! ナイスだ! これで……!」


 混乱しているところに斬り込んでいく!


「ワタクシが弱らしたのに!」


「おいおい、いいじゃねえか」


「山賊は黙っててくださいませ!」


「がーん……俺、転職した方がいいか?」


「おい! 言うなって言ったろ!?」


「あっ——だ、大丈夫ですわ! 少しワイルドすぎるだけですわ!」


「アロイス! 俺にはお前が必要だ! これより殲滅する! 取りこぼしを任せるぞ!?」


「へっ! 仕方ねえな! おい、小娘」


「だから——ホムラですわ!」


「ホムラ、俺の後をついてこい」


「全く……野蛮な方々なこと……まあ、いいですわ」


 数が減ってきたので、どんどん前へ進んでいく。

 そして……ようやくたどり着いた。


「ゴァァ!」


「ゴガァ!」


「ゴァ!」


 三体のゴブリンソルジャーとのご対面だ。


「ホムラ、魔力は?」


「おかげさまで、まだ余力はありますわ」


「では、大技を頼むとしよう。時間は?」


「五分ほどあれば……」


「わかった。アロイス、護衛は任せる」


「おうよ!」


「さあ——遊んでやろう」


「ガァァー!」


「フシュー!」


 槍を構えたゴブリンソルジャー達が、俺に襲いかかる。

 それを躱しつつ、斬りつけていく。


「フゴォ!?」


「ゴガァ!?」


「どうした!? 俺はこっちだぞ!」


 怒り狂ったソルジャーは、俺のみを狙ってくる。

 よし……これで時間が稼げるだろう。

戦った感じでは倒せないことはないが、蛮勇はよろしくない。



 そして……。


「いけますわ!」


「団長!」


「わかった!」


 脚に魔力を集中し、思い切り後ろに飛ぶ。


「炎の壁よ! 敵を焼きつくせ! ファイアーウォール!」


 ソルジャー達が炎の壁に包まれる……!


「フガァァァ——!!」


「ゴァァァ——!!」


 叫び苦しみ……灰となる。


「え、えげつねえ……!」


「これは……中々の威力だ」


 とても新人とは思えない威力だ。

 一体、こいつは何者だ?


「オーホッホッホー! 見ましたか! ワタクシのじつ……はぅぅ〜」


「お、おい!?」


 倒れそうになるのを何とか支える。

 ……柔らかい……それにめちゃくちゃ良い匂いする。


「ま、魔力切れですわ……もうダメ……」


 ……どうやら、気を失ったようだ。


 ホントに色々な意味で……何者だろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る