第661話 ゴブリンを見た後ならば骨も怖くない

 実際に戦ったのは俺だけど、ゴブリンの洗礼で意気消沈した三人と共に部屋まで戻って来た。


 いきなりアレを見せたのは失敗だったかもしれんけど、このダンジョンをナメて大怪我する方が心配だから、たぶん間違ってはいないと思うんだよね。



「まあ、いきなりのゴブさんだから自信が無くなるのは分かる。でも俺とルシオはもっと低レベルの時にアレを見せられたんだぜ?理由は一つ。このダンジョンをナメていると死ぬからだ」



 というわけで、このダンジョンの危険なポイントを説明していった。


 人魚や死神のヤバさはもちろんなんだけど、闇コブリンや弓ゴブリンなんかも気を抜いたら簡単に死ねるので、このダンジョンは京の都ダンジョンと違って、気楽に通路でおしゃべりなんてしていられないのだ。


 最後に、虎徹さんのベッドは使わないように注意した。



「とまあ注意事項を聞いてるだけでガクブルかもしれんけど、皆の実力ならゴブリンとさえ戦わなければ問題なく攻略可能なハズだ」

「案ずるより産むが易しというしな。えーと・・・、魔石集めが重要らしいが、魔物の素材なんかは無視して構わんのか?」

「1階層だと最初に出て来る骨が持ってる鉄の剣がクッソ美味いんだが、三人の目的はガチャとレベル上げだから完全無視でいい。あとデカい狼がいるんだけど、超高級毛皮が手に入り肉も美味い。正直かなりもったいないけどこれも無視していい」

「あっ!もしかして、お城で解体した時にもらった毛皮!?」

「そうそう!グミとチェリンの部屋に敷いてあるヤツだ」


 マジックバッグからシルバーウルフの毛皮を取り出した。


「この超高級毛皮なら俺の部屋にもあるぞ!カーラちゃんが部屋に敷いていってくれたんだよ」

「あ~、親父の部屋にもあったのか」

「これを無視するのって無理だよ!」

「血の涙を流すことになるわね・・・」


 おそらく現代日本だと何十万もするレベルだからな。

 それで毛皮のコートなんか作ったら100万でも売れると思う。


「でもシルバーウルフってすげーデカいから、1体倒してこの部屋まで運んでーなんてやってたら、時間ばかり掛かって非常に効率が悪くなるぞ?勿体ないのは分かるが心を鬼にしてガン無視してくれ。気軽に来られるようになったんだから、そういうのは余裕がある時にしようぜ」

「だな。素材集めなんかは謎の鞄を持っている小烏丸に任せておけばいい」

「う~~~、頑張って無視するよ・・・」

「でも魔石だけは集めなきゃダメよ?」

「あ、忘れてた!」


 マジックバッグから普通のリュックを三つ取り出した。


「手に入れた魔石はこいつに入れてくれ」

「おお、リュックなら背負ったまま戦えるな!」

「ありがとー!」

「この鞄が魔石でいっぱいになるまで狩ったら戻って来る感じにする?」

「それでいいと思うけど、その前にまずは雑魚敵を倒せるかだな」


 あ、聖水の説明がまだだった。

 でもチェリンとグミは妊婦かもしれんから、聖水が飲めないのか・・・。


「悪い!聖水の説明すんの忘れてた。こっちに来てくれ」



 女神の泉まで移動した。



「俺達は『女神の泉』と呼んでいるんだが、これが毎度お馴染みの聖水だ!」



「「おおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!」」



 過去にアリアダンジョンに連れて来た数人を除き、ほとんどの人が俺が用意した入れ物に入った聖水しか知らないから、源泉を見てメチャクチャ感動している。



「でも私とチェリンは飲めないんだよね・・・」

「そうなのよね~」

「怪我をした時に、傷口にぶっかけるくらいならいいんじゃないか?」

「それくらいならいいのかな?」

「傷口にかけるだけなら赤ちゃんに影響が出ない気もするけど・・・」


 そもそも赤ちゃんに影響を及ぼすかどうかも全く分からない状態だから、適当なこと言えないんだよな~。


「怪我をして高熱が出たりするのも良くないと思うから、やっぱり切り傷なんかは治すべきだとは思うけど、まあ怪我をしないことが一番ではあるな」

「私は雑魚敵としか戦わないよ!」

「私もそうしようかな?ゴブリンはお義父さんに任せるわ!」

「無理はしない方がいい。俺もあのゴブリンを倒せるのか分からんけどな」

「親父なら、レベルさえ上げればいけると思うぞ?」


 マジックバッグから水筒を三つ取り出した。


「コレに聖水を汲んで各自持ち歩いてくれ。使わないとしても奥の手はあった方がいいに決まってる」

「だねー!」

「俺は普通に飲むが、源泉の聖水って遠慮せずに飲みまくってもいいのか?そこに柄杓があるってのはそういうことだよな?」

「もちろん飲み放題だ。俺なんか風呂代わりに女神の泉に浸かってたぞ?」


「「それはやりすぎ!!」」



 三人が水筒に聖水を汲み、これで準備は整った。



「んじゃそろそろ実戦と行こうか!最初の骨は1体だから戦うのはグミにしよう」

「うぇえええええええええええええ!?」

「その次の骨は3体同時なんでチェリンが一人で戦い、その次は5体同時だから全部親父に任せる」

「いやいやいやいやいやいや!いきなりその数って大丈夫なの!?」

「初陣が5体同時ってスパルタ過ぎるだろ!!」

「ミスフィートさんなんて、何も考えずに一人で突撃して行ったぞ?」

「隊長はちょっとおかしいから!!」

「それなら大丈夫なのかな?」

「ん~、あの子は滅茶苦茶つえーからなァ」



 というわけで、ゴブさんがいた反対側の通路に入った。



「骨はちょっと怖いけど、気を抜かなきゃ大丈夫だ。自分を信じろ!」

「う~~~、やってみるよ・・・」



 グミを先頭に通路を進むと、最初の骨が現れた。

 邪悪なオーラを放ちながらカタカタとこっちに向かって来る。


 その姿を見て一瞬怯んだグミだったけど、覚悟を決めて骨に突っ込んで行った。



「ハアアアアアッ!」



 ジャキン!



 何だかんだで、グミのミスリル刀の一撃で骨は砕け散った。

 恐怖心さえ克服すれば、あれくらいどうということはないのだ。



「ハアッ、ハアッ、ハアッ、怖かったーーーーーーーーーー!!」



 パチパチパチパチ



「最初はちょっと怖いけど、戦ってみると案外余裕だったろ?」

「うん!」

「なるほど~、今のが1番弱い魔物だなんて信じられないくらいね。でもあのゴブリンに比べたら速度は大した事無かったから3体でもいけるかも」

「俺なんて5体だぞ!」

「今のチェリンの考え方でいいんだ。『ゴブリンと比べれば楽勝』って考えてるだけで魔物への恐怖心は消える。ゴブリンへの恐怖心がデカくなっちまうけどな」



 臆病な性格だから弱そうに見えるグミだけど、彼女もまた幾度いくたびの戦場を生き抜いてきた猛者の一人なのだ。


 恐怖心さえ乗り越えれば、1階層の魔物くらい無双出来るようになるだろう。

 チェリンも親父も、おそらく余裕で最初の試練を乗り越えるハズだ。


 さてさて、皆をダンジョンに放流したら待望のガチャタイムだぜ!

 

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