第695話 どうやら袋叩きにされたもよう

 昨日と同じ体勢でピクリとも動かない虎徹さんを見て、彼の敗北を確信した。



「虎徹くんの死体発見!」

「短い人生だったわね」

「無茶しやがって・・・」

「いや、朽ち果ててはいるけど生きてると思うぞ」



 空きスペースがそこにしかないので、朽ち果てている虎徹さんを取り囲んだ。

 体の周りにチョークで線を引きたくなるな。



「オレはもうダメだ・・・」



 なんか昨日も聞いたな、このセリフ。



「あ、しゃべったよ!でも人生に疲れ果てているみたい」

「この感じだと出なかったんでしょうね」

「コテツ商店はオープンするんだよな?」

「瀕死だろうと店を開かなきゃ清光さんや軍の皆に100%タコ殴りにされるだろうから、商品を買ってあげることが俺達に出来る最後の情けだ。というか供養だ」

「じゃあ開店したってことでいい?」

「いいんじゃないか?購入代金の魔石は虎徹くんの周りに置いておこう」

「さあ、お宝を発掘するわよ~~~~~!」

「オーーーーーーーーーー!!」



 手前の方からどんどん減らしていかないと真のお宝に巡り合えないことが昨日の買い物で判明したので、俺も最初から動いて積極的に購入し始めた。


 家具なんかは三人共狙っているので、あれこれ相談しながら誰が購入するかを決めてるんだけど、最後まで良い物が見つからなかった時は、そこまで拘りなく買い漁る予定の俺から後程購入するってことになった。


 俺は今ココにいない仲間達の為に買ってるだけだから、この三人の余り物で全然問題ないのだ。


 チェリンは丹波の城で使いたい物を選んでいるので、昨日よりも妥協した感じでどんどん購入し、結局昨日の倍となる40点ほどまで膨れ上がってしまっていた。


 グミと親父もコテツ商店が今夜限りで閉店するのを知っているので、何だかんだとそれぞれが20点ほど購入。


 俺も『閉店セール』という謳い文句にやられて、昨日よりも多い200点ほど購入してしまい、合計で魔石が2800個という手痛い出費をしてしまった。


 おかげで手持ちの魔石がスッカスカですよ。

 まあいずれ返ってくる予定だから、虎徹さんと違って焦る必要は無いんだけど。



「ちょー売れた!レメシス城からパクってきた魔石を全部返せるぞ!」

「良かったですね。魔石が消えていることに清光さんが気付いてなければ、袋叩きにされないで済むかも?」

「よゆーだって言ったろ!さて、腹も減ったしそろそろ帰るか」

「そうですね。今日も全員帰る予定です。というかもうずっとこのパターンになるかな?4階層で狩りをした方が効率いいですから」

「わかる。飽きるけどな!」

「私はもう4階層だけでいいよ!あそこなら全然怖くないもん」

「そうね~。魔石もいっぱい入手出来るから、しばらく4階層に籠る感じかしら」

「とりあえず借金だけでも返さんとな」



 そして俺達は流星城に帰還し、虎徹さんは『メシの前に魔石を返してくる!』とレメシス城へ転移して行った。






 ************************************************************






 一夜明け、アリアダンジョンに行く為に親父達と一緒に虎徹さんが迎えに来るのを待っていると、どういうわけか迎えに来たのは虎徹さんだけじゃなかった。



「うわ!清光さんとシルヴァラさんとニーニャさんじゃないですか!ナニコレ?どういうこと??」



 ニーニャさんが虎徹さんの首根っこを掴んで持ち上げた。

 虎徹さんの顔は腫れあがり、見るも無残な姿に変わり果てていた。



「このバカは粛清されたにゃ」

「本当に、とんでもないことをしでかしてくれたわね!」

「まさか城から全ての魔石を持ち出してガチャにぶっ込むとはな・・・」


 どうやら犯行がバレたらしい。


「おお、なんとむごい・・・」

「よゆーよゆーって言ってたのに」

「アレ生きてるのかしら?」


 親父達も虎徹さんを憐れんでいるようだ。


「でも魔石なら2800個ほど戻って来ませんでした?」

「それは回収した。だが魔石を根こそぎ持っていかれたから、丸一日ゴーレムが使えなかったんだよ!」

「犯人の目星は付いていたのだけれど、暗くなるまで帰って来ないんですもの!」

「こっそり魔石を返しに来た所を捕まえて、10人でボコボコにしてやったにゃ!」


 案の定、軍の皆に袋叩きにされたようだ。

 ダメージが通るように、一般服に着替えさせられているのが哀愁を誘う。


「とまあ、その場にいた全員で袋叩きにしたわけたが、それから1時間近く宇宙刑事の格好良さを全力アピールされてな、あまりにも必死だから最後に泣きの10連だけ回させてやることにした。俺達は見届け人だ」

「1000連回してダメだったのに、焼け石に水じゃないですかね?」

「いや逆だ。物量で当てようとしたのが敗因だと思っている。要は気合の問題よ!軽い気持ちの1000連に価値など無い。魂の宿った本気の10連に勝機を見出す、それがガチャラーの気概ってもんだろ!」


 おお、なんと説得力のある重い言葉なんだ・・・。

 言われてみると確かに一理あるな。


「なるほど、そういうことなら俺達も最後の戦いを見届けるか。グミ、狩りを始めるのが少し遅れちまうけどそれでいいか?」

「魂の10連は見逃せないよ!」

「だな。男の意地ってヤツを見せてもらおう」

「コテツ商店も閉店ね。いっぱい買っといて良かったわ!」



 欲しい物を全て手に入れることが出来たこの三人が真の勝ち組ってわけだ。

 俺はただの転売人だし、虎徹さんは見ての通りの惨状だし。


 満身創痍の虎徹さんが失敗しないかちょっと怖かったけど、なんとか無事にアリアダンジョンへと転移した。



「コテツ、分かってるな?10連が終わったらお前はダンジョンに一ヶ月籠って魔石集めだ。勿論その間はガチャを回すことなど許されない」

「約束は守るぞ!そしてその苦行を乗り切るためには、絶対に宇宙刑事の衣装が必要なんだ!この10連に命を懸ける!!」

「凄い気迫にゃ・・・」

「その衣装って、それ程までに良いモノなのかしらね?」



 虎徹さん、一ヶ月間にも及ぶ労役をくらってんじゃん・・・。

 モチベを保つためにも、泣きの10連ガンバレ!今日は全力で応援しますぞ!

 

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