第701話 説明書が必要かもしれない

 ガチャでゲットした数々のアイテム、そして少し前にコテツ商店で購入した大量の家具などを、三人が自分のマジックバッグに収納していく。



「嘘っ!あんな大きなベッドまで入ったわ!」



 さっきまで俺のマジックバッグに入っていたのだから、そりゃ入りますよね。でも先輩風を吹かすと格好悪いので、あまり無粋なことは言わないようにする。



「あははははははは!メチャメチャ楽すぎるよ!」

「こりゃあ本当に便利だ!しかし、犯罪にも使えたりしないか?」


 いいぞ親父、その言葉を待っていた!


「ところがどっこい、マジックバッグって善悪を判断する機能が備わっていてさ、泥棒できないようになってるんだよ」

「善悪を判断するだって!?」

「そこに放置されているチェリンの赤いビキニを、殿専用金色リュックに収納してみるといい」

「ドサクサ紛れに、下着泥棒させようとするんじゃねえ!!」

「下着泥棒じゃないよ!水着泥棒だよ!」

「これは実験なんだから、とにかく赤いビキニを収納してみるべし」

「父親に変な事させんじゃねえ!でもまあ実験ならやってみるか・・・」


 親父が赤いビキニを収納しようとすると、思った通り失敗した。


「あれ?入っていかねえぞ!」

「隣にあるテーブルも試してみ」

「これもダメだ。へーーーーー!マジで凄い仕様だな。他人の所有物は収納することが出来ないようになっているのか!」

「凄いわね!一体どうやって判別しているのかしら?」

「心の奥底に眠る何かを汲み取っているんだと思う。じゃあ次の実験だ!チェリン、そのテーブルを親父に預かってほしいと考えてくれ」

「ん?えーと・・・、お義父さん、そのテーブル預かって」

「親父、テーブルを収納してみ」


 シュッ


「うおっ!今度は入った。いや・・・え?嘘だろ?テーブルの持ち主が『預ける』と意識したことで、その行為が悪じゃなくなったというのか!」

「おそらくそういうことなのだろう。善悪判別機能とか、間違いなく人智を超えたナニカだと思うから、あまり深く考えない方がいいぞ」

「じゃあ人の物を預かる時は、ちゃんと確認を取ればいいってことかしら?」

「そういうことだ」

「凄すぎだよ!えーと、とにかく悪いことに使えないんだよね?」

「冤罪の証明もできるわけだから、安心して使えると考えていいかもな」


 親父がチェリンにテーブルを返した。


「あとな、液体をそのまま入れてもリュックの中身はビチョビチョにならないぞ」

「マジかよ!?」

「ただ取り出す時にその辺をビチョビチョにしてしまうので、オススメはしない」

「収納されている他の物に影響を与えないってことは、すなわち、マジックバッグの中ってのは個別に収納されている感じなのか・・・」

「おそらくな。アイテムの一つ一つが個室に住んでいるような状態なんだと思う。でも狩りをした直後の血でヌルヌル状態の獲物なんかを収納すると、取り出した時に床が悲惨なことになるから注意だ」

「確かにそうなるわね。でも狩った獲物をすぐ収納しても、リュックに入ってる他のアイテムが汚れないってのは素晴らしい情報だわ!」

「そういった仕様の他にも、斬撃耐性・魔法耐性・汚れ耐性・消臭脱臭機能・自動修復機能なんかも付与してあるから、無敵のリュックだと思ってくれ!」

「猫リュックが汚れないなら、カニをいっぱい入れて来るよ!」


 グミはとにかくカニが大好物らしい。


「よし、そろそろ狩りを再開するか」


 親父が金色のリュックを背負った。


「親父、ちょっと後ろを向いてくれ」

「後ろ?」


 大バカ殿様のくせに簡単にリュックを背負ったので確認してみると、着物が引っ掛かることもなくちゃんと背負えていた。


「俺の調整もなかなかのもんだな!」

「何がだよ?」

「大バカ殿様の着物でリュックを背負うのって実はかなりの難易度だろ?袖が引っ掛かったりしないよう調整しておいたんだ」

「そうだったのか!金色ってのは釈然としないが、ありがとうよ!」

「家具とかいっぱい入れたのに、すごく軽いよ!」

「空っぽのリュックを背負ってるだけでいいなんて、本当に楽でいいわね~!」

「ハハッ!存分にマジックバッグの素晴らしさを体感してきてくれ!」



 マジックバッグの説明も終わったので、三人を4階層まで連れて行くと、我先にという勢いでそれぞれが違う通路へと飛び込んで行った。



 そして夕方になり、いつもの時間に呼び出しが掛かったので迎えに行き、三人を連れて部屋に戻って来た。



「大漁だーーーーーーーーーー!!」

「やっと海産物を持ち帰ることが出来たけど、今までこれを全て放棄していたと思うと血の涙を流しそうになるわね」

「わかるぞ!でもあまり獲り過ぎても、腐らせてしまうんじゃないか?」

「あ、そういや一つ説明するの忘れてた。マジックバッグの中って時の流れがとてもゆったりしてるから、カニとかホタテを入れてあってもしばらく腐らんぞ」


「「な、なんですとーーーーーーーーーー!?」」


「ちゃんと調べてないから俺もまだよく分かってないんだけど、消費期限は三ヶ月って感じかな?」

「わあ~~~~~~~~~~!いつでもカニが食べ放題だ!」

「三ヶ月も!?丹波のお城にどういう風に食料を運ぼうか考えていたのだけど、それなら作戦とか全然必要無いじゃない!凄すぎるわ!!」

「消費期限三ヶ月は凄いな・・・。ドラゴンが湧いてたから狩って来たんだが、そういうことならチェリンちゃんが丹波に持って行くといい」

「え、いいの!?ありがとう!本当に嬉しいわ!」

「丸ごとドラゴンは後から解体するのに苦労するから、マジックバッグに入れておくにしても解体はしておいた方がいいぞ」

「確かにドラゴンの解体は大変だな。明日の朝にでも頑張るとするか」

「ドラゴン解体職人でもある俺が直々に指導してやろう」

「お前マジでプロ級だもんな・・・」



 マジックバッグの説明って、意外と話すことがいっぱいあったんだな~。

 渡す人全員に説明しなきゃいけないし、説明書を作った方が良いかもしれん。

 

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