第697話 宇宙刑事サイダー

 

「氷結!」



 ビュン シュバッ!シュバッ!シュバッ!シュバッ!



 虎徹さんが胸の前で腕をクロスさせると、なぜか脳内でその動きが3回リピートされるという、宇宙刑事シリーズではよくある摩訶不思議現象が発生し、青白い光を放った直後、宇宙刑事サイダーへと変身した。



「「おおおおおーーーーー!変身した!!」」



 その瞬間脳内に音楽が流れ始め、『ピー』『ポー』『パー』『ポー』『プー』『ポー』『ピー』という謎の効果音と共に、サイダーの左足、右膝、腰、右の手の甲、左腕、右肩、胸と、ドアップで身体の部位が映し出された。



「宇宙刑事」



 ジャキン! ビューン! ビュオーーーン!



「サイダー!」



 ファンファンファンファンファーーーン!



 決めゼリフと共に、宇宙刑事サイダーの顔がアップになった。

 なんかギャラバーンよりも演出が凝ってない?



『宇宙刑事サイダーは、わずか1ミリ秒で氷結を完了する。ではその原理を説明しよう!』



 そして頭の中にナレーションが流れ込んで来て、そのままムービーへと突入。


 ギャラバーンの時と同様、虎徹さんの変身シーンがスローモーションで流れ始め、プラズマブルーアイスエネルギーとやらが天空から降り注ぎ、その光を浴びた虎徹さんの姿が宇宙刑事サイダーになった。



「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」



(アーーーッヒャッヒャッヒャッヒャ!ぶほっ、ゴフッ!ゲハッ!)

(うわははははははははははははは!なるほど、これを見せたかったのか!!)



「なんでみんな無言なんだ!?せめて感想の一言くらい欲しいんだけど!!」



 宇宙刑事がしゃべったことで、ようやく俺達も現実世界に戻って来られた。



「お、おいコテツ!今のムービーは何だ!?」

「ムービーって、ああ!え?ちょっと待って!本人にはムービー流れないの!?」

「全然意味が分からなかったけど、凄かったわね!!」

「今のはにゃんにゃ!?コテツのくせにメチャクチャ格好良かったにゃ!!」

「うおおおおおおおおおおおお!やっと俺にもムービーが流れたぞ!」

「良かったな親父。変身した本人だけ見ることが出来ないのもどうかと思うけど、テレビの前の子供達に説明してるわけだから、筋は通ってるんだよな」

「テレビっつーか、脳内に直接流れ込んで来たけどな!」


 宇宙刑事に変身すると、視聴者の脳内にだけムービーが流れるシステムらしい。

 自分の変身ムービーこそ一番見たいだろうに、これがヒーローの宿命なのか。


「みんなずりーぞ!オレだけムービーが見られないって酷くね!?」

「気持ちは非常によく分かるぞ!変身した本人の方が、しっかりとポーズを決めることが出来ていたか気になるというのに・・・」

「いや、ポーズは完璧なハズだから、ただ単に格好良いムービーが見たいんだ!」

「・・・そうか、俺と違って生粋の宇宙刑事ファンだものな」

「クソガーーーーー!もうこうなったら、ギャラバーン先輩のムービーを見て我慢するしかないか。先輩頼む!常着してくれ!!」

「はあ!?ちょっと待て。俺を巻き込むんじゃねえ!」


 この流れ的に、親父が変身を求められないわけないよな。


「親父、諦めろ。もう完璧に宇宙刑事に変身する流れだ」

「やっぱり変身するしかないんじゃないかしら?」

「ファンの子がいっぱい集まってるんだから、やるしかないよ!」

「いや、ファンではない」

「だから俺達はただの見届け人だと言っている!」

「でも今の変身がもう一度見られるのよね?」

「そっちの変身も見たいにゃ!」

「くっ!こんな大勢の前で宇宙刑事に変身しろというのか!?」



 と言いつつも観念したようで、常着する為にサイダーと場所を代わった。



「常着!」



 シュッ シュッ シュパッ!



 なぜ俺が・・・という顔をしていた親父だったが、相変わらずキレッキレの動きで変身ポーズを決め、いつものようにムービーが流れ始めた。



「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」



「俺もムービーを見たから納得はしたが、このスベった感はかなりキツイぞ!」



 これも毎度のことだが、宇宙刑事のボヤキで現実世界に戻って来た。



「今回は普通の主題歌の方が流れたな」

「最初見た時に流れた歌だったよ!」

「これって変身する度に毎回見させられるのかしら?」


 俺達は見るのが3回目なのもあってこんな感想だったが、三河組は盛り上がった。


「初代のムービーは見たことあるかもしれん!何だか懐かしかったぞ!」

「やっぱカッケーーーーー!でも何でサイダーのムービー見れねーんだよ!?」

「こっちも凄かったわね~」

「メチャメチャ格好良かったにゃ!!」



 虎徹さんが親父の方へ歩いて行き、宇宙刑事二人がハイタッチを交わした。

 中の人がどっちも知り合いなのはともかく、かなりレアな光景と言えるだろう。



「やっぱ宇宙刑事は最高っスね、先輩!」

「まあ、仲間が出来たことは嬉しく思う。しかし二代目がいねえな?」

「そうだ!シャアリバーンはどこだ!?」


 宇宙刑事二人がこっちを見た。


「こっち見んな」

「そういや小烏丸、お前ちょっとシャアリバーンに似てるな?」

「いや、似てるのは赤い流星の方であって、俺が似てるわけじゃないので!」

「でも初代と三代目が出現してしまったからには、もう二代目がいつ現れてもおかしくない状況と言えるだろう」

「くッ!いやいやいやいや、俺が二代目になるとは決まってませんぞ!なんせ女性服しか引けない呪いが掛かってますからね!」

「どうだかな。呪い如きでガチャの流れは止められんぞ?」


 清光さんめ、もう俺が二代目を襲名すると思ってやがるな!?


「そういう清光さんも二代目になれるチャンスでは?」

「なにッ!?俺はイロモノになるつもりなど無い!」

「なんせ宇宙刑事の大ファンがすぐ側にいるじゃないですか。俺も相当危ない位置にはいますけど、清光さんも崖っぷちにいると思うであります!」

「オイやめろ!俺には女性服の呪いとか掛かってねえんだぞ!!」


 フルフェイス姿だから表情は見えないけど、あの宇宙刑事ども、絶対こっち見ながらニヤニヤしてるだろ!


「そうなったら最高じゃん!アニキも宇宙刑事になろうぜ!!」

「死なば諸共だ。どっちでもいいから、早く二代目を襲名しろ!」


「イロモノはお断りだって言ってるだろ!」

「俺だって嫌ですよ!すでに赤い流星でお腹いっぱいなんですって!」



 男性+日本人補正もあるだろうから、宇宙刑事シャアリバーンになるとしたら、おそらく俺か清光さんの二択。


 このチキンレースを制するのはどっちだ!?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る