第696話 魂の10連

 虎徹さんの雄姿を見届ける為、三河勢四人と一緒にガチャ部屋に入った。

 囚人服のような質素な服を着た虎徹さんが、デラックスガチャの前に立つ。



「満身創痍って感じに見えますけど、そんなんで力が出るんですか?」

「深夜0時まで聖水を飲むことを禁止されてんだ。身から出た錆だししゃーない。でも肉体的ダメージなんかガチャには関係ねえ!魂を燃やせば勝てる!!」

「その通り。お前に足りなかったのは気迫だ。だが欲に飲まれるな!心は熱く、頭は冷静に。あとは運の波を見極め、上死点に達した瞬間レバーを回すだけだ!」



 運の波って何だよ!?

 それと上死点ってのはピストンの位置を示す用語だよな?


 清光さんって、独特な思考でガチャに挑んでたんだな・・・。

 さすがは元暴走族総長だけのことはある。


 俺がこの世界に降り立つ数年前からガチャを回してる二人だからな。

 おそらく俺がまだ到達していない、ガチャの神髄を垣間見たことがあるのだろう。


 運の波、そして上死点か・・・。


 この戦いは、今後のガチャ生活に多大な影響を及ぼすことになるやもしれん。

 虎徹さんの一挙一動を見逃すな!



 ガチャコン! キュピピピン!



「!?」



 なにィ!いつの間に回したんだ!?しかも一発目から金カプセルだと!?


 虎徹さんの本気って、俺が知覚できる次元じゃねえぞ!!

 これが魂を燃やすということなのか・・・。



「くそッ、ハズレか!」



 カプセルから出てきたのは、白いタキシードだった。

 虎徹さんが簡単に男性服を出したことに、血の涙を流しそうになった。




 ガチャコン! キュピン!



 2回目は銀カプセル。

 3回目は赤カプセル。

 4回目は銀カプセル。


 一進一退の攻防が続く。



 5回目も銀カプセルだった。

 なぜか今度は虎徹さんの動きがしっかりと見えた。


 原因は不明だが、ガチャの呼吸と同期したような感覚があったな。

 もしかすると、この呼吸っぽいナニカが運の波なのか?


 6回目は赤カプセルだったが、何となく清光さんの言ってた『上死点』ってヤツを感じ取れたかもしれない。少しだけズレていたような気がしたのだ。



 そして7回目。



 ガチャコン! キュピピピン!



「「おお!!」」



 清光さんと声がかぶった。


 声をあげた理由は金カプセルの音だったからじゃなく、『上死点』を完璧に捉えたように思えたからだ。



「コテツ!カードには何と!?」


「【服】だ!」




 ―――――次の瞬間、虎徹さんの手の平の上にメカメカしい衣装が出現していた。




「・・・キ、キキ、キキキキ、キタアアアアアーーーーーーーーーーーーー!!」



「「出たああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」



 うおおおおおおおおお!この人マジで宇宙刑事の衣装を当てやがった!!


 ただ親父の衣装と違い、虎徹さんが持っているのはメカメカしくはあるけど青い衣装だ。すなわち、三代目である『宇宙刑事サイダー』の衣装ということになる。



 歓喜の咆哮をあげた虎徹さんだったが、今は滝のような涙を流していた。



「うおおおおおおおおおお!!マジで出てくれるとは・・・」

「最後のガチャは完璧に上死点を捉えていた。もう分かっただろ?ガチャってのは気合なんだよ!」

「その上死点ってヤツ、俺にも見えたかもしれません」

「ほう、やるじゃねえか!アレはよっぽど集中していないと感じることすらできん領域だぜ?ただ今回は特別だと思っておけ。コテツが魂を込めたガチャをやった結果、周りにいた者もゾーンに引き込まれたってだけに過ぎん」

「虎徹さんの気迫に引き込まれたと!?ガチャって奥が深すぎでしょ!!」



 今度はゾーンとか言い始めたし!


 俺と清光さん以外の人は『何言ってんだコイツら?』って顔をしているので、本気のガチャを何度も繰り返さなければ辿り着けない領域なのかもしれん。


 この二人ほどではないが、俺も遥かなるガチャロードの高みへと一歩進んだかな?



「その色って確か三代目だよな?」

「アニキ知ってるのか!?これは『宇宙刑事サイダー』の衣装だぞ!」

「普通に喜んでるってことは、別に初代じゃなくても良かったってことか」

「誰が一番とかは無いぞ!三人ともカッケーじゃん!!」

「それならいい。おめでとう。良かったな!」

「サンキュー、アニキ!」

「で、着替えてみないのか?」

「着替えるっていうか『氷結』な!・・・あ、ちょっと待って。まずは鑑定だ!」



 そういえば、サイダーが変身する時って『氷結』って叫ぶんだったな。

 青いビームが空から降ってきて変身してた気がするし、氷っぽい何かなのかも。



「つえーーーーー!・・・お?所有者登録機能が付いてるぞ。そうか!二度目の変身からは、衣装を宇宙船から呼び出す感じなんだきっと!」



 ああ、そういや『宇宙刑事の衣装がどっかいっちまった』って親父が言ってた。でも変身は出来るのだ!マジで意味不明な衣装だよな・・・。


 虎徹さんが衣装に血液を染み込ませ、所有者登録を完了させた。



「よっしゃーーー、準備完了!あとは、例の言葉を叫ぶだけだな!」

「ちょっと待った!叫ぶだけじゃ変身はできんぞ?」

「わかってますって先輩!変身ポーズも三代目まで完璧にマスターしてるし!」

「せ、先輩だと!?しかし変身ポーズを三代目まで全て覚えているとは、マジで大ファンなんだな・・・」


 自分も宇宙刑事になったことで、尊敬するヒーローじゃなく先輩になったらしい。


「今日はファンの子が多いから、ココじゃちょっと狭いな」


「いや、別にファンとかそういうのじゃないです」

「俺達はただの見届け人だ!!」



 虎徹さんが、ガチャ部屋の少し奥の方に移動した。



「なんかすげー緊張するな!じゃあいくぜ、氷結!」



 ビュン シュバッ!シュバッ!シュバッ!シュバッ!



 虎徹さんが胸の前で腕をクロスさせると、なぜか脳内でその動きが3回リピートされた。


 そして青白い光を放った直後、彼は宇宙刑事サイダーへと変身していた。




 ◇




 我ながら安直なネーミングだな~と思いましたが、やはりサイダーかな?と。


 youtubeで『宇宙刑事シャイ〇ー 番宣』と検索すると出てくる動画の最後に、

 3月2日よる7:30スタートと書いてあって運命を感じました!(笑)

 

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